異常との対面にて 不快な存在と空間
森を抜けた僕達の視線の先で普人族に見える男が地面に片膝を着き動けなくなっていた。遠目で見る限り金髪で顔は僕の位置からは見えないけど服装が教会とかにいそうな感じだっていうのはわかる。…………まあ、普人族 の住んでるところから相当離れた大霊穴のあるこの場所に一人でいる奴が普通なわけはない。みんなもあいつを完全に敵だと認識しているみたいだ。
「ヤートが夢の中で戦った奴はあいつか?」
「僕が夢で戦ったのはヘドロの塊みたいな奴だからあいつとは違う。でも、確実に関係はあるね」
「なるほど。……カイエリキサ殿、できるだけ速やかに潰すべきだと思うが?」
「そうですね。異論はありません。あなた達、くれぐれも油断しないように」
黄土のみんなはカイエリキサさんの言葉を受けて身体から魔力を放ち出す。ラカムタさんと父さんに三体も同じで、兄さん達は僕を守るように位置取った。
「ラカムタさん、何をしてくるかわからない相手に近づくのも危険だし僕が遠距離で仕掛けて良い?」
「…………」
「私は構いませんよ」
「だそうだ。ヤート、遠慮するな」
「わかった。緑盛魔法・世界樹の杖、純粋なる緑の魔弾」
僕は腰の世界樹の杖を杖の状態にしてから魔法を発動する。そして緑の弾丸を複数生み出し、あいつに向かって放った。一つ一つにそれなりの力を込めてるから防ぐのは難しいと思うけど、どうかな?
「ガボッ‼︎」
「……………………気持ち悪りい」
僕達の気持ちを兄さんは代弁してくれた。まさかあいつがふらつきながら立った後、口からヘドロを吐き出して純粋なる緑の魔弾を迎撃するとは思わなかったな。…………やりたくないけど、あいつの考えを界気化した魔力で感知した方が良さそうだ。僕が手を伸ばし界気化した魔力を放とうとした瞬間、あいつは頭をかきむしり自分の髪をブチブチッと引きちぎる。
突然の行動に僕達が面食らっていたら、頭皮に傷がついたのか頭から液体が滴り落ちてくる。ただし、赤色じゃなく黒色の液体がだ。あいつ身体の内側はヘドロで満たされてるのかな?
「貴様……、よくもやってくれたな‼︎ この死教たるリザッバを傷つけた事が許されると思うなよ‼︎」
「緑盛魔法・純粋なる緑の魔弾」
僕は無視をして、さらに撃ち込んでいく。…………今度は掌からヘドロを放出した。身体中から出せると考えたら、やっぱり無闇に近づくのは危険だね。
「矮小な存在ごときが一度ならず二度までも、このリザッバに‼︎ ふざけるな‼︎」
「けっこう元気だな。それならやっておいた方が良いか。宿り木の矢、お願い。緑盛魔法・宿り木の矢」
「グボァ‼︎」
僕が魔法を発動させると、夢で人型のヘドロに撃ち込んだ位置に宿り木の矢が現れ、リザッバを貫きリザッバの力を奪い身体を蔓と根で縛った。宿り木の成長速度からリザッバがかなりの実力者だとわかるな。
「バカなっ⁉︎ なぜその魔法が私に発動する⁉︎ 人形との繋がりは切り離したはずだ‼︎」
「僕がお前のところに誘導しただけだよ。宿り木の矢の発動主の僕が対象を認識すれば夢と現実の境ぐらい飛び越えれる。なんといっても今の宿り木は魔法だからね」
宿り木の矢は驚愕しているリザッバから容赦なく力を吸い取っていく。リザッバはヘドロを放つから、もっと苦労するかなって思ってたけど良かった。さて、このまま宿り木の矢に力を吸い尽くされて瀕死になってほしいと考えるのは…………ダメだったね。
「おのれぇぇぇぇ‼︎‼︎」
「宿り木の矢、戻って」
僕の意思に答えて宿り木の矢が僕の手に素早く戻った次の瞬間、地面が揺れ始める。すぐに察知して僕を囲もうとしたけど、掌を向けてやらなくて良いという意思を示した。
