青の村にて 改めての目標と限られた条件での現象
目が覚めて一番最初に目に入ったのは、イーリリスさんの家の天井だった。とりあえず自分の身体の状態を同調で確認しながら、ヌイジュとの立ち会いを思い出す。
「……完敗だったな」
元々、大人と子供以上に差があった上に、僕の長所である界気化した魔力での探知を無効化されたらどうしようもなかったね。……同調の結果も異常なしだから、本当に上手く加減されてたのがわかる。
「…………今が弱いという事は伸び代があるって事だと考えよう。よし」
僕は起き上がり、寝ている間に硬くなった身体をほぐしていく。そうして少し経つと部屋の外から僕を探る気配を感じて、僕のいる部屋へと慌しい足音が近づいてきた。
「ヤート、起きたか⁉︎」
「ヤート、身体の調子はどうなの⁉︎」
「ヤート君、大丈夫ですか⁉︎」
「ヤート君、うちのヌイジュがすまない‼︎」
みんなの勢いに押されながら僕は答える。
「えっと……、兄さん、ついさっき目が覚めたところ。姉さん、同調で身体に異常はないって確認してる。リンリー、問題ないよ。イリュキン、ヌイジュにはかなり気を使ってもらったみたいだから、僕の方からお礼を言いたいくらいだよ」
僕の言葉に四人は黙りお互いに顔を見合わせた。そして四人を代表する形で兄さんが口を開く。
「……ヤートが礼を? あいつにか?」
「うん、良い経験と勉強になった」
「ヤート君、本当かい……?」
イリュキンは困惑気味に聞いてくる。…………僕とヌイジュの立ち合いは、そんなに変だったのかな?
「ヌイジュは僕に全力を出させつつ、攻撃は速さ重視で僕の弱点を教えるような感じで僕がケガをしないように、すごく気を使ってもらった」
「……そうなんだ」
「まさか、あそこまで界気化した魔力での探知が通用しないと思わなかったよ。もっと鍛錬をして精度を上げないと、ヌイジュやラカムタさん達実力者には使えない」
「……ヤート君、もしかして今も?」
「うん、よくわかったね」
実は僕は目が覚めてから、ずっと界気化した魔力を放ち続けているのに、どうやらイリュキンは気づいていたようだ。
「これからは寝てる時でも、界気化した魔力を発せられるくらい界気化に慣れるのが目標。……うん?」
「どうした? ヤート」
「何か変な感じが……って、イリュキンか」
「ヤート君が気づいてくれて嬉しいよ」
「こういう感じなんだね」
「……そういえばヤート君は、自分以外のを感じるのは初めてだったね」
「……二人だけで話されたら、私達は何をしているのかわからないので困ります」
リンリーの言葉に振り向くと、リンリーだけでなく兄さんと姉さんも困惑していた。
「リンリー、兄さん、姉さん、ごめん。イリュキンの界気化した魔力を突然感じたから、少し驚いた」
「私からも三人に謝らせてほしい。唐突な行動をしてすまない」
「ヤートの言い方からして、今イリュキンは界気化した魔力を発してるのね」
「その通り」
「何でまた?」
「ヤート君の決意に触発されたのと、この際だから界気化を使えるものが集まった時に起こせる現象を、ヤート君に体験してもらおうと思ってね」
「現象だと?」
現象という言葉を聞いて兄さんが、僕を守るような位置に立つ。……さすがにこの状況で僕の負担になるような事は起こらないよ。イリュキンも僕と同じで兄さんの反応を見て苦笑していた。
「ヤート君、ガル、これから起こる現象に危険性は一切ないよ」
「……本当だろうな?」
「約束する。便利だけど実に地味な現象だから安心してほしい」
「……わかった」
兄さんはイリュキンの言葉を信用したのか、僕とイリュキンから離れた。それを見てイリュキンは僕の方へ右手を向ける。
「ヤート君、そのままで」
「うん、いつでも良いよ」
「それじゃあ始めるね」
……イリュキンは始めると言ったものの、イリュキンの右手から界気化した魔力が伸びてくる以外に変化はない。でも、イリュキンの界気化した魔力が僕に届いた瞬間、それは起こる。
『ヤート君、私の声は聞こえるかい?』
「あれ?」
イリュキンの口は動いてないのに、イリュキンの声が聞こえた。
「ヤート、どうしたの?」
「イリュキンの声が聞こえた」
「イリュキンは声を出してませんよ?」
「そうだぞ」
『三人には私の声は聞こえないさ。いや、聞こえないというのは正しくないな。感じ取れないと言った方が的を得ているね』
「イリュキンの声を感じ取れない?」
まず、引っかかるのは声を感じ取れないという表現。それに兄さん達にはと強調していた。僕と兄さん達の違いは、欠色と界気化を使えるかどうかで、今の状況的に重要なのは界気化のはず。僕は一つの可能性を確かめるために、頭の中でイリュキンに呼びかける。
『イリュキン、聞こえる?』
『聞こえるよ。おもしろい現象だと思わないかい?』
『界気化した魔力を通じて、僕とイリュキンはお互いの思考を読み合ってるから、声に出さなくても会話ができるんだね』
『そういう事。本当に便利だけれど地味な現象さ』
『有効範囲はどれくらい?』
『私とお祖母様で試した場合だと、安定して会話できたのはお互いが視界に入っていた時までだったよ』
『そうなんだ。界気化が使えるっていう条件は厳しいけど、離れた状況でバレずに会話できるのは実用性が高いね』
『私もそう思う。とりあえず今はここまでにしようか。ガル達が焦れてきてる』
『うん、わかった』
その後、兄さん達に僕とイリュキンで何をしていたのか説明をしたら、すごく羨ましがられた。実際に使う機会があるかわからない現象だけど、こういうのがあるって知れたのはすごい収穫になったよ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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