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幕間にて 母親の嫉妬と顔役の深い悩み

明けましておめでとうございます。


2020年最初の更新はヤートの母親のエステア視点です。


今年一年もよろしくお願いします。

 私がマイネを、マルディがガルを、ラカムタがヤートをそれぞれ抱えて家へと運び、ガルとマイネを寝台に寝かせた。運ばれている間は意識があったものの、ガルとマイネはすぐに眠ってしまう。よっぽど疲れたのだろう。


 ……いくらガルとマイネの成長が嬉しくても、二人の限界まで模擬戦をするのは、やっぱりやり過ぎだったわね。大人気なかった自分の行動を反省してたら、ヤートが二人に触れ何かを探る感じになった。ヤートはガルとマイネの身体を同調で調べてるみたい。


「ヤート、ガルとマイネの具合はどう?」

「骨折とか内臓の損傷はないけど疲労がすごい。しばらくは目を覚さないと思う」


 ヤートの話を聞いているとさっきの光景が頭に浮かび、ヤートの顔をジッと見てしまう。すると、ヤートは私の視線を感じたのか私に顔を向けた。


「母さん、僕の顔に何かついてる?」

「あ、何でもないのよ……」

「そう?」


 ごまかす私の不自然な態度を不思議に思うヤートの顔は、いつもと同じ無表情だった。……また見れるかしら? 少しぎこちない空気が流れる中で、マルディはガルとマイネの寝顔を確認してからヤートに話しかける。


「ヤート、俺達は広場の後片付けを手伝ってくる。俺達がいない間、ガルとマイネを任せて大丈夫か?」

「うん、兄さんと姉さんは寝てるだけだから、特に何も心配ないよ。安心して行ってきて」

「わかった。それじゃあ二人の事は頼む。それとリンリーはどうする? なんなら家まで送るぞ?」

「いえ、私もガル君とマイネさんが心配なので」

「そうか。それならヤートと二人でガルとマイネを頼むな」

「はい」

「リンリー、家の中のものは適当に使って構わないからね」

「ありがとうございます」

「それじゃあ行ってくる。何かあったら、すぐに知らせるんだぞ」

「わかった。いってらっしゃい」

「お気をつけて」


 ヤートとリンリーに見送られて家を出た後、広場へと向かった。道中の話題はただ一つ。


「ヤート、また笑ってくれないかしら……」

「……すぐには難しいだろうな」

「ラカムタ、何か思い当たる事があるのか?」

「実はな、ヤートは青の村でも一度笑っている」

「……私とマルディより先にヤートの笑顔を見てるの?」


 ラカムタの言葉を聞いて胸の中がモヤッとなり、思わず立ち止まって問いかけた。


「…………そういう事になるが、たまたま顔役として帯同していた時にヤートの笑顔に出くわしただけだ。けっしてヤートの笑ったところを見ようと思っていたわけではない」

「ああ、偶然だっていうのはわかっている。エステアも落ち着け」

「そうね……。嫌な言い方をしてごめんなさい……」


 さっきの私の言い方は、冷静になって考えると本当にひどい。ラカムタへの嫉妬なんて思うべきじゃないのに……。


「いや、家族の、それも子供の事だったら一番に見聞きしたいと思う親心は理解できる」

「そう言ってもらえて助かるわ。あとすっかりラカムタの話の腰を折ってしまったわね。ごめんなさい」

「気にしなくて良い」

「あー、それじゃあ話を戻すぞ。ラカムタがヤートの笑顔を見るのが難しいと思う理由を教えてくれ」

「ヤートは自分が笑えた事を気づいてないからだ」

「……自覚してないの?」

「むしろ想像すらしてないだろうな」

「自覚してない行動を再現するのは難しいというわけか……。一度笑えた事をヤートに言ってないのか?」

「言うべきか悩んだが言っていない」

「なぜだ?」

「笑えていた事をヤートに教えたら、無理に笑おうとして不自然な状態になる可能性もある。それにだ。もし今のヤートが少しずつ感情を表に出してきている状態なら、いつか自然に笑える日が来るまで見守るべきだと、青の村で話し合って決めた。この事は子供達にも言ってある」


 あの優しい笑顔が不自然になる……? そんなのは絶対に嫌よ‼︎


「…………今更だが、こんな大事な結論を親のお前達抜きで出したのは申し訳ないと思っている」

「ヤートの事を最大限に考えた上での結論だろ? だったら、それで良いさ」

「だが、この結論が正しいのかわからない……」


 ここまではっきりと悩むラカムタは初めて見るわね。……ヤートの母親である私が揺れてたらダメだわ。まずはヤートを大切に思っている人がいる事を感謝しないといけないわ。


「ラカムタ、私もマルディと同じよ。ヤートの未来を真剣に考えてくれてありがとう」

「俺は……」

「青の村で結論を出したように、私達黒でも一度話し合いましょう」

「……そうだな」

「もしかしたら笑ったヤートを見たみんなも、ヤートの様子を聞きたがってるかもしれないわね」

「「…………」」


 私のつぶやきを聞いてあり得ると思ったのか、マルディとラカムタは無言になり歩き出す。そんな二人を見て私は、少しでもヤートにとっての良い未来になるよう力を尽くすと心に決め二人の後を追った。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


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