異常を見つけ出す旅にて 合流と視認
兄さんと姉さんを見守りつつ僕達は休んで英気を養っていた。でも、僕の視線と意識は自然と嫌な気配に向いてしまう。気持ちの切り替えが上手くできない事にモヤっとしていると、ラカムタさんが僕の頭に手を置いた。
「ヤート、一つの事を考えないようにしたら、逆にその一つが気になるものだ。変に遮断するんじゃなく、空でも見ながらボヤッと散らしてみろ」
「うーん……、あ、こうか」
ラカムタさんの助言を参考に嫌な気配の細部まで感知してしまうのを、感知する範囲や精度を意図的に下げて抑制できた。こういう意識の使い方みたいなものは、感情の薄い僕でも苦労するんだね。今はこの間に合わせの方法で良いとして諸々が片付いたら父さん達に詳しく話を聞いて、いろいろ試してみようかな。
「よし、治った‼︎ ヤート、確認頼む‼︎」
僕が見つかった課題について考えていると、兄さんが勢いよく立ち上がり僕の方に歩いてきた。そして僕にグイッと自分の腫れの引いた頬を向けてきたから、兄さんの頬に触り同調で確認する。
「うん、腫れも熱も無いし内部も問題ない。完全に治ってるよ」
「そうだろ‼︎」
「ガル、うるさいわよ」
「なんだ⁉︎」
兄さんに近づく姉さんの身体からも違和感は感じられない。いつもの兄さんと姉さんに戻って良かったね。ただ……。
「お前ら、もっと静かにしていろ」
「イテーー‼︎」
「イタッ‼︎ 何、で、私、まで」
ラカムタさんに頭をつかまれるくらいまでうるさくしなくても良いと思う。……チラッとリンリーや狩人達の顔を見てもしょうがないなっていう感じで苦笑してるから、こうやって元気が有り余ってる方が二人らしいのかな?
休憩後は本当に何の問題もなく森を抜けて今の僕達の視界には平原が広がっている。……そもそも経験豊富なラカムタさんと狩人達がいて、高位の魔獣である三体もいるんだ。それに植物達に聞いて安全な場所を進んで来たんだから問題なんて起こりようが無かったね。
「ヤート、森を抜けた今できるだけ正確な情報がほしい。嫌な気配の状況を確認してくれるか?」
「わかった。少し待って」
僕はラカムタさんに頼まれて、嫌な気配に向けて界気化した魔力を放った。…………うん、移動して距離が縮まったからか、村にいる時よりもはっきりと感じ取れる。まあ、感じ取れるのは良いんだけど、これは不味いな。
「うえ……」
「ヤート君‼︎」
「ヤート、どうした⁉︎」
「嫌な気配が気持ち悪過ぎた……」
「ソンナニ気持チ悪イノデスカ?」
「うーん、腐った肉を澱んだ泥水で煮込んだ感じ」
口を押さえて吐きそうになった僕の感想を聞いて、みんなは顔をしかめたり想像して気持ち悪そうにしていた。ここまで不快なものを調べるのは必要な事とは言え気が滅入るけど、僕の役割だから我慢しつつ界気化した魔力での感知を続ける。
「それで嫌な気配は、どうだった?」
「広がってるね。着々と侵食を進めてる」
「……そうか。急ぐぞ。ヤート、進行方向はこのままで良いな?」
「うん、大丈夫」
「出発だ‼︎」
ラカムタさんの合図で僕達は平原を走り始める。チラッと振り返れば鬱蒼とした大神林で、今は平原。大霊湖周辺でも目にした極端な植生の変化は何度見ても興味深い。莫大な魔力は環境を壊してるのか、それとも環境の変化を止めてるのか真剣に調べてみるのも面白いかもしれないね。ただ、今はそんな場合じゃないから莫大な魔力がある場所には、それに耐えれる動植物しか存在できないと思ってれば良いか。
しばらく僕とリンリーを載せている鬼熊を残りのみんなが囲む陣形をとって平原を進んでると、どんどん嫌な気配を強く感じるようになった。それだけ近づいてるという事なんだけど、それにしても気持ち悪い。……もしかしたらみんなにも影響が出てるかもしれないな。
「鬼熊、破壊猪、鼻は大丈夫?」
「ガア」
「ブオ」
