赤の山にて 青の拒絶と白の無関心
話の中に、差別表現が出てきます。あらかじめご了承の上でご覧ください。
少しして鎮める青の青い霧が晴れると、刺激する赤で動けなくなっていた青の竜人達が集まってきた。
「彼らが私の護衛をしている水守達なのだが、私の周りには常に彼らがいる事を初めに言っておくべきだった。すまない」
「姫様が謝る事はありません!!」
「姫様?」
「そうだ!! この方は水添え候補第一位にして、青の村の現村長の孫でもあるのだ。貴様のような欠色が関わって良い存在ではない!!」
「ヌイジュ、止めないか!! ヤート君からではなく私が頼み込んだんだ。私の頼みを受けてくれた彼は言わば私の恩人だぞ!! その恩人を侮辱するな!!」
「しかし、姫様……、このものは」
「それとも何かい? 私の交友関係は君達に管理されなければならないのかな?」
「け、決してそのような事は……」
「じゃあ、なぜ?」
「それは……」
勝手に盛り上がってる。そう言えば、あの決闘の時も勝手に盛り上がってた。黒以外の竜人は盛り上がりやすい性質なのかな? っていう変な考えが浮かぶけど本音を言えばさっさと離れたい。でも、流れ的に何も言わないで離れても面倒くさい事になるし、何か言ったら言ったで面倒くさい事になるんだよね。はぁ、とにかく面倒くさい。…………どっちがマシかで考えたら、まだ何か言っておいた方がマシな気がする。
「イリュキン、散歩を続けたいんだけど?」
「本当に、すまない。君の時間を邪魔してしまった。この埋め合わせは後日させてもらえないだろうか?」
どんな風に答えても面倒くさい事になる予感しかしない。現に周りの奴ら――水守だったかな――が思いっきりにらんできてる。…………はっきり言って、さっさと離れよう。あとになって何か起こっても、その時対応すれば良いだけだしね。
「遠慮する。今後、僕に関わってくるのは自由だけど、できれば周りをちゃんと制御できるようになってからにしてほしい」
「貴様!! 「黙っててくれ」…………申し訳ございません」
「本当に、今日はすまない。後日、正式な謝罪をさせてほしい」
「うん、じゃあね。行こうか」
「ブオ」
「待て!!」
はぁ、このままお互い黙ってたら別れられるのに、なんで声を掛けてくるかな。無視したい。面倒くさいから、すごく無視したい。散歩したいだけなのに、なんでこんな感じになるんだろ? ……現実逃避しててもしょうがないか。
「何?」
「俺達、いや少なくとも俺は貴様を認めない。絶対にだ!!!!」
「ヌイジュ!! やめないか!! 今すぐヤート君に「不思議な事を言うね」ヤート君?」
「別にお前らに認められなくても何一つ不自由ないのに、なんでお前らに認められないといけないの?」
「なんだと!!」
「わざわざ呼び止めて言いたかった事は、そんなどうでも良い事? それとも、まだ他にある?」
「おのれ!!」
「ないっぽいね。それじゃあ、散歩を続けさせてもらう」
「待て!!」
一回振り向いたから、もう無視する。仮に水守全員が僕を気に入らなくても、主であるイリュキンが見ている前では何もできないだろうしね。……すれ違う時に「欠色風情が」とか「半端物め」とか小声で言ってくる。この世界だと欠色に対する対応としては、これが普通なのかな? それとも、竜人族を含む上位種族の反応かな? ……考えたら、すぐに結論が出た。他人にどう思われようと、欠色の僕は僕だし心の底からどうでも良いや。そんな事より散歩だ。
あれから新たな面倒事が起きる事もなく、その辺にある果物を食べながら散歩をしている。……平和だね~って、思わず声に出したくなるぐらい、破壊猪とのゆったりとした時間が流れる。やっぱり、こういう落ちつける時間は大事だな。
「さっきは、ごめん」
「ブ?」
「僕の魔法に巻き込んだり、面倒くさい奴らに関わらせたりね」
「ブオ」
「気にするなって言われても……」
「ブォォ」
「そうだよ。ゆっくり散歩したいだけなのに、なんで面倒がついてくるのかな?」
「ブオ、ブオ」
「まあね。どんな時も、お前の言うようにいつも通りやるだけ。とは言っても、わざわざ面倒に会いたくない」
「…………ブオ」
「それはしょうがないって、なんで?」
「ブブォ」
「あー、そうだね。面倒の方から寄って来たら、避けようがないか……」
「ブオ」
「はぁ、お前に会えたのは嬉しいけど、それ以外じゃ交流会に来て面倒ばっかりだよ」
「……ブオ」
「わかってる。現実逃避は良くないよね。…………それで、なんか用? 水守のヌイジュだったかな?」
僕が呼び掛けると苦々しい顔をしたヌイジュが少し離れた茂みから出てきて、さらに別々の方からも一人ずつ僕と破壊猪を囲むように出てきた。それにしても対象を囲むのが水守の定番なのかな?
