赤の山にて 青と猪
赤の村に来て随分経つけど、やってる事は散歩したり本を読んだりと黒の村にいる時と変わらない。ラカムタさんに聞いても、黒の村に帰る正確な日程は決めてないって言ってた。こんな感じで過ごしてたら、いざ黒の村に戻った時にちゃんと働けるのか心配だ。とはいえ、どれだけ心配してても最終的に、まあ良いか、その時に考えようっていう結論になる。自分の事だけど、のんびりしたものだ。さて、一応の結論が出たところで散歩に行きますか。
それから今日の散歩の予定を考えていると赤の村の門に着く。交流会に来てから何度も散歩に出ている内に、赤の門番の人達とはいつの間にかあいさつして少し話すくらい親しくなっていた。他の赤の竜人には相変わらず身構えられるけど、何にでも例外はできるものなんだね。
「こんにちは」
「おっ、今日も散歩か?」
「はい。通っても良いですか?」
「あーとな、ちょっと時間もらいたい」
「何か問題ありました?」
「いや、坊主に問題はない。ただな、お前に用がある奴がいる」
「……誰でしょう?」
「今、呼ぶ。おい、お目当ての相手が来たぞ!!」
「感謝します」
門番は休憩所になっている小屋に向かって呼びかけた。すると中から、一人の青の竜人の子供が出てきた。
「お前は……」
「すぐにでも本題に入りたいところだけど、その前に自己紹介して良いかな?」
「……どうぞ」
「それじゃあ遠慮なく、私は青のイリュキン。青の中じゃ、次の水添えの第一候補だ」
「ふーん、水添えね」
「聞いた事がないだろうから説明すると、我ら青の竜人族は巨大な湖である大霊湖の湖畔に村を作り、そこで暮らしている。我らにとって水は、すぐ側にあるものであり信仰の対象なんだ。そして水添えとは大霊湖の中央にある水源の島に立ち入りが許され、その島の管理を任された唯一人のものを指す」
「そう、僕は黒のヤーヴェルト。周りからはヤートって呼ばれてる。見ての通り欠色だよ」
「私もヤートと呼んで良いかな?」
「うん良いよ。それで、なんか用?」
「単刀直入に言わせてもらうと、君の魔法について問題のない範囲で構わないから教えてもらえないだろうか」
「決闘の時に言ったけど、僕が自分の手の内を教えると思う?」
「無理を言ってるのは自覚している。けれど、頼みたい」
「質問に質問を返して悪いけど、なんで知りたいの?」
「……そうだね。そこから話さないといけないか。少し話が長くけど構わないかな?」
「特に気にしない。でも、散歩には出たい」
「ああ、私も歩きながらでも構わないよ」
「じゃあ、行こう」
イリュキンと二人で散歩に行く事になった。あっと、一応聞いとかないとダメな事があった。
「一応聞いときたいんだけど、イリュキンは破壊猪が居ても平気?」
「…………おそらく大丈夫だと思う」
そこそこの間が、すごい心配だ。
イリュキンと二人で森の中に入ると、すぐに巨体が目に入りその流れでチラッとイリュキンの顔を見たら完全に引きつっていた。物静かな良い奴なのに、なんでみんな怖がるんだろ? それに始めから、この調子で大丈夫か不安だ。
「本当に大丈夫? なんなら今日は破壊猪に遠慮してもらうけど?」
「いっ、いや、私の方が頼んだ側なのだから、君達に何かしら我慢する事はしてほしくない。いつもの感じでいてくれ。すぐに慣れてみせるさ!!」
「……イリュキンがいる時点で、いつもの感じじゃない。それと散歩の途中で体調崩されても面倒くさい」
「大丈夫だ。私の事は気にしないでくれ」
「お前がそれで良いならそうするけど体調崩したらすぐに言ってよ。ひどくなるまで我慢されるとより面倒くさいからね」
「……わかった」
そんな決死の覚悟を込めるなって言いたいけど、なんか気を使うのもバカバカしくなってきたからイリュキンが言ったようにいつもの感じでいきますか。
「今日も散歩に付き合ってくれる?」
「ブオ!!」
「そうか、ありがと。お前がいると安心して遠出ができるから嬉しい」
「ブッ、ブオ!!」
「うん、頼りにしてる。ああ、今日はもう一人いるけど大丈夫?」
「ブ?」
「あそこにいる奴、イリュキンって言うんだ。おーい、あいさつして」
「わかった。初めまして、私は青の竜人のイリュキンと言います。今日は散歩に同行させてもらいます」
「……固くなりすぎだよ。こいつはイギギさんと同じで、あんまり堅苦しいのは好きじゃないよ」
僕がイリュキンのあいさつに呆れていると、徐々に破壊猪がイリュキンに近づいていく。イリュキンは反射的に下がりそうになったけど、自分で慣れてみせると言ったせいかグッと我慢していた。必死にじっとしているイリュキンに近づくと破壊猪は、イリュキンの匂いを嗅ぎ始める。なんか遠くの方でガサガサ音がするけど……無視しよう。だいたい十秒匂いを嗅ぐと破壊猪はイリュキンから離れて戻ってきた。
「ブオ」
「そう、それなら問題ないね。イリュキン、移動して良いか?」
「…………ああ、大丈夫だ」
絶対に痩せ我慢だなって確信ができるくらい声が震えてるけど、言わない方が良さそうだ。まあ、気にしてもしょうがないから行こう。
「なんか食べ頃の物があるところって知ってる?」
「ブ」
「それじゃあ、そこに行きたい」
「ブオ!!」
破壊猪と散歩の予定を決めて歩き出すと、少し遅れてイリュキンが歩き出した。何度も思ったけど、初めからこの調子で無事に帰って来れるのか心配だ。 ……まあ、成るように成るか。できれば良い感じになってほしいけどね。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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