黒の村にて 宴の始まりと界気化の説明
村長の指揮の元、あっという間に広場で行われていた乱闘の後始末が終わり、宴用の料理や飲み物に机なんかが用意された。乱闘に参加してた子達も、すっかり戦意は無くなって広場の中央で焼かれている肉の周りに集まってウキウキしている。……こういう切り替えの速さは見習いたいところだ。
「ヤート、あなたが食べる分を、ここに置いておくわね」
「母さん、ありがとう……って、この量は何?」
「青の村から帰ってきて、そのまま参戦して身体を動かしたんだから、お腹減ってるでしょ?」
「確かにそうだけど……」
「そういう時に大切なのは食べて寝る事よ。残しても良いから食べれるだけ食べなさい」
「わかった。……よし」
僕は僕の目の前に置かれた山盛りの野菜と果物を見て少し唖然としたものの、母さんの言う通りだと思い食事に向けて気合を入れた。
宴が始まると子供達がラカムタさんに青の村での事や旅の話を聞きたがったから、ラカムタさんは報告がわりに詳しく話す。兄さんが大河で溺れた事・僕が新しく林を生み出した事・僕とタキタさんの模擬戦・僕に対する青の歓迎っぷり・三体の急成長などを話し、次に兄さんと姉さんに起きた異常へと話が移ると、広場にいたみんなが兄さんと姉さんを見た。
「ガル、マイネ、あなた達大丈夫なの?」
「母さん、俺達は大丈夫だ‼︎ なんてったってヤートに治してもらったからな‼︎ なあ、マイネ⁉︎」
「そうね。今はどこにも問題ないわ。ヤートが隅々まで調べてくれての結論よ」
姉さんの言葉を聞いて、みんなの視線が僕に集まってきたから、僕は食事を止めた。
「兄さんと姉さんの言う通りで、同調と界気化を使って徹底的に調べたけど二人のどこにも異常はないよ」
「そう、良かったわ……」
僕が断言すると、母さんを始めにみんなが安心してくれた。でも、徐々に疑問の色が濃くなり顔を見合わし出す。そして、みんなを代表する形で村長が僕を見た。
「……ヤート、界気化というのは何じゃ? 先ほどヤートがしていた動きと関係はあるのか?」
「ああ、その説明が先でしたね。ラカムタさん、僕から話して良い?」
「頼む、というよりヤートにしかできない事を、俺から詳しく話すのは無理だ」
「そういえばそうだった。それでは村長の質問に答えると、まず界気化というのは自分の魔力を調整して様々な情報を調べたり受け取れるようにする技術の事です。そして先ほどの僕の動きは界気化に関係あるのかについてですが、あれは界気化した魔力を周囲に放つ事で僕の魔力圏内いるみんなの行動を事前に知る事ができたために、あのようなすり抜ける動きができました」
「……ふむ」
みんなが僕の言葉の意味するところを考え出した。…………というか、なんでラカムタさんや兄さん達も考えてるの? 青の村でイーリリスさんから説明を聞いてなかったっけ? 僕がイーリリスさんから話を聞いてる時の事を思い出していると、父さんが別の疑問を口にした。
「ヤート、界気化というのは同調とは違うのか?」
「うん、僕が前からしてた同調は主にケガの具合や病気の有無なんかの形があるものに対して有効で、界気化は意識や記憶や精神っていう目に見えないものに有効だよ。あと感知範囲は界気化の方が圧倒的に広いよ」
「……ヤートよ、試しにわしが今考えておる事を読み取ってくれんか?」
村長の言葉を受け、一応ラカムタさんを見たらうなずき返してくれたので、僕は右掌を村長に向けて界気化した魔力を放った。僕の頭の中に界気化した魔力を通して、村長の考えてるの事が浮かんでくる。…………数字と色の羅列だね。このまま言えば良いのかな?
「二、五、十、黒、十三、十八、七、四、赤、二十、三四二、青、五一〇、二、黄土、以上です」
「……なるほど、考えが読み取れるというのは間違いないようじゃの」
みんなの緊張が高まった。まあ、自分の考えてる事が自由に読み取られるなんて気持ち悪いよね。そんな中、母さんが重々しい口調で聞いてくる。
「……ヤート、その界気化は常にやってるの?」
「使いこなせるように鍛錬はしてるけど、緊急時以外でみんなのいるところではしないよ。いろいろズレてる僕でも、勝手にみんなの内面を知るのは失礼だってわかるよ。……界気化を使えるのが僕だけだから、信じてもらうしかないけど」
「その点はヤートを信頼してるから大丈夫よ。ただ心配なのは界気化の危険性についてね。そこについても説明してちょうだい」
「わかった。界気化は制御に神経を使う。もし制御に失敗した場合は、軽くて吐き気と頭痛が起きて最悪だと廃人になる」
「……詳しくお願い」
「界気化で一番難しいのは自分の知りたい情報だけを受け取れるようにする事なんだ。例えば、さっきの僕は村長の今考えてる事を受け取ったけど、もし制御を失敗して村長の記憶を受け取った場合、僕は村長の生まれてから今までの記憶を全部受け取る。……そうだね、今考えてる事を葉っぱ一枚、全部の記憶を大神林って言ったら受け取る情報の差がわかりやすいかな」
みんなが界気化の危険性を感じて息を呑む。あ、母さんの雰囲気が変わった。僕の方から、きちんと宣言しておくべきだね。
「母さん、先に言っておくけど、僕は界気化を無理矢理覚えさせられたわけじゃない。必要だったから身につけただけだよ」
「……ヤートから、そんな風に言われたら怒れないじゃない」
「ごめん」
「気をつけるのよ」
「わかった」
どんな技術も上手く使いこなせてこそだから、周りに心配かけないように、しっかり界気化の鍛錬を続けていこう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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