「欠色如きが気安く俺の名を口にするな。虫唾が走る」
「なんか用のって聞いてるんだけど? 水守のヌイジュ」
「貴様っ!!」
「はぁ、行こうか」
「ブ」
赤と青の竜人族がこういう感じだと、他の竜人もこんな感じかな? 僕から関わる気もないけど、その時の事を考えると気が重い。
「水弾!!」
水守達の間を抜けようとしたら僕と破壊猪のすぐそばを、水の塊が通り過ぎて行った。当たらなかったとは言え、他色の竜人に向かって魔法を発動するとか、こいつ頭おかしいぞ。周りにいる奴らも驚いてる。
「ヌイジュ!! 他色に向かって何をしている!!」
「黙れ!! 俺はこいつを認めない!!」
「だからと言って、魔法はやり過ぎだろう!! 俺達はお前が忠告に行くというから共に来たんだ!!」
「チッ!!」
「……忠告ね。何の?」
「今すぐ交流会から去れ!! 姫様に関わるな!!」
「無理だね。当たり前だけど交流会に関する決定権は僕にはないから。例え僕が心底帰りたいと思っても、僕を帰らせるかどうかを決めるのは黒の顔役であるラカムタさんだ。交流会では顔役が決定権を持つ。それはどこも同じはずだけど?」
「ぐっ」
「その反応だと、自分が的外れな事を言ってる自覚はあるわけだ。だったら正式に青の顔役からラカムタさんに僕の事を伝えれば良い。そしたらラカムタさんも考えると思うよ」
「……その目、その口調だ」
「何?」
「貴様の目、貴様の口調、姫様へのあの態度全てが気に入らん。欠色の半端者の分際で貴様は周りを見下している。それが気に入らん!!! 半端者は半端者らしく、地べたにはいつくばるようにしていろ!!!!」
「はぁ……、面倒くさいな。勝手に一人で盛り上がってるところで悪いけど、そもそも別に僕はお前らを見下してない。なぜなら僕はお前らに一切興味がないから」
「なっ!!」
「聞こえなかった? 僕はお前らに、ほんの少しも興味がないから見下しようがないよ」
「…………そうか」
僕がはっきりと自分の気持ちを伝えると、前方にいるヌイジュがうつむいてヒドく冷めた声でつぶやいた。すると、その声を聞いた他の水守達が焦り始める。
「これ以上は不味い。ヌイジュ、落ち着け!!」
「…………」
「クソッ、仕方がないか。おい、合わせろ。ヌイジュを縛るぞ」
「「「「水縛!!!!」」」」
様子が変わったヌイジュを他の水守達が、魔法で水の膜を発生させてヌイジュの首から下を隙間なく包み込んだ。その水の膜からはドプンっていう音がするから、かなり粘度が高いらしい。完全にヌイジュが四重の水の膜で覆われた事を確認すると、水守の一人が近づいていく。ヌイジュに近づいている水守も、それを見ている水守達も、かなり警戒している。なんでそんなに警戒するんだ?
「ヌイジュ、悪く思うなよ。これ以上は見過ごせん」
「…………お……の…………な」
「ヌイジュ?」
「……俺…………るな!」
「ヌイジュ!!」
「俺の邪魔するな!!!!!!」
拘束具と化して完全に止まっていた水の膜が、ヌイジュがつぶやく度に波打ち、ヌイジュが叫ぶと同時に弾けて水弾になり逆に他の水守達へ襲いかかった。なるほど、こいつは暴走癖があるわけか、それならあそこまで警戒するのも納得できる。ヌイジュが血走った目を僕に向けてきた。
「貴様は、貴様だけはこの場で殺す!!!!!!」
今日だけで何回思ったんだろう。本当に面倒くさい……。でも、まず何よりも先にする事がある。
「ごめん」
「ブ?」
「また、完全に巻き込んだ」
「ブオ」
気にするな……か。本当に破壊猪は良い奴だ。それじゃあ、さっき思った通り面倒な事態になったんだから何とかしよう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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