異常との対面にて 有効な仕込みと打ち上げ
純粋なる緑の大浄化の効果が発動している証の深緑色の光が消えるまで、それなりの時間がかかっている。やっぱりリザッバはかなりの実力者で、そのリザッバの作った空間は広く頑丈だったらしい。まあ、そのおかげで一つの仕込みが効果を発揮してるから良しとしよう。…………お、リザッバの空間は消え去り元の場所に戻ったみたいだね。土の匂いを感じるのも久々な気がするよ。
「ヤート、今度こそやったのか?」
兄さんの疑問には首を振って空を指差して答える。
「上がどうかしたの……、やべえっ‼︎」
空間を丸ごと消し去る僕の魔法をくらったリザッバの欠片が僕達の上空から大量に降り注いできた。欠片の状態を感知する限りズタボロで動ける感じじゃないけど、純粋なる緑の大浄化の直撃で消えなかったのは驚きだ。……もともと耐久力があったのか、とっさに防御したのかのどっちかな?
「マルディ‼︎」
「おう‼︎」
「「はあっ‼︎」」
「私達もやりますよ」
「「「「「「はい」」」」」」
兄さんの叫びに素早く反応したラカムタさんと父さんや黄土のみんなが竜人息を吐いたみたい。感知してるリザッバが破壊されていく。純粋なる緑の加護で受け止められると思うけど、欠片が小さくなるならより確実性が高まるからありがたいね。僕は僕で純粋なる緑の加護の上部を厚くして欠片の激突に備えよう。
ズズン。
どんどんリザッバの欠片が純粋なる緑の加護にぶつかるのを感じる。……欠片は全く反応を示さず地面に転げ落ちた。あのしぶとい魔石の仲間だから何かの反撃が来るかと身構えてたんだけど…………あれ? 界気化の精度を上げ感知範囲も広げて周りに注意を向けると、なんというか薄い魔力のモヤみたいなものが一番大きな欠片から出てくるのに気づいた。他に妙なものはなさそうだから、魔力のモヤに最高精度に上げた界気化した僕の魔力を集中させる。…………リザッバの魔力っぽい。
最高精度の界気化でギリギリわかるくらい薄いリザッバの魔力のモヤが正面に回ってきた。その後も感知で様子を伺っていると二歩分くらいの距離まで近づくとモヤがギュッと縮まる。
「死ね‼︎」
「ヤート、避けろ‼︎」
縮まった薄いモヤから飛び出てきたリザッバの右手が腹部を貫くのを感じた。きっちり反撃の手段を残してたのか。つくづく厄介だね。
「よくもヤートに手を出したわね‼︎」
「はははハははハハ‼︎ これで我らを脅かすものはこの世界にいなくなった‼︎」
「このやろう‼︎」
「亜人風情が邪魔をするな‼︎」
「うおっ⁉︎」
リザッバは近づいてこようとする兄さん達に、またヘドロを出して牽制したみたい。本当に迷惑だな。
「貴様は貫くだけでは足りん。念入りに壊してやる。まずは肩からだ‼︎」
「ヤート君‼︎」
…………うーん、これ以上はみんなに悪いし、そろそろ動くか。リザッバの左手が肩にめり込んだ時、それは起こる。
「な、なんだこれは⁉︎」
まあ、いきなり自分の両手が貫かれた腹と壊された肩の傷口からあふれてきた植物の蔓でガチガチに固定され動かせなくなったら混乱するよね。
「世界樹の杖、僕を地上に出して」
ふー、世界樹の杖の根に包まれて地面の中にいたのは少しの間だけど、やっぱり空が見える方が良いな。視線を空から周りに向けると兄さんがぎこちない動きで近づいてくる。
「ヤ、ヤート……だよな?」
「そうだよ」
「じゃあ、あれは……?」
「バカな⁉︎ なぜ、貴様がそこにいる⁉︎」
「お前が僕だと思って攻撃したのは、純粋なる緑を纏う擬態花だよ」
僕が言うと僕に化けている擬態花がニヤリと笑う。そしてリザッバによってつけられた傷口のように見える部分以外の全身からも大量の蔓を伸ばしリザッバの身体中に巻きつけていく。
「ぬおおお‼︎ いつ変わっ……いや、なぜ我は気づかなかった⁉︎」
「正直ここまで入れ替わりっていう単純な仕込みがうまくいったのは予想外だったよ。いつって聞かれたら純粋なる緑の大浄化の深緑色の光で、お前の視界と感覚が効かなくなった時。入れ替わった事に気づかなかったのは、その擬態花には大規模魔法一回分の魔力を込めてるから特性の一つの擬態が極限まで強化されてるせいだね。要は擬態能力が強化されて、もう一人の僕と言えるような状態になってる擬態花に、追い込まれて冷静になれないお前には気づけないっていう事。」