「ヤート?」
「みんなは周りの警戒をお願い」
「…………わかった。無理はするなよ」
「いつも通りだよ。僕はできない事はしない」
ラカムタさんと話してたら、リザッバの方からピシッという音が聞こえ、見ると倒れてるリザッバの近くの地面にヒビができていた。そのまま見ていたらヒビが、どんどん増えていく。…………地面の揺れにヒビ、なるほどね。数瞬後、リザッバの周りにある地面のヒビから汚泥が吹き出してきた。
「ヤート殿……、あの吹き出したものはまさか?」
「うん、カイエリキサさんの想像通りで僕が大霊穴で感じてた嫌な気配の奴だよ」
「やはり、あのものが私達にケンカを売ってきたものですか……」
カイエリキサさんの言葉に怒りや戦意が現れる。…………みんな戦いたがってるし、早めに準備をしておこう。僕は戻ってきた宿り木の矢を世界樹の杖に触れさせる。
「世界樹の杖、宿り木の矢、お願い」
世界樹の杖と宿り木の矢はガッと腕を組んで気合を入れた感じになり、宿り木の矢が世界樹の杖の内部に入っていく。よし、世界樹の杖と宿り木の矢の間で魔力と情報のやり取りが高速で始まった。あとは待つだけなんだけど……。
「ガベッ、ゴブッ、アブッ……ア……ア……」
汚泥に包まれていくリザッバの気持ち良さそうな声は聞きたくないし、リザッバのヘドロと汚泥の臭いが混ざってひどい。できるなら一瞬だって待ちたくないのと相手の準備が整うのを待つのは愚策だから今のうちに高火力の攻撃を叩き込むべきなんだけど、リザッバの今の状態が気持ち悪すぎてその気が無くなる。今までの魔石といい、このリザッバも周りを不快にさせないといけない存在なのかな? 僕がどうでもいい事を考えてるとリザッバの変化が終わったようだ。
「「「ユルサン‼︎ ユルサン‼︎ ユルサンゾー‼︎‼︎」」」
大きな汚泥とヘドロの塊の表面にリザッバの顔が三つ浮かび上がりうるさいほど叫ぶ。みんながあまりのうるささに顔をしかめていると僕達の見ている世界が侵食された。青空は赤黒い液体に変わり地面から汚泥とヘドロが染み出してくる。そして何より息苦しく身体から力が抜けてきた。
「「「キサマラハスリツブス‼︎‼︎ アトカタモノコサン‼︎‼︎ ワガニクタイヲ、ケガシタムクイヲウケロ‼︎‼︎」」」
「…………ふーん、自分で空間を変えれるのか」
「何が起こった⁉︎」
「あいつは自分に有利な空間を造ったみたいだね。たぶんあいつの大声が届いた範囲は変わってると思う」
「力が抜けている……。つまり私達が弱くなるという事。正しくそのものに有利な世界ですね」
「カイエよ、己の状態だけでなく周りを見てみい。敵の数が増えていっておるわ」
相談役のアステロダさんの言う通り、僕達の周りの地面から染み出した汚泥とヘドロがグチャグチャと音を立てながら人型になっていってる。僕達が黄土の村に来る途中に撃退した泥人形達より多いな。
「「「ソウダ‼︎‼︎ ワイショウナオマエタチニ、イキノコルスベハナイゾ‼︎」」」
リザッバの大声が響くたびに息苦しさと脱力感が増してくるな。みんなの体調を考えたら、そろそろ攻勢にでないとリザッバの物量で押し切られる可能性がある。…………よし、世界樹の杖と宿り木の矢からも補助なら大丈夫だと返答があったので攻めよう。
「緑盛魔法・世界樹の杖、純粋なる緑の加護」
魔法の発動とともに世界樹の杖から深緑色の光と爽やかな森の匂いが広がった。
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