青の村にて 感謝と見送り
今日の天気は少し曇りで、大霊湖の近くの割に風も穏やかで暑くも寒くもない。出発の日としては、かなり良い条件だ。そんな中、僕達は青の村の正門前に集まっていた。
位置関係は僕とラカムタさん達と三体が門と向かい合うように立っていて、青のみんなはハインネルフさん・イーリリスさん・タキタさんを先頭に門を背にし僕達の対面にいる。苔巨人兵達は十体ともが、わざわざ上陸して村の外周を回り込み僕達を見送れるところに待機していた。最後に大髭様だけど、さすがに上陸したら動けなくなるので出発のあいさつを朝一番におこない別れた。今頃は大霊湖を泳いでるはずだ。
別れの場であり青の村にいた全員がそろったのでザワつきは大きかったけど、ハインネルフさんが右手を少し上げたら静かになっていく。そして完全に沈黙したのを見計らいハインネルフさんは話し出す。
「皆も知っての通り、ヤート殿やラカムタ殿達は黒の村へと戻るために今日をもって青の村を離れる」
ハインネルフさんが言い終わると、みんなから残念だという雰囲気が伝わってきた。ラカムタさんや兄さん達も同じような感じだから、なんだかんだで青の村での生活を楽しんでたみたいだね。
「ヤート殿の言動に触れるたび新たな驚きと発見があり、個人的にも良い経験となった。また魔石という予期せぬ出来事はあったにせよ、ラカムタ殿達とも今までになく深い交流ができたのは、今後の青にとってかけがえのない財産となるだろう。ヤート殿とラカムタ殿達に心より感謝を申し上げる」
広場にいる青のみんなが、ハインネルフさんの礼とともに頭を下げる。その様子は、まさに一糸乱れぬ行動とはこういうのを言うんだなって目を見張った。ラカムタさん達も照れていたし、感情の薄い僕も心にグッとくる。そしてみんなが頭を戻すと、次に話し出したのはタキタさん。
「わしからは、まず魔獣のお三方に礼を申し上げる。我ら水守にとって高位の魔獣であるお三方の真近ですごせた事は、精神面の鍛錬としてこの上ないものとなった。今回の経験を活かせれば、もし違う不測の事態が起きても全く動けずに最悪な状況に陥るのを防げるはず。またヤート殿やラカムタ殿達との鍛錬は、水守とは異なる動きや考えを目にでき殻を破れるものも出てきた。我ら水守に多くの成長をいただけた事へ心よりの感謝を」
タキタさんと水守達が三体に深く頭を下げた。それに対して三体は一見無反応だけど、よく見たら鬼熊と破壊猪の口角が上がりディグリも少し胸を張っているので嬉しいみたい。最後に話すイーリリスさんは、タキタさん達が頭を上げだ後に僕を見ながらフワリと笑った。
「私にとっても今回の交流は良い経験でした。水添え候補者ではないヤート殿が、界気化を習得していくのを見守れたのは貴重な時間でした。それに大髭様の頭へと乗れたのは一生の思い出です。老齢となっても、ずっと暮らしている場所でも未経験がある。この事を実感できてから見慣れた景色が輝いて見えるようになりました。尊い時間を与えてくれたヤート殿に心よりの感謝を」
イーリリスさんの礼は流れる水みたいなきれいな仕草だった。イリュキンも、いつかイーリリスさんみたいになるのかな? 欠色の僕がみんなと同じ寿命かはわからないけど、見れるとしたら見てみたいね。僕が遠い未来を考えていると、ラカムタさんが一歩前に出る。
「青より感謝を言われたが、俺からも言わせてほしい。ハインネルフ殿、イーリリス殿、タキタ殿と戦い、久々に全力を出す自分を感じる事ができて最高だった。それにあんなに高笑いしたのは、いつ以来か思い出せないほどだ。心より感謝する。そして叶うなら、また再戦を」
ラカムタさんの戦意剥き出しの礼に、ハインネルフさん達・水守達・他の青の大人達が同じように戦意をあふれさせる。たぶんのぞむところだっていう感じかな? みんなの戦意が鎮まると、ラカムタさんが僕の方を向いた。
「ヤートは何か言いたい事はあるか?」
「僕? えーと……、ああ、それじゃあ僕からも」
「おう、言ってやれ言ってやれ」
「楽しかった。黒の村から青の村に来る時も、青の村ですごすのも、大霊湖で過ごす時も、全部楽しかった。また来たいって思うから、次に来れた時はよろしくお願いします」
自分なりに丁寧におじきをして身体を起こすと、青のみんなやラカムタさん達が驚いていた。というか、苔巨人兵達も驚いてるのは何で? …………まあ、僕は無表情だからしょうがないか。
「……オホン、ヤート殿、そう言ってもらえて光栄だ。また、いつでも良いから気軽に訪ねてくれて構わない」
「うん、ありがとう」
僕がハインネルフさんに返事をしていたら、ラカムタさんが僕の頭に手を置いた。
「名残惜しいが、そろそろ行くぞ」
「わかった。兄さん達も、もう行ける?」
「俺は大丈夫だ」
「私も行けるわ」
「私は……、大丈夫です」
「リンリー、良いの?」
「はい、きちんと言いたい事はお互いに言っているので大丈夫です。行きましょう」
リンリーの目線を追うとイリュキンを見ていて、イリュキンもリンリーを見ていた。良いのかなって思いラカムタさんを見ると、ラカムタさんがうなずいてきたから問題ないらしい。いまいちリンリーとイリュキンの関係性をわかってないんだけど、二人とも落ち着いてるから良いと納得しておく。
僕達は青のみんなに手を振ってから歩き出す。苔巨人兵からも待っているという意志が伝わってきたので、また必ずと答えて手を振った。
しばらく歩き大霊湖を見渡せる丘まできた時に、もう一度、大霊湖を目に焼き付けようと振り返ったら、大霊湖の湖面から何かが跳び出してくるのが見えた。
「あれは……大髭様だね」
「見送りだろうな。それなりに離れてもわかるのはすごいものだ」
「私達が広場で見た時よりも高く跳んでますね」
「…………あれ、大丈夫なのかな?」
「何がだ? ヤート」
「広場で見た時は、大髭様の着水後に大波が来たよね? という事は、あの時以上の大波が青の村に来るんじゃ……」
「「「「あ……」」」」
僕達は青のみんなの無事を祈った。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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