青の村にて 大きくなる傍観者の消耗と手合わせの幕引き
あれから気を抜かずにラカムタさんとタキタさんの手合わせを観察してるわけだけど、目と首が痛くなってきた。
痛くなる理由は明白で、ラカムタさんとタキタさんの手合わせに変化が出てきたからだ。……いや、手合わせ開始当初に比べたら、激変したと言って良いかもしれない。
なぜなら手合わせ開始当初、ラカムタさんとタキタさんは一歩も動かずに手技だけで戦ってたけど、今は僕がほんの一瞬まばたきすると二人は広場の端から端まで移動してたりするから二人を追って動かす首が疲れる。
それにさっきタキタさんがラカムタさんの腕をつかもうとしたのをきっかけに、手合わせの中に組み技と投げ技が混ざってからは、例えば僕がまばたきしたら投げられたラカムタさんと投げたタキタさんが入れ替わるといったように、手合わせがコマ抜けした映像を見てるみたいになっている。
たぶん、投げられたラカムタさんが地面に叩きつけられる前に着地して、そのまま勢いを殺さずタキタさんを投げ返すといった事をやっているんだと思う。
まばたきっていうほんの一瞬で、こういう事が起こるんだから余計にジッと見る必要がでてきた。嫌な予感が消えないから気を抜くつもりはないとは言え、少しも気を抜けない緊張から僕の目以外にも身体の節々に影響が出てる。本当に目が痛い。チラッと兄さん達を見たら僕よりは小さいけど兄さん達も、それなりにラカムタさんとタキタさんの手合わせを見てるのに疲れてるみたい。
そんな手合わせを見てるだけなのに僕達が消耗してる中、とうとう決定的な事が起こった。
「グッ……」
「まずは一撃ですな」
気づいたらラカムタさんにタキタさんの突きが打ち込まれてズザザッて後退した。はたから見ていた僕からすると隙なんて見つけられなかったのに、どこに隙があったんだろ? でも、実際にラカムタさんが打たれてるから、タキタさんくらいの達人じゃないとわからない小さな隙があったのかな?
僕が二人のやり取りを少しでも理解しようと考えていたら、ラカムタさんはタキタさんに打ち込まれたところを触った。
「…………フン」
ラカムタさんの表情が、さっきまでの戦いを楽しむ感じから、倒すべき存在を見る目に変わっていく。うっ、ラカムタさんからピリッとした気配が放たれて皮膚が痛い。ここまで本気のラカムタさんを見るのは初めてだね。
「一撃を返させてもらうぞ」
「ホッホッホ、できるのならいつでも」
「ならば今からタキタ殿の正面に飛び込んで胸を突く。受けるなり避けるなり好きに対応してくれ」
「お手並み拝見といきましょ……? ガハッ‼︎」
ラカムタさんは離れていても肌にビリビリ感じる気配を放っているとは思えないくらい静かにフッとタキタさんの正面に現れた。あまりにも自然で無駄のないその動きに僕達だけじゃなくタキタさんの認識も遅れて、次の瞬間放たれたラカムタさんのひときわ鋭くまっすぐな突きは、反射的に動いたタキタさんの受けを弾いてタキタさんの胸に叩き込まれる。
「宣言通り一撃返したぞ」
「…………」
タキタさんの表情も変わった。原因は間違いなくさっきのラカムタさんの動きだと思う。あの無駄のない自然な動きは、どう考えてもタキタさんの動きだ。要は自分が得意とする動きをきっかけに打撃を受けたんだから、それは面白くないはず。
「ひとまず、お見事と言っておきましょう」
「そうか」
「フフフ……」
「ハハハ……」
「「強化魔法」」
ラカムタさんとタキタさんが同時に強化魔法を発動させた。すごいな。今まで僕が見た強化魔法の中で一番安定していて力強い。…………って、感心してる場合じゃない。
「緑盛魔法・超育成・樹根触腕」
僕はすぐさま腰の小袋から種を取り出し、足もとに埋めて魔法を発動させたけど、この少しの間にも二人は強化魔法を手足に集中させて攻撃力を上げていく。なんとか間に合わすため、急いで樹根触腕に伸びてもらう。そして今にも動き出しそうな二人に巻きついたから、良かったって安心したけど甘かった。
バキャッ‼︎
ラカムタさんとタキタさんは自分達の身体に巻きついた樹根触腕を引きちぎり走り出す。兄さん達や広場にいた他の青の大人達も二人の本気さに変だと気づいたみたい。僕はもう一度樹根触腕に伸びてもらうか、三体に止めてもらうかほんの少し迷っていたら、ラカムタさんとタキタさんはお互いに大きく踏み込み全力の突きを放つ体勢になっていた。
ドパンッ‼︎
ラカムタさんとタキタさんの拳が空気を突き破って衝撃波を生み僕達の視界を奪う。いったい結果はどうなった⁉︎
「ラカムタ殿、そこまでだ」
「タキタもです。お二人共、子供達が見ている前で、本気になりすぎですよ」
衝撃波が収まりハインネルフさんとイーリリスさんの落ち着いた声が聞こえたから見ると、ハインネルフさんがラカムタさんの腕を、イーリリスさんがタキタさんの腕をそれぞれつかんで止めていた。大惨事が起きなくて良かったって胸をなでおろしたけど、ふと二人の突きがあと少しでお互いの身体に当たる寸前だったのに気づいて背筋がゾッとした。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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