生まれてから 生まれた喜びと迫る現実
主人公の周りから見た状況説明になってます。そのため、後半にある弱い立場に対する発言に眉をひそめるかもしれませんが、ハンデを背負ってもマイペースに行く主人公を書きたいため、このような文章にしました。ご容赦ください。
「村長!!」
ドアを壊す勢いでバンッと開け竜人の青年が大声を出した。
「なんじゃマット、騒々しい。今は初親達へ色々説明しとる最中じゃから静かにせんか!!」
「そんな場合じゃないんだって!!」
「いったい、どうしたんじゃ?」
「ついさっき、ヘカテ爺さんから連絡があったんだけど、もう一人子供が生まれてたんだ!!」
「なんじゃと!! どういう事じゃ!!」
マットの言葉に、その場にいた全員が息を飲む。本来、卵の状態から一週間の間に自力で殻を破れなければ無事に生まれる可能性はなくなるはずで、竜人族の常識からすれば死者が生き返るくらいにありえない事だった。
「ヘカテ爺さんが言うには、卵から出られなかった子達を世界に還そうと孵化室に入ったら生まれてたらしい。ただ、かなり衰弱してて辛うじて息をしてる状態みたい」
「魔力の方は、どうなんじゃ?」
「微かにだけど吸収してるってさ」
「そうか……、その子は本当に自力で生まれたのじゃな……」
この世界では種族問わずに生まれてきたものへの試練が存在しており、例えば普人族の「成長の遅い弱い身体」・魔力の強い森人族の「魔力の暴走」・獣人族の「特定の病」などがある。そして竜人族にある試練は「卵からの自力での孵化」であった。
「それで誰の子供なんじゃ?」
「マルディさんとエステアさんの子供だって言ってた。それとすぐに来てほしいって」
「マルディ、エステア、すぐに卵育院に行くんじゃ!!」
「「は、はい!!」」
ありえない事が起きて唖然としていた初親達の中でマルディとエステアの二人は、村長に声をかけられた事でようやく正気を取り戻し立ち上がる。それと共に周りにいる他の初親達も口々に会話したり、生まれてこれなかった我が子に思いを馳せる。そんな少し騒がしくなってきた中で、マットが付け加えた言葉が場に困惑をもたらした。
「あ、それと村長にも、いっしょに来てほしいって言ってた」
「……わしもか? なぜじゃ?」
「わからない。ヘカテ爺さんに、村長にもそう言えって」
通常であれば、村内で司祭のような役割になっているヘカテが取り仕切っているため、村長が直接卵育院に向かう事はない。そのため村長が向かわなければならない事態が生まれた子供におきているという考えが、その場にいる全員に広がった。
「一応聞いておこうかの。マット、お前さんは赤子を見たのか?」
「…………部屋に入る前にヘカテ爺さんに止められたから見てない」
「良いじゃろ。とりあえず、向かうとするかの……」
村長が立ち上がり卵育院に向かおうとするが、マルディとエステアの二人は動けないのか棒立ちのままだった。
「マルディ、エステア、行かんのか?」
「え、…………あっ」
「す、すぐに行きます」
四人が卵育院の入口に着くとヘカテが出迎えた。しかしその顔は子供が生まれていたという喜ぶべき事とは逆の何か悩んでいる表情をしていた。
「ヘカテ爺さん、連れてきたぞ」
「うむ、待ち兼ねておったわ」
「ヘカテよ、いったいどうしたんじゃ?」
「マルディとエステアの子供についてなんじゃが……」
「私達の子が、どうかしたんですか!! まさか、世界に還ったんじゃ……」
「そうではない。確かに呼吸や魔力の吸収は弱いが安定しておるから落ち着かんか」
自分が生んだ子がどうなっているのかわからず焦っているエステアをヘカテはなだめた。
「申し訳ありません……」
「ともかく、ヘカテよ。子供に会わせてくれんか? それが一番話が進むじゃろう」
「そうじゃな……、そうするべきかもしれんが……」
「えらく悩んでおるな。この村の生き字引とも言われるヘカテらしくないのう。もう一度言おう、子供に会わせてくれんか?」
「わかった……。こっちじゃ……」
ヘカテの様子に、村長とマットは困惑しマルディとエステアは不安に押しつぶされそうだった。そもそも一週間を過ぎて生まれたという事自体が異常な事ではある。しかし、世界に還ると思っていた子供が一人とは言え生まれた事自体は喜ばしい事であるため、ヘカテのように悩む必要は一切ないはずであった。四人の胸中は困惑と不安しかなく、誰一人話さず複雑な心境のまま五人は部屋へと向かった。
「ここにおる」
卵育院の奥まった部屋の前でヘカテは立ち止まり告げた。この事でも四人の困惑と不安は、さらに増した。本来であれば生まれた子供は、卵育院の入口近くにある孵化室の隣の部屋に移されているはずで、建物の入口から真逆にあるような部屋に移されるはずがない。
「マットは他の子供達のところへ行ってくれぬか」
「……なんでだ?」
「中の子の事は、村長とマルディとエステアとわしの四人で話し合って数日中に皆へ説明する。それまでは中にいる子の事が断片でも広まってほしくないんじゃ……。すまん……」
