青の村にて 高笑う実力者と迎え撃つ達人達
ラカムタさん対ハインネルフさん・イーリリスさん・タキタさんの手合わせが再開された。まあ、再開されたのは最後までやりきるという面から見て別に何の問題もない。問題というかおかしい点を挙げるとすれば……。
「……ヤート君、四人とも手合わせを仕切り直してから、どんどん速くなってますよね?」
「うん、さっきまでのハインネルフさん達は、時折動きに急激な変化を加えるだけだったけど、今のハインネルフさん達はラカムタさんの動きが加速してるのに引っ張られて高速で動いてる」
なんとなくだけど今のラカムタさんは、前に三体と戦った時の僕みたいに目の前の相手以外の事は見えなくなってるんだろうな。
「クハハ、ハハハハハ‼︎」
……ただ、僕はあんなに高笑いをしてなかったと思う。
「ここまで伸び代があったとは予想外だ」
「ええ、しかもこの様子ですと、まだまだ強く速くなりますね」
「そして我らの動きにも対応しつつありますな」
ハインネルフさん達は、高速で動きながらも話し合えるだけの余裕があるんだね。……あ、ラカムタさんがハインネルフさん達みたいな急激な変化のある動きをして、タキタさんの横に回り込んだ。
「なっ‼︎」
「タキタ‼︎」
「クハハハハ……ハ?」
「甘い‼︎」
タキタさんは、自分の右側に回り込んだラカムタが放った左拳を回転しながらしゃがんで避けて、ラカムタさんの足を払う。そして空中で不安定な体勢になっているラカムタさん目掛け、ハインネルフさんが右突きを放った。
バキ‼︎ ドゴン‼︎ ガラガラガラガラ。
ラカムタさんは吹き飛び、地面を何回も跳ねながら広場沿いの建物の壁に突っ込み瓦礫に埋もれる。
「村長‼︎ お祖母様‼︎ タキタ‼︎ 今は手合わせのはず‼︎ 何を考えているんだ‼︎」
「ラカムタのおっさん‼︎」
「「ラカムタさん‼︎」」
「「「…………」」」
ハインネルフさん達はイリュキンの叫びにいっさい反応せず、真剣な目でラカムタさんが突っ込んだ瓦礫の山を見ていた。僕は三人の真剣さを不思議に思い、建物だった瓦礫の山に向かって界気化した魔力を放つ。……ああ、なるほど。
「イリュキン、兄さん、姉さん、リンリー、ラカムタさんは大丈夫だよ」
「……ヤート君、本当かい?」
「あの速さで突っ込んだんだぞ?」
「いくら竜人族の身体が頑丈でも無事とは思えないわ」
「少なくとも私達だと強化魔法込みでも厳しい勢いでした」
「もうすぐ出てくる」
僕の言葉を聞いたイリュキン達が瓦礫の山を見たと同時に、瓦礫の山は崩れ中からラカムタさんが現れる。界気化した魔力で見た限りだとラカムタさんのケガは、タキタさんの蹴りを受けた右腕が動かなくなってるのに加えて、ハインネルフさんの突きを受けた胸骨にヒビが入り打撲は数え切れないし頭からは出血もある。正に満身創痍と言って良いのに……ラカムタさんはハインネルフさん達をギラギラした目で見ていた。
「ラカムタ殿‼︎」
「おっさん‼︎」
「「ラカムタさん‼︎」」
「ククク、フハハハ、ハハハハハ‼︎」
兄さん達がラカムタさんに走っていこうとしたら、突然ラカムタさんは右掌で顔を覆い笑い出す。そのあまりに普段のラカムタさんからは想像できない様子に、兄さん達の足は止まり困惑した表情になる。
「お、おっさん……?」
「これは……殻を破ったのでしょうか?」
「もしくは、ほおけたかのどちらかでしょう」
「イーリリス、タキタ、気を引き締めよ」
「わかっています」
「同じく」
兄さん達や広場にいる他のみんなは、ラカムタさんにどう反応して良いのかわからないみたいだけど、ハインネルフさん達は油断を微塵もせずにラカムタさんと向き合っていた。そして体感だと数分で、たぶん実際は十秒くらい経った時にラカムタさんの笑い声が止まり辺りが静寂に包まれる。
ただ、この静寂は平穏や日常に続くものじゃない。どうしようもなく決定的な事が起こる前兆の静寂だ。その証拠にラカムタさんは、右掌を顔から離し何かを確かめるように掌を開閉していた。
「……これだ。この感覚だ」
ラカムタさんが声を発すると僕の背筋にゾワッと悪寒が走り、周りのみんなは無意識にラカムタさんから離れようと二、三歩下がる。
