赤の村にて 意識の差と悩み
「さてと」
僕が朝食の席から立つと周りがシンと静まり返った。それに気づいた僕は周りを見たけど、特に何も言われないから首を傾げてたら姉さんが近づいてきた。
「ヤート、どこか行くの?」
「特に目的地はないよ。食後の軽い散歩」
「……そう。えっと……」
「どうかしたの?」
「また、あの破壊猪と会うのかしら?」
「破壊猪の気分次第かな」
「そうなの……、ところで少し話があるんだけど良い?」
「良いけど、何?」
「立ち話もなんだから座ってちょうだい」
なんか姉さんの雰囲気が固いから、どうやら重要な話みたいだね。僕が元の席に座ると姉さんが僕の正面に座って、黒のみんなも僕と姉さんの周りに集まった後に姉さんが話し始めた。
「ヤートは私達同年代の中でも、特に頭が良いわ。冷静だし適切な判断力もできる。この事は私だけじゃなくて黒のみんなも認めてるわ」
「……ありがとう」
「そんなヤートに聞くんだけど、……ヤートは何で魔獣と関わるの?」
「どういう意味?」
「竜人族は、いろんな意味で強いわ。でも、そんな竜人族でも魔獣には進んで関わる事はないの。特に相手が高位の魔獣の鬼熊とかだったら単純に危険だから絶対逃げるわ。そんな魔獣に何でヤートは関わるの?」
「自分から進んで関わってるわけじゃない。 鬼熊も破壊猪も初めは手当で自分から近づいたけど、その後はあいつらの方から近寄ってくるんだけど……」
「そうなの……、でも、それだったら逃げなさいよ!!」
「…………なんで?」
姉さんにあいつらから逃げろって言われたけど、気の良い奴らなのになんで逃げなきゃいけないんだろ? ……どうやら僕が本気でわかっていない事に黒のみんなは驚いていた。
「なんで逃げなきゃいけないの?」
「それは危ないからよ」
「鬼熊と何回も散歩したし、破壊猪の側で昼寝したけど、別に危ない事はなかった」
「ヤート……、今まで何もなかったからって、これからもないとは限らないでしょ? だから、ヤートには用心をしてほしいの」
なんか姉さんと僕の間に意識の差みたいなのがある気がする。
「あいつらに用心しろって言われても困る」
「……私の言葉は信用できない?」
「そうじゃない。ただ用心しようがないってだけ」
「どういう事?」
「かなりの確率で向こうから近づいてくるのに、会わないように用心するのは無理。それに、まず僕の体力じゃ逃げれない」
「確かに……そうだけど」
「極端な話になるけど、あいつらには獣避けも効かないから、もしあいつらに会わないようにするんだったら村から一歩も出ないか普人族のいるところに行くしかないと思う」
「それは……、でも「マイネ、もうよせ」ラカムタさん、これじゃあ……」
「お前も自分でヤートは俺達の誰よりも冷静だと言ったな? だったら心配する気持ちはわかるが、ヤートなら下手な事はしないだろうから好きにさせてやれ」
「…………わかったわ。でも、ヤート、ちゃんと気をつけるのよ」
「いつも言ってるけど、僕は自分のやれる事しかしないから無理はしない」
「それが出来ない奴は多いんだがな」
「散歩に行って良い?」
「ああ、良いぞ」
ラカムタさんから許可が出たから門に向かって歩き出すと、なんでか黒のみんなやイギギさんがついてくる。
「見送りとかいらないんだけど」
「まあ、気にするな。単なる気まぐれだ」
赤の村の門に着くと、すでに破壊猪が門から少し離れた森の中にいた。どうやら待っていたみたいだ。
「わざわざ待ってなくても良いのに……」
「ブオ」
「そうは言っても、お前にはお前の生活があるでしょ?」
「ブオブオ」
「はあ、了解。それじゃ、またいっしょに散歩に行く?」
「ブオ!!」
「今日もよろしく。それじゃあ行ってきます。それと破壊猪と、いっしょだから遠出してくる」
「わかった。楽しんでこい」
黒のみんなに見送られて散歩に出る。僕の横には、すっかり散歩仲間になった破壊猪の大きな身体がある。うん、これで安全面は安心安心。なんでか姉さんに怒られたけど、今日もゆっくり散歩ができる。良い一日になりそうだ。
「なあ、ラカムタ。ヤートの無自覚はどうにかならんのか?」
「俺に言うな。ヤートに言え」
「ヤートがごく普通に魔獣と接しているのを、他のガキどもが自分もできると勘違いして下手に魔獣に近づいたらケガじゃすまんぞ」
「黒では、とにかくヤートがしている事は、大人でもできない事だからマネしようとするなと言っている」
「それに対する黒のガキどもは、どんな反応だ?」
「ヤートのマネなんかできるわけないって、ほとんどの子供が即答してたな」
「……ほとんどね。その他の一部の奴はどうした?」
「高位の魔獣は無理でも低位の奴ならいけるかもしれないと、比較的大人しい奴を探している」
「ほう、良い度胸をしている」
「単にうらやましいかららしいぞ」
「そ、そうか」
「結局のところ、何回も言うしかないだろう」
「何か対策ないのか?」
「子供は大人の言う事を素直に聞く事は少ない。というかむしろ反発するだろ? だから、一度痛い目を見るまで無理だな。強いて言うなら遠巻きに見守るぐらいだろ」
「他の色の奴らとも話したが、どこのガキどももマネしようとしているみたいだ」
「子供の事で悩むのは大人の役目と割り切って諦めろ」
「うぐっ!! ……諦めるしかないのか?」
「諦めろ」
この日から、ヤートの行動に感化された子供達の行動に頭を悩ます大人達の会話が赤の村のあちこちで繰り広げられるようになった。
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