青の村にて 力強い宣言と達人達の遊び
「全く……、子供達の前であれほど本気になるなんて、何を考えているのですか」
「イーリリス殿、申し訳ない」
「久しく忘れていた戦意の高ぶりに当てられてしまいました。申し訳ない」
「私ではなく子供達に謝ってください。特にヤート殿へ、です。ヤート殿の制止を引きちぎって手合わせを続けるなど言語道断です」
ラカムタさんとタキタさんが、イーリリスさんに怒られている。まあ、あのまま強化魔法を発動させた状態で手合わせを続けてたら、どういう結果になったかわからないし、最悪の結果もあり得たからしょうがないよね。でも、僕も前に大神林を吹き飛ばしてるから、二人の事をとやかく言えないか。
今後に何が起こるかわからないけど気をつけるに越した事はないなって考えていたら、ラカムタさんとタキタさんが僕の方に近づいてきた。どうやらイーリリスさんからの説教は終わったみたいだ。
「ヤート」
「ヤート殿」
「どうかした?」
「ヤートが俺達を止めたのはわかってたんだが止まれなかった。すまん」
「ヤート殿の気づかいを無為にして申し訳ない」
「さすがに樹根触腕を引きちぎられた時は焦ったけど、ラカムタさんとタキタさんが無事な状態で手合わせが終わって良かったよ」
「「…………」」
僕の言葉を聞いてラカムタさんとタキタさんは気まずそうにしている。……うーん、もう少し言葉を続けた方が良いのかな?
「それにラカムタさんとタキタさんの本気を、一部でも見れて面白かったし良い刺激になった」
「そうなのか?」
「そうだよ。ねえ、兄さん、イリュキン」
僕が言うと、兄さんはラカムタさんの前にイリュキンはタキタさんの前に一瞬で移動した。兄さんとイリュキンの移動を音にすると「バッ」って感じで、ラカムタさんとタキタさんの「フッ」っていうほぼ無音に比べたら一瞬の移動は同じでも荒く見える。兄さんとイリュキンも自覚できてるのか、納得いかない雰囲気を醸し出す。
「ガル……」
「……おっさん、必ず超えてやるからな」
「姫さま?」
「ヤート君の言う通りだ。タキタ、私の成長を見ていてくれ」
二人はそれぞれ宣言すると振り返る。
「マイネ、鍛錬に付き合ってくれ‼︎」
「しょうがないわね。私ももっと動きたい気分だから付き合ってあげるわ」
「リンリー、君の動きが見たいから手合わせを願いたい」
「……わかりました。私も手合わせをしたいと思っていたので、誘ってもらえて嬉しいです」
四人が広場の真ん中に歩いていき手合わせが始まった。乱闘の時とは違い地味で淡々としたものだけど、自分の動きを確かめ質を上げようと試行錯誤をしているのが一目でわかる真剣さのため、兄さん達の様子を見守る全員を感心させるものになっていた。……よし、良い機会だ。
「僕も鍛錬をするか」
「「「「「エッ⁉︎」」」」」
僕がポツリとつぶやいたら、広場にいるみんなが驚いた顔になって、兄さん達も鍛錬を中断する。みんなの反応が納得できないけど、気にしないようにして広場の大霊湖側の端に歩いていく。そして深呼吸をして集中しようとしたら、ラカムタさんが慌てて走ってきた。
「ま、待て‼︎ ヤート、何をするつもりだ⁉︎」
「何って鍛錬だけど」
「ヤートがこれからするつもりの鍛錬の内容を教えてくれ‼︎」
「身体の動きの確認と魔法の質の向上だね」
みんなが僕の魔法という言葉を聞いてビクッと身体を震わせた。…………僕はどんな風に思われてるんだろ?
「……魔法を使うのはダメ?」
「青の村の中で大規模に植物を成長させるのはダメだな」
「強化魔法なら問題ないでしょ?」
「ヤートが強化魔法……?」
僕の使うつもりの魔法が強化魔法だと知って、ラカムタさんは首を傾げた。まあ、あまり僕は使わない魔法だからしょうがないかな。
「何かしらの戦いになった場合、僕は基本的に敵から離れた場所で魔法を放ったり、敵の近くで戦うみんなの補助をしてる」
「そうだな……」
「みんなや三体の方が間違いなく僕より接近戦で強いから自然な流れだけど、それは僕が接近戦を疎かにして良い理由にはならないよね?」
「……まあな」
「あと僕が固定砲台みたいな感じでいるより、ある程度動ける砲台になったら戦い方の幅も広がる」
「確かにその通りだ」
「ふむ、なかなか筋の通った考え方ですな」
僕とラカムタさんが話していると、いつの間にか僕の隣にいたタキタさんも話に加わった。……というかタキタさん、気配を消して近づいて来る必要あったの?
「それでヤート殿、なぜ強化魔法なのですか? ヤート殿の主力は緑盛魔法のはず」
「樹根魔装とかで植物達から力を貸してもらえるけど、いつでもすぐにできるかって考えると、状況によっては僕の独力で発動できる強化魔法の方が有効な場合もきっとあるって考えたんだ」
「なるほど、それもヤート殿の言う戦い方の幅を広げるという事に繋がるのですね」
今度はイーリリスさんがタキタさんとは逆の僕の隣にいつの間にかいた。だから、なんで気配を消して近づいて来るの?
「……うん、その時になって強化魔法の質が低くて動けないのは嫌だから」
「自分の弱みを理解も対策もせずに未熟なままでいるのは、確実に他者の足かせになる時が来るので下の下です。それに比べると、不確定な未来を考えて行動できるヤート殿は素晴らしいですよ」
「イーリリスさん、ありがとう」
「先ほどのラカムタ殿とタキタの強化魔法は、良い参考になりますね」
「うん、二人の安定感のある強化魔法を到達点だと思って、いろいろ試してみるつもりだよ。そんなわけで広場で魔法を使っても良い? ハインネルフさん」
確信は持ってないまま振り向きながら聞くと、ハインネルフさんが僕から二歩離れた場所に立っていた。やっぱりハインネルフさんも気配を消して近づいてきてた。
「ハインネルフ、残念でしたね」
「あと一呼吸でヤート殿の後ろを取れましたな。誠に惜しい」
「…………」
ハインネルフさんは、イーリリスさんとタキタさんに言われ、ジロッとにらんでいる。
「ハインネルフさん?」
「…………ああ、大規模なものでなければ魔法を使ってもらって構わない」
「ありがとう」
「……いや、自己研鑽に励むのは良い事だ。わしも鍛錬せねばな……」
僕の後ろにたどり着けなかったのが、そんなに悔しかったんだ。なんというか達人達の感覚は独特なんだね。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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