青の村にて 三人での手合わせ開始と確認のための試し
兄さんと姉さんが僕に向かって爆走してくる中、僕は二人に界気化した魔力を放ち二人の考えを探る。…………うん、兄さんはとりあえず全力で殴りかかってくるつもりだし、姉さんは姉さんで兄さんごと僕を吹き飛ばすつもりだ。姉さんの考えがひどい気もするけど、兄さんの耐久力を考えたら戦術としてはあってると思う。
「強化魔法」
「行くぞ‼︎ ヤート‼︎ おら……あ?」
「え……?」
僕は真っ向勝負をするつもりはさらさらないので、まず強化魔法を下半身に集中させた状態で発動して、兄さんの少し後ろを走っていた姉さんの前に飛び込む。どうやら兄さんと姉さんは僕から向かってくるとは思わなかったみたいだね。
「姉さん、油断大敵だよ」
「あ、きゃあ‼︎」
「おわ‼︎」
強化魔法を腕力強化に切り替え唖然としてる姉さんの服をつかみ、兄さんにぶつかるように放り投げた。その結果、姉さんは兄さんの背中にぶつかり、そのまま二人はゴロゴロと地面に転がる。うん、この隙を逃す手はないね。僕は強化魔法を下半身集中に切り替えて、体勢を立て直した兄さんと姉さんの後ろに回り込む。
「マイネ、何やってんだよ‼︎」
「うるさいわね‼︎ 予想外だったんだからしょうがないでしょ‼︎」
「チッ、それよりヤートは⁉︎」
「……後ろ‼︎」
「正解だよ。姉さん」
僕は強化魔法を通常状態にして、兄さんと姉さんの背中に攻撃を加えようとしたけど、二人はそれより早く前に転がるように跳んで僕から離れた。……うーん、数瞬とはいえ強化魔法の切り替えに間があるせいで、攻撃できなかったな。要精進の一つだね。
「ふー、危ねえ」
「このやりづらさは、ヤートと手合わせしてるって感じるわね」
「そう? リンリーもよく姿と気配を消して隙をついたり死角から攻撃してるよ?」
「リンリーの行動は全部攻撃につながるけど、ヤートの場合はそうじゃないから私達にはやりづらいの」
「なるほど、兄さんと姉さんがそう思ってくれるなら、僕の戦い方は間違ってないみたいだ」
「ガル……」
「わかってる。ヤートみたいな相手には中途半端が一番まずい、だろ?」
兄さんと姉さんの雰囲気が変わる。僕は構えてさりげなく掌を兄さんと姉さんの方に向けると界気化した魔力を放ち、二人の動向を探った。……おおー、兄さんは僕に自分の動きや考えを読まれるのを覚悟でどんどん前に出てこようとしてて、姉さんは攻めず兄さんに対応した僕の隙を徹底的に狙うようだ。二人なんだから役割分担するのは自然な流れだね。……そういえば一つ気になってる事があるけど、まあ今は置いておこう。
「行くぞ‼︎」
兄さんは大声を出すと、さっき以上の速さで僕の前に来て手足を振り回してくる。僕は右掌から界気化した魔力を放ち兄さんの攻撃を読んで避けつつ、姉さんに左掌を向けて界気化した魔力を放ち姉さんの様子を探るけど、姉さんは動かず冷静に僕の動きを見続けていた。これは本当に兄さんへの下手な対応ができないな。
「おらおらおら‼︎ ヤート、避けるだけか⁉︎」
「とりあえず、今は、ね」
兄さんの打撃は全部大振りだけど、僕が反撃しようとすれば界気化した魔力を通じて姉さんの動こうとする意思感じるからやりづらい。……じっくり見られるのって、こんなに落ち着かないんだね。今まで僕と相対した人達が、荒れてた理由がよくわかった。謝る気は全くないし、僕はこれからも相手を観察するやり方を変える気はないから、未来で僕と相対した人達には荒れてもらおう。問題なのは……。
「ヤート‼︎ 逃げてるだけじゃ勝てねえぞ‼︎」
今のこの状況をどうするかだね。僕が動けば姉さんも動くとなれば、……試すしかないかな。僕は界気化した魔力で姉さんの考えを改めて確認した後、兄さんの左の振り打ちをしゃがんで避け、そのまま兄さんの顎を狙い右拳を突き上げる。
「これを待ってたわ‼︎」
姉さんは僕の右側に一瞬で回り込むと、僕の頭を狙って突きを繰り出してきたから僕は強化魔法を頭と首に集中させて、わざと姉さんの突きを受けた。
「なっ……」
「嘘……」
ゴンっていう鈍い音がして視界が揺れたけど、それだけだ。強化魔法を集中させた部分なら、素の状態の兄さんと姉さんの打撃は受けられるとわかったのは大きな収穫だね。
僕は自分の状態を確認すると、そのまま姉さんの突きを受けた僕を見て唖然としてる兄さんの顎を右の突き上げで打ち抜き、次に僕へと突きを当てた事に驚き硬直してる姉さんへ、右足を支点に回転しながら左肘を放ち姉さんの脇腹に当てた。
「かひゅっ……」
「う、く……」
強化魔法を頭部と首に集中させたまま放った打撃だからそこまで威力は出てないけど、兄さんと姉さんがまともに反応できない時に当てた事で、二人の体勢を崩せたからそれなりの意味はあったみたいだね。僕は続けて攻めようとしたらグイッと身体を引かれ持ち上げられた。この感じは覚えがある。
「ラカムタさん、手合わせの最中なんだけど?」
「その様子だとマイネの打撃を受けた影響はないみたいだな」
「姉さんは素のままだったし、僕は強化魔法で強化してたからね」
「そうだとしても、わざわざ受ける必要あったのか?」
「え? 手合わせは今の自分を知って鍛えるためにする事なのに試したらダメなの?」
「……否定はしないが」
「それに戦いで相手の意表をつくのは大切でしょ? 兄さんと姉さんは僕が自分から向かってきたり、打撃を受けないって無意識に思ってたから隙を作るには良いかなって」
「…………」
ラカムタさんは僕の発言を聞くと頭に手を当てて考え込み始めたけど、たぶんこれはどういう風に言えば良いのか悩んでる感じだね。まあ、それは良いとして兄さんと姉さんとの手合わせは、これで終わりなのかな?
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
最新話の後書きの下の方にある入力欄からの感想・評価・レビューをお待ちしています。
 




