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黒の村にて 白の戦い方と白の宣言

 ヒュンッ。


 ヨナさんがラカムタさんの身体を叩こうと木刀を振り下ろしたけど、ラカムタさんははすでに木刀の間合いから退いているため空ぶる。そしてヨナさんは振った木刀の勢いを消せず、ガクッと体勢を崩して膝を着いた。


「ヨナ殿、今日はここまでとしよう」

「ハァ……、ハァ……、あり、がとう、ござい、ました……」

「ヤート、ヨナ殿を頼む」

「わかった」


 あれからヨナさんの村での生活に鍛錬が加わって、ちょうど今、ラカムタさんとの半刻(前世でいう三十分)の模擬戦が終わったところだ。ヨナさんは終始ラカムタさんに全力に近い動きを出すよう誘導されていたけど、最後まで振り絞るように動けていたからすごいと思う。そんな風に模擬戦を思い返していると、疲れ切ってるヨナさんをラカムタさんが運んできたので薬草水を作り出す。


「ヨナさん、これ飲めそう?」

「大、丈夫、です。なん、とか、飲め、ます」


 地面に座り込み息も絶え絶えのヨナさんの様子から飲みやすくするべきと思い、掌大の薬草水を細かい粒状にして十粒ずつヨナさんの口に入れていった。


「ン……、ン……」


 ギリギリだけど自力で飲み込めるみたいで良かった。こういうラカムタさんみたいな実力者の積み上げられた経験から来る見切りの精度を見せられると、僕も今のままで満足せずできる事を増やそうって刺激になるね。しばらくして他のみんなの模擬戦が数回終わった頃、ラカムタさんはヨナさんが落ち着いてきたのを見て僕に声をかけてきた。


「それじゃあ次はヤートの番だ」

「僕? うん、了解」


 ラカムタさんに指名され広場の真ん中に行くと、僕の周りを兄さん・姉さん・リンリー・ポポ・ロロが囲む。


「なるほど今日の僕の模擬戦相手は兄さん達か」

「おう。今日こそヤートに触るからな」


 兄さんが宣言したら他の三人も目をギラつかせ始め、リンリーに至っては、すでに姿が消えつつある。


「全員、準備は良いな? 俺が弾いた小石が地面に落ちたら開始だ」


 空気に緊張が満ちて音が無くなった。僕は界気化(かいきか)した魔力を周りに放ち、兄さん達を感じる。…………うん、兄さん達の内面は猛々しく、リンリーの内面は静かだ。いつもの兄さん達だね。


 コッ。


 張り詰めていた空気が、地面に落ちた小石の発する微かな音を境に激しく動き出す。今日も良い鍛錬になりそうだ。




 体感で一刻(前世でいう一時間)くらい過ぎた頃に、兄さん達との模擬戦の決着がついた。勝敗は……。


「クソッ、またヤートに触れなかった……」

「ハァ……、私達の連携は良くなってるはずなのに……」

「ヤート君は本当に私の戦い方の天敵です……」

「とにかくやり辛過ぎるぞ……」

「何で、あの速さで動いて対応されるのよ……」


 見ての通り僕が兄さん達の攻撃を避け切り、兄さん達の急所に触って僕の勝ちになった。


「兄さん達、お疲れ様。薬草水いる?」

「そこまでじゃねえから大丈夫だ」


 姉さん達も大丈夫っていう返答してきたので、僕は自分の身体を同調で確認する。…………疲れは無し。筋肉・骨・関節・内臓にも異常は無い。それなりに長く激しい兄さん達との模擬戦でも、うまく動けた証拠だね。


 僕が模擬戦の結果に満足して広場の隅に戻ると、ラカムタさんとヨナさんが近づいてきた。……なんかヨナさんの表情がこわばっているけど、どうしたんだろ?


「ヤート殿……」

「何?」

「先ほどのヤート殿の戦い方は、どなたに習ったものですか?」

「青の竜人族(りゅうじんぞく)のイーリリスさんやタキタさんっていう人の戦い方を参考にして、あとは我流だよ」

「あれほどの動きを我流で……」


 ヨナさんはひどく驚いていた。そんなに驚く事かな?


「僕の場合、接近戦で重視するのは敵を倒す事じゃないから、敵の攻撃を避けたり流したりするのだけに集中すれば、あれぐらいは誰でもできるようになる」

「誰でもできるようになるという事には納得しがたいですが、それよりも重視するのは敵を倒す事じゃないというのは……?」

「僕の戦いの主軸は、魔法を唱えて離れた場所から強力な一撃をたたき込んだり、いっしょに戦ってる人達を回復するとか敵の邪魔したりだからね。それでそんな僕が接近戦をするとしたら、敵が対面して戦ってるみんなの間を抜けて僕の前に立った時だけど、僕は攻めなくても敵の攻撃を避けながら時間を稼げば、体勢を整えたみんなが僕と敵の間に割り込んでくれる」

「で、ですが、もし、お味方が敵にたお「ないよ」え?」

「植物達の力を借りて傷は治す。毒や麻痺なんかの状態異常も回復させる。絶対にね。だから、僕より先にみんなが倒される事なんてない。時間さえ稼げば、みんなは敵の前に立って僕に背中を見せてくれる」

「そういう事だな」


 ヨナさんが僕の宣言に困惑していると、ラカムタさんは僕の頭をガシッとつかんできた。


「ヨナ殿、ヤートは誰よりも冷静に場を見極めるからヤートが後ろにいるのは心強いぞ」


 ……ラカムタさんの手から本気でそう思ってる気持ちを感知した。界気化(かいきか)を解いておけば良かったな。こういう直球で褒められて、なおかつそれが本心から言ってるのがわかったら、どんな反応をしたら良いんだろ?素直にお礼を言うべき? それとも流すような感じの無反応が正解?


「あの、ヤート殿……」


 僕が顔は無表情なまま内心で考えてたら、ヨナさんが一歩グッと僕に近づいてきた。 


「何?」

「私と模擬戦をしてください‼︎」

「僕と?」

「はい‼︎」

「今この場には僕より強い人がいるのに?」

「ヤート殿の戦い方を目の前で体感したいんです‼︎」


 ヨナさんの声には、ちゃんと意思が込められていて、まっすぐ僕を見てくる。……ラカムタさんから何も言われない。体調面に問題も無い。特に断る理由は無いか。僕はラカムタさんへの返答をどうするかは一旦おいて、ヨナさんといっしょに広場の真ん中に歩いて行った。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


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