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黄土の村にて 試みの代償と予期せぬ限界突破

 グレアソンさんの言う僕にとっての最悪な状況である接近戦を十分以上してるわけだけど……、わかった事がある。この戦い方は頭への負担が大きい。思った以上に大きい。グレアソンさんの動きの感知、強化魔法(パワーダ)、掌の魔力塊の制御を同時にするのが、ここまで難しいと思わなかったよ。まあ、無視できる範囲なんだけど、ぶっつけ本番で試すものじゃないね。


「良いね。坊や、もっと見せてみな‼︎」


 一応、グレアソンさんを喜ばせるぐらいの動きができてるみたいで良かった。こんな風に考えながらも、僕の顔を狙ったグレアソンさんの拳を避け、反撃としてグレアソンさんの伸ばした手に魔力塊を叩きつけようしたとしたけど、手を戻すのが速くて当てられない。こういう場合は変に追撃は狙わず二歩退がる事が大事。なぜなら……。


「フンッ‼︎」


 ほんの少しでも僕の動きが鈍るとグレアソンさんの打撃が飛んでくるからだ。ちなみに今のは僕の横腹を狙った蹴りで、避けるには避けたけど蹴りがかすった服がパチッと弾けた。……どう考えても当てられたらダメな奴だね。


 それでも今までのグレアソンさんの打撃を通して、だいぶ動きを先読みする精度が上げられたから良しとしよう。まずグレアソンさんは近づいてくるので、その前に僕から接近する。……良し、一瞬硬直したから虚をつけたみたいだね。次に僕はグレアソンさんの後ろに回り込み腰を狙……ったけど、グレアソンさんは身体を半回転させ肘を放とうとしてきたから、しゃがんで肘を避けて今度はグレアソンさんの膝を狙った。


 ゴッ‼︎


 ……良い感じにグレアソンさんの膝関節に当てられたけど効いてない。やっぱり僕の場合は万全の体勢で当てないと威力を出せないみたいだ。あとグレアソンさんは受けてくれるって言ってたのに、グレアソンさんの攻撃が激しいから僕の方から攻撃する機会がそんなにないんだよね。……って、そんなどうでも良い事を考えてる場合じゃない。グレアソンさんの膝蹴りが来る。


「坊や、ちゃんと反応するんだよ‼︎」

「ク……」


 僕はできるだけ後ろに跳びながら腕を交差してグレアソンさんの膝蹴りを受けた。……衝撃が重すぎる。そこそこ威力を減らせてるはずなのに掌の魔力塊は壊れて、腕だけでなく身体中の骨がギシギシ軋んでるのが分かった。これは着地してからが危ないかもしれないな。


「グ、エ」


 着地の体勢を制御できなくて背中から落ちてしまった。これはただでさえ乱れた呼吸が、より乱れて動けなくなる奴だな。…………まずい。呼吸が乱れすぎたせいで集中も乱れて、無視してた頭への負担を自覚してしまった。


「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」


 今、感じてるのはズキンズキンという頭を潰すような鈍い頭痛、呼吸困難、無理な動きを続けたのが原因の筋肉や関節の炎症、あとはグレアソンさんの膝蹴りで衝撃で小さな亀裂骨折多数っていうところか。目を開けたら視界も歪んでるし音が聞こえづらいっていう割と満身創痍なんだけど、まだまだ大丈夫。なぜなら前世は今の状態よりもひどかったからだ。この程度じゃ死なないってわかってるから問題ない。


 …………ほら、ゆっくり立ち上がれた。うん? 何か呼ばれた気がして後ろを振り返るとラカムタさん達や兄さん達が僕を見て口を大きく開けてるから僕に向かって叫んでるようだね。でも、聞こえないからわからないや。ごめん。


 さて、グレアソンさんは……、まだ広場の中央にいるみたいだね。行くか。……あ、一歩踏み出したら身体が揺れた。……………………いろいろ邪魔だな。そうだ。前世でまだ自発呼吸ができてた時にやってた、あれをやろう。僕は無理やり息を吸った後、痛み、苦しさ、気持ち悪さ、他の動くのに支障がある全部の事が身体の中に満たされているのを強く想像した。そして、その全てを息を吐くとともに口から出ていくのをさらに強く想像した。…………うん、これで自分の中の余計なものは何も感じなくなったから動けるね。


「……………………」


 グレアソンの口がパクパク動いてるから僕に何かを言ってる。でも、それも聞こえないから代わりにグレアソンさんのところへ歩いていく事で決闘を続行させる意思を伝える。ああ、この静けさは久々だ。懐かしく思いながら再びグレアソンさんの前に立つ。


 …………あれ? これって? 僕は、たぶんこれ以上僕が動かないよう抑えるために僕の右肩に置かれたグレアソンさんの左手をつかみ、グレアソンさんをヒョイっと背負い投げで投げた。……やっぱり、この感覚は気のせいじゃないんだね。僕に投げられて呆然として倒れてるグレアソンさんに近づいて頭を蹴ろうとしたけど、それを察知したグレアソンさんは素早く飛び起き僕から距離を取った。


 どう反応して良いのかわかっていないグレアソンさんへ自然体で歩いて行き、スルッと横へ回り込みながら足を払って少しだけ身体を浮かせる。そしてあお向きで身体を泳がせている脇腹を殴った。グレアソンさんは、なんとかとっさに手を地面で叩き反動で体勢は立て直したけど、その顔は驚きと少しの苦痛が混ざっている。まあ、僕に二度も良いようにされるとは思ってなかっただろうし、まして僕の打撃で損傷を受けるとも思ってなかったからしょうがないよね。


 それにしても何でここまでグレアソンさんの重心の位置とか無防備な部分なんかがわかるようになったんだ? いくらなんでも精度が上がり過ぎてる。原因として考えられるのは…………、やっぱりさっきやった吐き出し? 自分の中の余計なものを吐き出すという事は自分の中をきれいにする? 自分の中がきれいになるって事は…………雑念がなくなるとか? 要は落ち着いてて集中力がものすごく上がってる状態っぽいな。あとは死なないにしても、それなりにひどい状態だから火事場の馬鹿力みたいな感じにもなってるのかもしれない。なんにしても今の状態ならグレアソンさんとも良い勝負ができそうだ…………な?


「……………………」


 僕が今の状態に結論をつけて動き出そうとした時、僕の前には父さんがいて口を動かしてたから何か話しつつ僕を抱きしめてくる。そして僕の右のこめかみを軽くトンって叩くと、僕の身体から力が抜け意識が遠のいていった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


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