「く……、ならばこの蔓を引きちぎるだけだ‼︎ 今度こそ貴様を壊してやる‼︎」
リザッバが擬態花の蔓の拘束を解くため力を入れるが、何も変化を起こせない。というか、そもそもピクリとも動けてない。
「動け‼︎ なぜだ⁉︎ なぜ、動けん⁉︎」
「その擬態花の二つ目の特性の捕獲が大幅に強化されてるからね。大概のものは捕らえて動けなくできる。そして獲物の好きなものに擬態して触れた獲物を捕らえて食べるっていうのが一連の流れなんだけど……」
擬態花が顔をしかめて首を横に振り全力でリザッバを食べたくないって表現してるね。好き好んでヘドロを使うような存在を食べようとする奴なんていないか。
「くそ‼︎ ガボウブッ‼︎ ゴブッ‼︎」
おお、リザッバが手を動かせないなら口だとばかりに口を開けてヘドロを吐こうとしたところ、擬態花は蔓を伸ばしてリザッバの口を開けないように固定した。……うーん、さすがに他にヘドロを放てる部分はないと思うけど変に抵抗されても面倒くさいし、そろそろ決めよう。
「緑盛魔法・超育成・世界樹の杖・純粋なる緑を纏う樹根触腕」
「グッ‼︎ ウグッ‼︎ ウウッ‼︎」
僕が魔法を発動すると若木状態の世界樹の杖の根元から深緑色の光る根が何本も伸びてきた。リザッバは危険を感じても当然動けない。さて、次の段階だ。
「緑盛魔法・純粋なる緑を纏う樹根撃拳」
この魔法で世界樹の杖の根が巨大な根の拳を形作り拳部分が深緑色に強く発光する。これだけの大質量で浄化の力を叩き込めば間違いなく通じる……はず。まあ、これでダメ時はまた考えるだけだね。…………あ、しまった。僕はリザッバから視線を外さないまま、みんなに聞いた。
「勢いで決める一撃を準備したんだけど、このまま僕がやって良い?」
「「「「「「…………」」」」」」
「もし、ラカムタさん達にカイエリキサさんや黄土のみんなも、リザッバへぶち込みたい何かがあるなら先にどうぞ」
僕が言うと、みんなは声に出さず相談する雰囲気が伝わってきた。どうやら目線とかしぐさでお互いの意思を確認してるみたいだね。時間がかかりそうだと思っていると、すぐにみんなの意識が僕に向いた。
「あー、確かにそいつはむかつく。しかしだ。黒の代表としてヤートが一撃を入れてくれるなら俺達に文句はないぞ」
「そうですね。ヤート殿に決めてもらった方が強烈だと思うので黄土も黒の方々と同意見です。ヤート殿、全力でやってもらって構いません」
「わかった。それじゃあ、絶対にこれで決めるね。世界樹の杖、お願い」
世界樹の杖から蓄積していた残りの魔力のほとんどが純粋なる緑を纏う樹根撃拳の拳部分へ流れていった。その結果、拳部分はさながら小さな深緑色の太陽と言える状態になる。…………体勢的にリザッバには見えてないだろうけど、リザッバから恐怖の感情が伝わってくるから自分がこの後どうなるか想像がついてるんだね。
「擬態花、巻き込まれないようにリザッバから離れられる?」
「ウウッ‼︎ ウッ‼︎ ウーーー‼︎」
擬態花はうめいてるリザッバを無視してリザッバを振り回しポイッと空中に放り投げた。蔓で動けないリザッバが良い感じに落ちてくる。正にこれは純粋なる緑を纏う樹根撃拳の一番殴りやすい角度・速度だね。
「お前の負けだよ。じゃあね。純粋なる緑を纏う樹根撃拳」
「ウーーーーーー‼︎ ウビャッ……」
下からすくい上げるように殴る純粋なる緑を纏う樹根撃拳が落ちてくるリザッバに会心の一撃を打ち込んだ。一瞬つぶれた声を出したリザッバは空高く昇っていき、雲ぐらいの高さになった時に昼間でも目を閉じてしまうような眩しい深緑色の光を発した。そして、その光が収まるときれいな青空が広がる。界気化した魔力を全力で周りに放ちリザッバを探すけど、どれだけ探しても見つからない。周囲の植物達に聞いてみても欠片すら落ちてきていない。擬態花にリザッバに巻き付けていた蔓の行方を聞いても無くなったとしか返ってこない。…………うん、今度こそ決着だ。魔石関連は毎回思ってたけど、今回も思ったね。本当に面倒くさかった。
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