嗅覚の鋭い二体は大丈夫。他のみんなは……、僕が見回すと手を挙げたりうなずいてきたから大丈夫みたいだね。とはいえ、これから何が起こるかわからないから気を引き締めて警戒しておく。
さらにしばらく進んだ時、僕は突然界気化した魔力で嫌な気配に囲まれているラカムタさん達に似た別の気配を複数感知した。
「みんな、止まって‼︎」
僕はみんなに呼びかけると同時に鬼熊から飛び降り、腰に巻き付いている世界樹の杖に触れて魔力を通す。そして着地しながら杖状に伸びた世界樹の杖を地面に刺して魔法を発動した。
「緑盛魔法・世界樹の杖、純粋なる緑の魔弾、超育成・樹根触腕」
まず世界樹の杖が僕の魔法を受けて枝葉と根を伸ばし僕の背丈くらいの若木になり緑の力を生み出す。次に緑の力を弾丸状にしてどんどん山なりの軌道で発射していき、最後にラカムタさん達に似た気配へと世界樹の杖の根を最高速で伸ばしていった。遠くで微かに純粋なる緑の魔弾の着弾する音が聞こえる中、ラカムタさん達は僕を中心に円陣を作り戦闘態勢に入る。
「ヤート、何があった‼︎」
「嫌な気配にラカムタさん達に似た気配が数体囲まれてた。たぶん黄土の竜人達だと思う」
「なら、ずっと撃ちだしている緑の弾丸と根を伸ばしたのは⁉︎」
「弾丸は黄土の竜人達を囲んでる嫌な気配を爆撃するためで、伸ばした根は黄土の竜人達を僕達の方に引き寄せるためだよ。………………よし、根が黄土の竜人達に巻き付いたから、こっちに運ぶ。みんな、たぶん嫌な気配も向かってくるから戦闘態勢を維持してて」
「お前達、聞いたな‼︎ 最警戒だ‼︎」
ラカムタさんが宣言すると、みんなの身体から魔力があふれ出す。……予想通り、嫌な気配は黄土の竜人達を追ってきてるけど根の縮む方が速いのは良かった。これなら黄土の竜人達と合流した後、話を聞ける時間が少しは取れそうだね。
純粋なる緑の魔弾で嫌な気配を爆撃しながら数分待つと黄土の竜人達が見えてきた。…………あれは大人三人? しかもかなり衰弱してる。長い時間嫌な気配に追われてたか戦ってたのかな。僕は水蜜桃の種を腰の小袋から取り出し世界樹の杖に埋め込む。
「緑盛魔法・超育成・水蜜桃。兄さん、姉さん、リンリー、水蜜桃を実らせるから黄土の竜人達に渡してあげて」
「任せろ‼︎」
「わかったわ‼︎」
「わかりました‼︎」
僕達のもとへ着いた黄土の竜人達をできるだけ静かに地面に下ろすと、兄さん達が水蜜桃の実を世界樹の杖からもいで渡していく。
「僕は黒のヤーウェルト。弱ってるところ悪いけど、その実を食べて」
「俺は黒の顔役のラカムタだ。その実は食べれるから早く食べてくれ」
「あ、あぁ……」
黄土の竜人達が震える手で水蜜桃の実を食べると、すぐに黄土の竜人達の身体が緑色の光を放ち回復していく。水蜜桃の実は消化吸収が良く栄養と水分も豊富だから緊急時の回復にもってこいだ。しかも僕の魔法と世界樹の杖で強化されてるから効能は倍以上。一つ食べきれば問題なく動けるくらいになるはずだ。
「こ、これは疲労がなくなった……?」
「呆けるのは後だ‼︎ いったい何があったんだ⁉︎」
「そうだ‼︎ あいつらが来る‼︎ 逃げなければ‼︎」
「爆撃を続けてるから、まだ時間はある。あいつらって何?」
「わからないんだ……。ある日突然、あいつらは大霊穴の奥から俺達に襲いかかってきた……」
「他の黄土の竜人達はどうなった?」
「村で篭城している。俺達は他の色に助けを頼むために、なんとかあいつらの包囲を抜けてきたんだ……。頼む‼︎ 黄土の村を救ってくれ‼︎」
「まずは、あいつらをどうにかする方が先だよ」
ちょうど爆撃の隙間を抜けてきた奴らの姿が視認できるようになった。見えてきたあいつらを言葉で表すなら…………かろうじて人型の泥人形だね。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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