「ようやくつかめた‼︎」
「ヒッ……」
「ガアッ‼︎」
「ブオッ‼︎」
「排除シマス……」
ラカムタさんの身体から今まで感じた事のない莫大な魔力が放たれ、それにより誰かの口から小さく悲鳴が漏れる。しかも、まずい事に三体がラカムタさんの魔力に触発されて戦闘体勢になった。僕は界気化をやめて三体の方に走り寄り魔法を発動させる。
「緑盛魔法・鎮める青」
僕の腰の小袋の一つから青い霧が出てきて三体を包む。この状況で効果はあるのか疑問だったけど、少しすると三体の気配が落ち着いたので鎮める青を解除した。
「さすがにお前らも手合わせに加わったら手に負えないよ」
「ガァ……」
「ブォ……」
「スミマセン……」
「間に合ったから気にしないで。あとはラカムタさん達だね」
僕が振り向こうとした時、ラカムタさんの声が聞こえてきた。
「ハインネルフ殿、イーリリス殿、タキタ殿、今の俺は手加減はできない。うまく避けるか防ぐかしてくれ」
ラカムタさんが構えると別の魔力が吹き上がった。新しい魔力の源はハインネルフさん達だ。そして三人も構える。
「受けてたとう」
「光栄ですね」
「心が踊りますな」
「クハハハ」
四人とも楽しそうだね。……ただ、どう考えても四人の本気度が手合わせの域を超えてるから、手合わせを凝視してるみんなは引いてるよ? とはいえ四人は止まりそうもないし止めるのも難しそうだから、僕は用心のために腰の小袋から種を一握り取り出して足元に埋める。……この用心が無駄になれば良いな。
「クハハハハッ‼︎」
「ふむ、久方振りに血がたぎってきた」
「私達も、まだまだ若いという事だと思います。嬉しいですね」
「久々に力を振り絞れそうですな」
四人が強化魔法を発動させた。……うん、これはダメだね。周りのみんなも僕と同じ思いなのか、さらに数歩下がっていく。僕は四人が戦い始める前に準備しておいた魔法を発動させた。
「緑盛魔法・超育成・硬金樹円陣」
僕が魔法を発動させると、ある程度の広さで四人を囲むように広場の地面から樹が等間隔に生えて成長していく。そして高さ五ルーメ(前世でいう五メートル)まで成長したら、今度は樹々の間を埋めるように枝が伸びて絡み、硬金樹でできた円形の闘技場が完成した。
「ふう、間に合って良かった」
「ヤート君、これは……?」
「硬金樹に生えてもらって四人を囲んだ。あの四人の戦いの余波を防ぐには、これしかないって思ってね」
「……硬金樹なら大丈夫そうね」
「大霊湖の魔力を吸収してるから大丈夫だと思う」
ドンッ‼︎ ズズンッ‼︎ バゴンッ‼︎ ガキンッ‼︎
およそ四人の人が戦いで出せるはずのない打撃音・衝突音が響き、不規則で大きな振動も伝わってくる。……大丈夫だよね?
「イリュキン、とりあえず静かになるまで広場から離れよう」
「そ、そうだね。よし、みんな、慌てずに広場から離れるんだ」
イリュキンの呼びかけに広場にいたみんなは足早に離れていき、僕は広場の端に座る。
「ヤート?」
「万が一に備えて、ここに残るよ」
「そ、それなら俺も……」
「ダメデス」
「何でだよ⁉︎ ヤートだけに任せておけるか‼︎」
「私達、三体モ残ルノデ、アナタガタハ離レテクダサイ。理由ハ言ワナクテモワカルハズデス」
「く……」
「ガル、離れるわよ」
「今の私達だと足手まといになりかねません」
「認めたくないけれど、事実だね。ガル、行こう」
「わかった。ヤート、気をつけろよ」
「うん、いつもの通り無理はしない」
兄さん達を見送り、僕は僕の周りに座る三体に話しかけた。
「付き合ってくれてありがとう」
「イツモノ事デス」
「ガア」
「ブオ」
「うん、頼りにしてる」
僕と三体は轟音や地響きが鳴り止まないラカムタさん達の方を見る。長くなりそうだね。……そういえば僕の鍛錬は、どうなるんだろ? まあ、慌てる事じゃないから今は良いか。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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