「…………わかった」
不満げな表情をしていたマットはヘカテの真剣な表情を見て引き下がり、四人に背を向け他の子供達がいる部屋へと向かった。その姿を見送った後に四人が部屋に入ると、柔らかそうな布に全身を包まれて子供用の寝台に寝かされている子供がいた。
寝台の周りには換えの布や万が一のための薬草などがそろっていて、部屋の中は明るく掃除も行き届いており温かい。その事にマルディとエステアの二人は、我が子が他の子供達と同じように扱われていると安心した。
「エステア、抱いてやってくれんか? 二人も顔を見てやってくれんかの。そうすればわしが悩んでおった理由もわかるじゃろ」
「は、はいっ!!」
「子供が寝ておるから、静かにの」
注意されたエステアは慌てて口を閉じ静かに近づいていく。その様子を見て苦笑しつつマルディと村長の二人も静かに近づいていった。エステアは布が微かではあるが確かに上下しているのを見て目尻に涙を浮かべ、抱き上げた手で世界に還ったと思っていた我が子の体温を感じつつ振り向き二人の方に向かった。
三人で集まり三人ともが子供の無事を実感し、それぞれの顔を見て互いにうなずいた。そして微かに震える手でマルディが、子供の顔の部分を覆っている布をずらしてその顔を見た時三人は凍りついた。その子は竜人族に生まれながら全身が白かった。
通常、竜人族は色ごとに別れて別々の場所で生活しており、この村の黒の竜人の他に赤・青・黄土の竜人族が存在しているが白の竜人族はいないはずであった。また、他の種族を見ても白というのは存在しない。
「ヘカテ、この子は……?」
「おそらくじゃが、『欠色』と呼ばれる状態じゃろう……。わしも長い事生きて旅もしたが初めてこの目で見たのう」
「あの……、この子はずっと……?」
「文献通りなら一生白いままじゃ……」
あまりに予想外の自体に三人は何も言えなかった。そんな中、先に正気に戻り声を発したのは村長だった。
「…………ヘカテは何を悩んであるんじゃ? 確かに見た目は白いが、無事に生まれてきたんじゃ喜ぶべきじゃろうて」
「それなんじゃが……、このままこの子をこの村で育てて良いものなのかを悩んでおる……」
「どういう事だ!! いくらヘカテ爺さんでも、その言い方はないだろ!! この村は黒くないと住めないのか!!」
「落ち着かんか……、色の事を言っておるのではない。この子が背負う事になるかもしれない負担について言っておるんじゃ」
マルディはヘカテの言った事の意味がわからず眉をしかめる。
「それはどういう……?」
「わしが言いたいのは、この子がこの村を取り巻く環境に耐えれるかという事じゃ……」
「環境……?」
「『欠色』は肉体的にも魔力的にも弱いんじゃよ……。それも普人族と同じぐらいだそうじゃ。言い方は酷いが、この村の周りは普人族が……、それも子供の普人族が過ごせるようなやさしい環境ではない」
この村があるのは『大神林』と呼ばれる広大な原始の森の中であり、普人族で言えば国の最精鋭が数十人単位で最高の準備をして、ようやく活動ができるという異常な環境であった。当然、森に住む魔獣や植物も異常と言って問題ない存在ばかりだった。
「あとは、この子が将来周りとの差に悩まないかという事じゃ……。三人とも森の外に出て他の種族のところに行った事があるじゃろ? 初めて行った時どう感じた?」
「ヘカテ……?」
「落ち着かんかったのではないか? 周りに自分とは違う種族しかいないという環境じゃ落ち着けたか?」
ようやく三人はヘカテが何が言いたいのか気づく。ヘカテは、周りが家族を含めて全員黒いのに、自分だけ白いという事に悩まないかと聞きたいのだ。
「いずれ慣れるかもしれん。しかし、いずれがいつになるかわからんし、慣れる事ができるのかもわからんのじゃ……。それじゃったら始めから森の外に住んで、様々な種族に囲まれておった方が良いのかもしれん……」
一見すると、白いこの子を村から排除したいというような言い方に聞こえるが、ヘカテの目は心配そうに見ていた。無事に成長できるのか? 村人に特に同年代の子供に受け入れられるのか? 様々な事を心配しての発言だった。
「育てます……」
「エステア?」
「育ててみせます!! この子は一度世界に還りそうになっても生まれてきました。きっと強い子です。この子を信じます。それにこの子には私がいます。一人じゃありませんから!!」
「エステア、それは違うぞ。この子には俺もいる。それにこの子には二人の兄弟がいるんだ。この子一人じゃない。いつか俺と一緒に狩りに行けるくらい強くなるさ」
二人は強く真っ直ぐな目で村長とヘカテを見た。村長はその目を見て、この子は良き両親の元で成長できる事を確信する。それはヘカテも同じであった。
「そうか、それでは一足早いが、この子にはこの言葉を贈ろうかの……。この世界に生まれてきた事を、わしらの新たな仲間となってくれる事を感謝する」
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