大霊湖にて 疑念と絶句
大霊湖の湖畔に向かっている僕達は、イリュキンから苔巨人兵達へのあいさつを機に会話が盛り上がり、その中で大髭様と苔巨人兵達から気になる事を聞けた。
「大髭様も苔巨人兵達も、大霊湖の浅瀬や湖畔に根付いてる苔巨人兵達には会ってないんだね」
「バフ」
「なるほど、確かにその通りです。お気遣いいただきありがとうございます」
大髭様いわく、大きな力を持つ存在は余計な混乱を回避するため近づかない方が良いらしい。そういえば大神林でも高位の魔獣ほど、ほとんど単体で行動している。…………こう考えてみると不自然な事をさせてるから、三体がにらみ合いをするのも当たり前か。
戻ったら三体に謝るとして、大霊湖の浅瀬や湖畔に根付いてる苔巨人兵達の今現在の様子を誰もわからないのは困ったな。同じ二体の苔巨人兵もいっしょに訪ねてくれるし、いきなり襲いかかってくるという事はないはず。……よし、用心のために少し探ってみるか。
「向こうの様子がわからないっていうのも何だから、ちょっと界気化した魔力を放って気配だけでも感知してみるよ」
「その方が良いかもしれないね。間が悪い事態は避けるべきだ」
「バフ」
みんな賛成してくれたから、進行方向へ掌を向けて界気化した魔力を放つ。やっぱり拡散しやすく距離をある程度無視できる界気化を覚えて良かったって思っていると、奇妙な気配を感知した。
「あれ……?」
「ヤート君、どうかした?」
「なんか浅瀬と湖畔に根付いてるはず苔巨人兵達の気配が変なんだ」
「気配が変? まさか、大霊湖の環境に適応できずに……?」
「弱ってるとかじゃなくて……」
「なくて?」
「気配がブレてる」
「……は?」
「……バフ?」
僕の言った事が、よくわからなかったのか大髭様も二体の苔巨人兵も動きを止め、続きを聞こうとしている。……どう説明するべきかな。
「まず浅瀬と湖畔に向かった苔巨人兵は、全員で八体だった。でも、今僕が感知した気配は、一から八の間で数が増えたり減ったりしてて、しかも数が少なくなるとズンって気配は大きくなってる」
「……私にも確認させてほしい」
感知した苔巨人兵達の気配の説明に納得できないのか、イリュキンが僕と同じく掌から界気化した魔力を放つ。
「…………ヤート君の説明した通りだね」
「気配の数が八つの時の気配の大きさが二体の苔巨人兵と同じだから、絶対に枯れかけてるとかじゃないのに何でこんなに不安定なんだろ? どうしてかわかる?」
二体の苔巨人兵に聞いてみたら顔を横に振った。うーん……、同族でもわからないなら取れる方針は二つかな。
「とりあえず状況が不可解なまま進むか、いったん青の村に戻るかだけど、村に戻るのは意味がないよね?」
「……例え村に帰って村長やお祖母様に相談しても解決できるとは思えないから、その通りだと思うよ。それに魔石みたいな嫌な感じはなくて、ピリピリと緊張感もない。大髭、これならおそらく近づいても大丈夫だと判断したのですが、どうでしょう?」
「……バフ」
「そうですか。……お二方はどうですか?」
イリュキンが聞くと大髭様は賛成で、二体の苔巨人兵は八体の苔巨人兵がいるであろう方向をジッと見つめた後にうなずき賛成した。
「ヤート君」
「うん、僕も結局のところ近づいて確かめるしかないと思うから賛成だよ」
「ありがとう。大髭様、このまま進んでください。お二方もいっしょにお願いします」
「バフ」
大髭様が返答とともに動き出し、二体の苔巨人兵もすぐに並走する。
それからしばらく湖畔の方に移動していると、異様なものが見えてきたため大髭様と二体の苔巨人兵に止まってもらった。
「「「…………」」」
僕もイリュキンも大髭様も二体の苔巨人兵達も、その異様な見た目に絶句している。
「……ヤート君、あそこが目的地だよね?」
「方向で言えばその通りなんだけど、……この状態は想像してなかった」
「……バフ」
大髭様と二体の苔巨人兵達も若干引いている僕達が今目にしているものを説明すると、緑色の小山が浅瀬に二つ湖畔に六つあり、その八つの小山は時間とともに動いて集合し一つの巨大な山になって、さらに時間が過ぎるとまた八つの小山に戻るというのを割と短い間隔で繰り返していた。
どう考えても別れのあいさつをしようとしてた苔巨人兵達なんだけど、何をどうしたらこんな状態になるのかさっぱりわからない。…………まあ、状態を確かめるには同調しかないから、とりあえず近づいてみよう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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