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黒の村にて 観察と心配

 黒の村に帰ってきて生活のリズムは、すっかり元に戻った。兄さんと姉さんといっしょの部屋での目覚め、家族全員そろった食事、薬草畑の手入れや屋内作業、リンリーや三体との散歩、ポポ達との乱戦。うん、充実してる。


 そんな良い感じで過ごしていたある日、僕は前にリンリーが言っていた事を思い出した。


「女の感か……。あの時のリンリーは僕が考えをピタリと当ててた。でも、一回だけだと偶然かもしれない。それならまずは……観察かな」


 疑問にあるなら母さん達に聞いてみるのが一番だと思うけど、とりあえずは自分の疑問は自分で解決を目指すべきだと考えた。


 …………最初は母さんにしよう。母さんは水場で洗濯をしているから、洗濯を手伝えば母さんの近くに入れるはず。善は急げという事で。


「母さん、洗濯を手伝っても良い?」

「あらヤート、畑の手入れは終わったの?」

「うん、一通りやったし異常はなかった」

「それならリンリーのところに行かなくて良いの?」

「たまにはって言ったら変だけど、母さんを手伝いたいなって。ダメ?」


 母さんは困りつつも嬉しそうな顔をしてくれた。


「……そうね。せっかくだしお願いしようかしら」

「任せて。どれからやれば良い? あと何か気をつける事ある?」

「このガルの服から洗ってちょうだい。当たり前だけど服を破らないようにね」

「わかった。緑盛魔法・浄化苔(ダーティーイーター)


 僕が兄さんの服を持ち魔法を発動させると、腰の小袋から浄化苔(ダーティーイーター)が這い出てきて僕の身体と腕を伝い、兄さんの服にたどり着き服を包み込む。


「…………ヤート、それは何?」

「これは浄化苔(ダーティーイーター)っていう粘菌の一つだよ。汚れを分解して吸収するのが得意なんだ。……あれ? これだと僕が手伝ってる事にならない?」

「……どうなのかしら?」


 僕と母さんはそろって首をかしげる。


「そうだわ。ヤートがまず服を洗ってから、落ちなかった汚れを浄化苔(ダーティーイーター)に分解してもらいましょう」

「なるほど、それなら僕も手伝ってるって言えるね」


 その後は特に問題なく、二人と浄化苔(ダーティーイーター)で洗濯を進めていった。……うーん、母さんを近くで観察するために洗濯を手伝うのを選んだのは失敗だったね。服を手洗いしてるのに母さんを見てたら変すぎる。母さんの観察は別の時にして今は手伝いに集中しよう。こうして僕が気持ちを切り替えようとした時、ある服を手に取った母さんが笑った。


「あらあら」


 ……母さんはすごく嬉しそうだ。あの服は父さんのだね。でも、他の服もあるのに何であの服で笑ったんだろ?


「母さん、どうしたの?」

「え、あー、うふふ、何でもないわ」


 いくつかある父さんの似たような無地の服の中で母さんが笑ったのはあれだけだから、確実に何かを感じているはず。……うーん、これが女の感なのかな? 僕は明確な答えを出せないまま洗濯を続ける。




 しばらくして洗濯が終わった。結局、母さんに父さんの服を見て笑った理由を聞けなかったから、いったん母さんの観察はやめて次の観察の機会を探そう。とはいえ、そんな都合の良く観察できる状況なんて無いだろうなと思っていたら、すぐに機会はあった。それが何かというと夕食だ。母さんと父さんの会話も聞けるし、何かヒントがわかるかもしれない。


「マルディ、はい」

「ああ、エステア。エステアはこれだったな」

「うふふ、ありがとう」


 今日の夕食は焼いた骨付き肉の山盛りと母さん手製のソースが数種類で、僕はゆでた野草の盛り合わせソース付き。父さんも母さんもお互いに相手の好きなソースを知っていて、使うソースの順番もわかってる。……だけど、これは女の感とは違うよね?


「そういえばマルディ」

「何だ」

「楽しみにしてるわね」

「グッフォッ、ゴホゴホ。……何でわかった?」

「何でかしらね」

「く……、毎回バレるのはどうしてなんだ……?

 

 この反応から父さんは母さんのために何かをやっていて、それをバレないように気をつけてたみたいだね。でも、母さんはその父さんが隠してる事を洗濯物の服を見ただけで理解したと。…………隠し事を見抜くのが女の感? だけど、リンリーは僕の考えを読んでた。自分が相手に言わない考えを隠し事って言えるならそうなのかな? もっと他の例がほしいな。


「……ヤート、いつもと違う気がするけど大丈夫? どこか体調悪いの?」

「「何⁉︎ ヤート、そうなのか⁉︎」」

「……発熱はないみたいね」


 父さんと母さんの会話を観察していたら姉さんに心配された。というか、特に食べる速さとか量に変化はなかったのに、何でそう思ったんだろ? ……あ、父さんと兄さんがすごく心配してるし、母さんは席を立ち僕の横に来て額に手を当ててきたから訂正しないと騒ぎになるな。


「少し考え事をしてただけだから僕は大丈夫だよ」

「……本当か?」

「うん。一応言うと、体調管理は同調と界気化(かいきか)を使える僕が一番うまいからね」

「確かにそうだな……。だが、体調を崩したら、すぐに言うんだぞ」

「わかった」


 父さん達は僕の返事を聞いて食事を再開した。でも、チラチラと僕を見てくるから僕の変化を見逃さないようにしているみたい。……観察のやり方を変えた方が良さそうだ。女の感について知りたいけど、みんなに心配させてまでの事じゃないからね。もっと地味に観察していこう。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


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