黒の村にて 予定は未定と結局の質問
昨日の父さん達の反応から、僕はあまり不自然な行動をとらない方が良いとわかった。そこでいろいろ考えた結果、今僕は村の広場の端に敷物を広げ座り作業をしている。作業内容は摘み取って乾燥させた薬草の状態確認と仕分け。広場は村で一番人が集まる場所だから、作業をしつつ周りの会話を聞けば女の勘について何かしらの情報が得られるはず。それに……。
「ヤート、広場で作業するのは珍しいな」
「ちょっとした気分転換だよ。今日はそこまで日差しも強くないから、たまには外での作業も良いかと思って」
「なるほどな。いくらお前に室内作業の適性があっても、ずっとはきついか」
「そんなところ」
「ヤートの薬草が村の名産になってるのは確かだが無理しない程度にしろよ」
「うん、わかってる」
こんな風に室内作業の気晴らしだと説明すれば、みんな僕が広場にいる理由を納得してくれる。よし、これで周りを観察し放題だ。
あれからしばらく周りを観察しながら作業を進めてたけど、ちょっと困った事態になった。
「ヤート、これはこのままで良いの?」
「ロロさん、ヤート君は作業中なので邪魔しないでください」
「良いじゃない。こういう作業に一番詳しいのはヤートだし、わからない事をそのままにしたらダメでしょ?」
「私もわかるので私に聞いてください」
「えー、どうしようかしらね」
「ロロさん……」
「リンリー、目つきが鋭くなってるわよ」
僕のそばでリンリーとロロが編み物の作業していて、なんかリンリーの雰囲気がピリピリしてる。それに少し離れたところでは……。
「うっわ‼︎ ガル、お前下手だな」
「ポポも似たようなものだろうが‼︎」
「いーや、絶対に俺の方がマシだな。マイネもそう思うだろ?」
「どっちも同じぐらいでしょ。私のに比べたらね」
「「う……」」
「悔しかったら上手くなってみなさい」
「マイネも同じぐらい下手だったくせに……」
「むしろ俺達より下手な時もあったぞ」
「うふふ、どこかの二人の負け惜しみを聞きながら作業するのは楽しいわね」
「「グギギ……」」
兄さんと姉さんとポポが加工した革の出来上がりを競ってるんだけど、どうやら完全に姉さんの加工した革の質が良いらしく、姉さんにあおられた兄さんとポポは歯をギリギリと食いしばり悔しがる。
そんな三人から視線を外し周りを見れば、他のみんなもそれぞれの作業をしている。何でこうなったかといえば、始めは僕一人だったところに兄さん・姉さん・リンリーがやってきて作業を始めた。次にポポとロロが増えて、その後も子供達がどんどん集まり最終的に広場の一角が僕達の作業場となってしまったというわけだ。
界気化した魔力を周りに放てば観察もできるけど、ここまでワイワイガヤガヤしてたら最初に決めた地味に観察するっていうのは達成できてないよね? …………場所を変えるべきかな? 僕の薬草の仕分けは、そろそろ終わるから移動の理由として不自然じゃないと思うけど……。
「ヤート、ここのやり方を教えてくれ」
「私も、知りたいから教えて」
みんなからの質問に答えるのを考えるとダメか。……しょうがない。今回も観察は諦めて作業に集中するか。
予定は未定なんだなと思いつつ作業を続けて気がつけば、それぞれに割り当てられた担当分がだいたい終わろうとしていた。……普段の五割増くらいの作業効率になったみたい。兄さん達は身体を動かさない作業が苦手という点を考えたらすごい事で、僕達の作業を見た通りがかりの大人達も全員驚いてたね。
それに大人達の中には、広場で集まって作業をしだすものも現れた。その顔は晴れやかで、大人になっても身体を動かさない室内作業は息が詰まるっていうのがわかる。
「あらあら、みんな作業が捗ってるわね」
広場にやってきた母さんは何も持っていない。たぶん広場の様子を見にきただけかな?
「あ、母さん。ヤートといっしょにいるからな。いつもより調子が良いぜ‼︎」
「それはみんなも同じだから、結果としてガルはいつもと同じよ」
「うるせえ‼︎ いちいち会話に入ってくんな‼︎」
「ガルの言い方が変だからよ‼︎」
「二人とも落ち着きなさい」
「「…………」」
兄さんと姉さんのケンカはいつもの事として、僕といるから調子が良いって何?
「兄さん、それってどういう意味?」
「そのままだ。ヤートが近くにいると安心するから集中できる」
「……そうなんだ」
自分の身体を同調や界気化で調べてみても、そんな効果は発していない。……僕に魔法以外の何かがあるのかもしれないけど。自覚できない力は探しようがない。青のハインネルフさんやタキタさんに聞けば何かわかるかな? 僕は増えた疑問に内心で悩みながら、休憩を兼ねて母さんの方に歩いていった。
「ヤートは……、もう自分の作業は終わったのね」
「うん、広場に持ってきた分は全部終わったよ。母さんは?」
「広場の様子が気になったのよ」
僕の予想は当たっていた。……こういうのはただの勘で、女の勘とは違うはず。
「ヤート、どうしたの?」
母さんは突然考え込んだ僕を見て不思議そうにしていた。…………聞いてみようかな。ある程度観察してからっていう予定は崩れてるし、わからない事を聞くのはおかしくない。……よし、最初から母さんに聞けば良かったって考えには目をつむって聞こう。
「母さん、変な事を聞いて良い?」
「何かしら?」
「母さんにも女の勘ってあるの?」
「あるわよ」
即答されるとは思わなかった。チラッと周りを見た後に続けて聞いてみる。
「竜人族の女の人は、みんな持ってる?」
「別に竜人族だけじゃなくて、どの種族でもある程度の年齢になった女性ならあってもおかしくないわね」
「そうなんだ。女の勘っていうのは、どういうのをいうの?」
「そうねえ……、身近な人の変化とか隠してる事がわかったりするわね」
「何で?」
「何となくよ。たぶん何かしらの細かい事を感じてるんだとは思うけど、はっきり言語化はできないわ。それでもピンとくるものがあるから、女の勘はあるわね」
「……女の人って、すごいね」
「うふふ」
うん? 周りで僕達の会話を聞いていた男の大人達一割くらいから、苦い感じの雰囲気が伝わってきた。界気化した魔力で感知してないのにわかるのは、苦く思ってる感情が濃いからかな? 過去に女の勘で何かあったの? あ、母さんの言葉を聞いた広場にいる女性陣がうなずいて、男性陣からはそれ以上聞くなっていう思いを感じた。
本当にこれ以上は突っ込まない方が良さそうだ。とりあえず母さんの言葉に説得力があったから女の勘という人体の神秘は確かにあるで今は納得して、結論を出すのは別の人……青のイーリリスさんとかに話を聞ける時まで封印だ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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