大霊湖にて 青の魔法と騒動以来の再会
青く輝く大樹の枝葉は、日差しを受けて、時折キラキラと白く輝き、幹は光を取り込み根に流す。そして根は水中に光を放出して水中を白く光らしている。
「…………」
「ヤート君にすごいと思わせようとはしたけど、そこまで私が作ったものをジッと見られたら……、なんというか気恥ずかしいよ」
「きっと、これを見たら僕だけじゃなくて、みんなも僕と同じ反応になる。だから、どんなもんだって胸を張れば良い」
「…………ヤート君、ありがとう」
イリュキンは何かを噛み締めるような感じで僕にお礼を言った後、僕とは違う方向を向く。
「イリュキン?」
「ああ、あっちの水平線を見たくなっただけだから気にしないでくれ」
「……わかった」
初めは変な事を言って怒らせたから謝ろうって思ったけど、イリュキンから機嫌が悪い人特有のピリピリした感じはなくて、むしろ明るく弾けるような雰囲気だったから、そっとしておくべきだと判断して青の大樹に視線を戻した。
少し今のイリュキンが何を思ってるのか知りたいなって思ったけど、常識とか道徳的に考えてダメだからイリュキンの思考を感知しないよう、きっちり界気化を制御する。というか界気化を止めれば制御する必要もないけど、青の村の中ならともかく今僕とイリュキンのいる場所は大霊湖だから、いつ何が起こってもすぐに感知するために必要だから界気化を止める事はできない。
そんなこんなでまた無言の時間を過ごしていると、僕の感知範囲に三つの大きな気配が出現した。
「イリュキン、大髭様と二つの大きな気配を感知したよ」
「わかっ……、大髭様と二つの大きな気配?」
「うん、大髭様の後にあいさつをしにいこうと思ってたから、ここで会えるのは嬉しいね」
「…………あ、彼らか」
「そういう事。とりあえず少し待ってみよう」
「そうだね」
十分ほどしたら水平線の別々の三方向に小さく影が見えた。そしてその影が大きくなると湖面の波も徐々に高くなっていく。このままだとまずいと考え僕が魔法を発動しようとしたら、その前にイリュキンが手を伸ばした。
「ヤート君、対象が水なら私に任せてもらいたいな」
「確かに、ここはイリュキンに頼むところだね。それじゃあ、緑葉船を沈まないようにお願い」
「了解だ。水圏」
イリュキンの魔法が発動すると、緑葉船を揺らしていた波は落ち着く。……いや、緑葉船を中心に二ルーメ(前世でいう二メートル)くらいの湖面がガラスみたいに固まり動かなくなったから、落ち着くと言うより不自然なほど綺麗に整ったと言う方が正しいかな。
そういえば固まった水を見て思ったけど、僕はこの世界に生まれてから氷を見た事がないな。魔法があるんだから水を凍らす事はできるはずなのに、なんでないんだろ?
「バフ」
大髭様の声が聞こえて顔を上げると、いつの間にか大髭様と苔巨人兵達が緑葉船のそばにいた。どうやら僕は、かなり深く考え込んでいたみたい。気を取り直して、まずはあいさつという事で、イリュキンが魔法を全て解いて立ち上がる。
「大髭様に苔巨人兵の方々、お久しぶりです」
「バフ」
イリュキンのあいさつに大髭様は微笑ましい感じで返事をして、苔巨人兵達は深くうなずく。次は僕だね。
「大髭様に苔巨人兵達も、久しぶり。あれから何も問題なかった?」
「バフ」
大髭は大丈夫だと答えてくれて、苔巨人兵達は腕で大きく丸を作ったから何もなかったらしい。この苔巨人兵達は、魔石を倒した後の確認で一ヶ所に根付かず大霊湖を巡ると決めた二体だから、無事にまた会えて良かったよ。
「バフ?」
「今日はあいさつをしに来たんだ」
「バフ……?」
「そう。実はいろいろと一区切りついたから、そろそろ僕やラカムタさん達は黒の村に帰る事になったよ」
「バフ‼︎ ……バフ」
僕が言うと、大髭様は驚いた後に小さく残念そうに息を吐いて、苔巨人兵達はガクッと肩を落とした。残念に思ってくれるのはありがたいけど、僕にも帰る場所があるからしょうがない。だから僕にできる範囲で、大髭様達に今の時間を楽しんでもらおう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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