青の村にて 青の達人達の力量と黒の実力者の思い
あれから数日経ち僕は接近戦の経験を積むために、みんなとの手合わせを体力と体調を見ながら繰り返している。自分自身で考えても接近戦には慣れてきたと思うけど、今の手合わせの相手にはギリギリの綱渡りのような攻防をしなければならなかった。
「ヤート殿、これはどうですかな?」
僕には答える余裕がないから、タキタさんの連撃を無言で必死に界気化した魔力で先読みしながら避け続ける。そしてタキタさんのほんのわずかな隙をついて飛び退くと僕は後悔した。なぜなら僕の着地点に先回りして構えてる人がいるからだ。
「ヤート殿、これはどう避ける?」
僕は考えるより速く無理矢理空中で身体をひねり、僕を撃墜しようと放たれたハインネルフさんの蹴りを左掌と右肘で受け止める。次の瞬間、ドンって衝撃が僕を襲い吹き飛ばされた。
「ほう、なかなかの反応だ」
「そうですな。界気化を用いた先読みも以前より安定しています」
ハインネルフさんの蹴りで吹き飛ばされた僕は二回ほど地面を跳ねた後、手足を着いて着地して深く息を吐く。
「ハー……、ハー……、ハー……」
体勢を立て直し少しでも呼吸を整えて身体に酸素を取り込む。ただでさえ二人の息つく暇のない攻撃で、本当に酸欠寸前になってたから身体と精神の余裕を取り戻す意味でも重要だ。
でも、僕の認識は甘かったらしく息を大きく吸って吐いた時に、後ろから僕の両肩をつかまれる。振り向くと右肩をハインネルフさんが左手で、左肩をタキタさんが右手でつかんでいた。
「ヤート殿、呼吸というのは隠すものです。呼吸が乱れているのは明確な弱味ですし、特に大きく息を吐いている時は身体の緊張が緩み素早い行動をしづらくなるので今のように決定的な隙となります」
「長時間呼吸を乱さず動ける事が理想とはいえ、あくまで理想。乱れた時を想定して、深く小さい呼吸や一度に大量に空気を取り込める呼吸法を身につけるべきだろう。今日はここまでだ」
「あ……りが、とう……ございまし……た」
僕はハインネルフさんとタキタさんにお礼を言ってから広場の隅に移動して座り込み呼吸を整えていると、僕の両隣に誰かが座る。
「ヤート君、大丈夫ですか?」
「青の村長とタキタ相手に数分間保ったのはすごい事だよ」
リンリーとイリュキンだった。僕はうなずいて二人に返事をした後、息が整ってから心の底から思った事をつぶやいた。
「青の大人は本当に達人だ」
「そうですね」
「ああ、私もそう思うよ」
「どれくらいの鍛錬をしたら、二人の域に到達できるのかな?」
「……想像できません」
「身近にいる私でも、はるか上としかわからない。追いつこうとはしてるけれど、いつになる事やら」
僕とリンリーとイリュキンは、強化魔法を全開にした兄さんをたやすく相手をしているハインネルフさんとタキタさんを見て遠さを実感する。
それにしても僕の望んだ一対一の手合わせに、ハインネルフさんとタキタさんが参加するようになってからより実戦的だ。特に一通り手合わせが終わった後、イーリリスさんから僕と兄さん達に、格上を相手にした実戦を想定してハインネルフさんとタキタさんとの手合わせをするよう言われた時は、格上すぎる二人を相手にする意味はあるのか疑問だったけど、有意義な過程と結果しかなかった。
「僕が必死に動いて、なんとか避けれるように加減する。……どれだけの差があったら、そんな事ができるんだろ?」
「あの二人はすごいぞ。俺には、あんな細かい見切りは無理だな」
いつのまにか僕達の後ろにいたラカムタさんから衝撃的な言葉が出る。僕は思わず振り返りラカムタさんの顔を見ると、ラカムタさんはハインネルフさんとタキタさんの動きを真剣な目で追っていた。
「ラカムタさんでも、そう思うんだ……」
「もちろん実力で負けるとは思ってないが、少なくともヤート達を自然に限界を超えさせる指導力では一歩も二歩も譲らざる得ない」
「ラカムタさん、どういう事?」
「あれだけ必死で動いてたら自覚できてないか。ヤートの動きの質を比べたら、手合わせの始めと終わりで雲泥の差だったな」
「え、あの短時間で僕は、そんなに動きが良くなってたの?」
「そうだ。変な癖を付けさせずに短時間で成長させる……。俺も、まだまだ未熟だな」
相手のすごいところを素直に認めれるラカムタさんも充分すごいと思うよ。その後は無言で手合わせを見つつ何巡か僕達の手合わせが終わると、ラカムタさんはハインネルフさんとタキタさんの前に立った。
「おや、ラカムタ殿、どうかされましたかな?」
「ハインネルフ殿、タキタ殿、そしてイーリリス殿との手合わせを希望したい」
僕達を含めた広場にいた全員が驚いた。……いや、驚いてない人達もいる。
「これはこれは」
「ほう、おもしろい」
「ご指名とあらば喜んで受けましょう」
ラカムタさんの言葉にハインネルフさんとタキタさんはニヤリと笑い、イーリリスさんの三人はものすごく嬉しそうに笑いながら軽やかな足取りで近づいていく。……とんでもない事になったな。
「年甲斐もなく子供達の熱気に当てられた俺を笑ってくれて構わない」
「ラカムタ殿、それは心が若い証拠」
「さよう。未だ成長の伸び代を残す自分を誇るべきだ」
「うふふ、それに私達三人も子供達のやる気に触発されてますので、ラカムタ殿と同じですよ」
「……そうか、それでは一戦よろしく頼む」
ラカムタさんがそう言って構えると、三人も表情を引き締めて構えた。僕は界気化した魔力を四人に向かって放ち、兄さん達は一瞬も見逃さないように目を見開き、三体や他のみんなの視線も集まっている。そして世界最高のお手本となる手合わせが始まった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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