青の村にて 転倒と考察
ハインネルフさんとイーリリスさんとタキタさんの間で、微妙な空気になってるのは気にせず自分の鍛錬を始めよう。まずは普通に強化魔法を発動させる。
「強化魔法」
僕の身体が強化魔法の発動した証として魔光に覆われた。あまり使わない魔法のせいか練度はそこまで高くないけど、自己評価で可もなく不可もなく程度にはできてると思う。ただ……。
「…………」
考え込んで動きを止めた僕に、そばで見守っているラカムタさんが怪訝そうな表情で聞いてきた。
「ヤート、何を考え込んでるんだ?」
「やっぱり強化魔法は、僕向きじゃないなって」
「何で、そう思った?」
「僕の元々の身体能力が低いし、強化魔法自体の出力も小さいから、強化の割合が大きくない」
「どれぐらい強化されるのかはわかるか?」
僕は強化魔法を消したり、また発動させながら同調で自分の身体の状態を確かめる。
「僕の素の身体能力を一としたら、強化魔法発動後は二くらいになってる」
「倍増してるなら十分使えるだろ」
「うーん、兄さん達と比べると見劣りが目立つ」
「それならガル達のは、どれくらいだ?」
「素の僕を一としたら素の兄さん達は三か四だね。それで兄さん達が強化魔法を発動させたら九から十二くらいになる」
「……ヤートとは四倍以上の差があるわけだな」
「うん。僕が強化魔法を普通に発動させるのは意味が薄いね。もっと別の発動のさせ方を考えないといけない」
「わかった。納得できるまでやってみろ。ただし」
「非常事態じゃないから無茶はしないよ。疲れたらすぐに休む」
「……それなら良い。相談があるなら、いつでも言うんだぞ」
「その時は遠慮なく頼らせてもらうよ」
ラカムタさんにはこう言ったものの、どう発動させたら良いんだろ? ……まずはより正確な現状の確認からか。
「強化魔法」
もう一度、強化魔法を発動させた状態を同調で確認すると、筋肉・神経・脳の処理速度など、僕の身体の各部が均等に強化されてるのがわかった。……そういえば前に遠くを見るために目だけを意識して強化した事があったな。
その時と同じように目に意識を集中した状態を同調で確認すると、僕の目・視神経・脳の視覚野が強化魔法の総量の内の九割で強化されていて、残りの一割は身体の他の部分を強化していた。試しに両腕・下半身・上半身の順番に、それぞれ強化魔法を集中してみたら、集中した箇所を九割で他の部分を残り一割で強化される事がわかった。
それに強化魔法発動状態で、集中する部分を切り替えても消耗はないって事も判明する。やっぱり魔力の少ない僕には普通に発動するよりも、その時に必要な身体の部分に集中させる切り替えが有効みたいだね。
さて次は、この集中させた状態で問題なく動けるのかを確かめよう。僕は強化魔法を下半身に集中させて一歩前に跳んでみる。
ベシャッ‼︎
思いっきり派手に転け地面に顔をぶつけたの見て、ラカムタさんがさっきより慌てて近づき僕を起こす。
「ヤート‼︎ 大丈夫か⁉︎」
「……けっこう痛い」
「いきなり転けてどうしたんだ⁉︎」
「強化魔法の発動の仕方を変えて試しに動いたら着地に失敗した」
「大丈夫なのか?」
「顔をぶつけただけだし、次はもう少し上手く転けるから特に問題ないよ」
「それなら良いんだが……」
なんというか僕の行動をハラハラしながら見てるラカムタさんが少し離れたのを確認して、僕はさっきの失敗の考察を始める。まず考える事は何よりも先に転けた原因。日常生活で転けるとしたら、意識してない段差に足を取られるとか足がもつれるとかがあり、さっきの失敗を分類するなら足がもつれて転けただね。
それなら次は、なんで足がもつれたのかだ。足がもつれるというのは、単純に考えて上手く身体を動かせてないって事。なんで上手く身体を動かせないかと言えば、……頭で考えた動きを身体で再現できてない? 僕は確認のために、さっきと同じ状態で一歩前に跳んだ。
ガッ‼︎
今度も転けたけど、あらかじめ転ける事を予想してたため、きちんと手をついて顔を地面にぶつける事は避けた。その際、ラカムタさんが近づいて来ようとしたものの、僕がすぐに立ち上がったから静観してくれたのでありがたく考察を続ける。
そして少しの間考えた結果、転ける原因は僕の現状そのものだと理解できた。普通の強化魔法の発動状態だと、思考・感覚・身体が全て同じ割合で強化されるから、いつもと変わらない感じで動けるけど、僕が今試してる部分的に集中させる強化魔法の場合、例えば下半身に九割集中させたら思考・感覚は残りの一割でしか強化されない。この強化の割合に差がある状態で、いつも通り動こうとしたのが、そもそもの間違いだったね。これは変則的な強化状態に慣れるにしても、適切な強化の割り振りを決めるのにも時間がかかりそうだ。
「ふー……」
「ヤートがため息をつくのは珍しいな」
「先は長いなって思ったから」
「ヤート、何度も言うが無茶はするなよ」
「わかってる。鍛錬で無茶はしない」
「それなら良い」
その後も僕はラカムタさんに見守られながら、なんとか今の僕が使いこなせる割合を探り出すために、強化の割合を変えては動いて転けるという事を繰り返した。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
最新話の後書きの下の方にある入力欄からの感想・評価・レビューをお待ちしています。




