青の村にて 黒の子供達の困惑と黒の顔役の高笑い
僕から少し離れた場所に、ラカムタさんとタキタさんが手合わせをするために向かい合っている。そんな二人の表情はラカムタさんは困惑気味で、タキタさんは楽しそうに笑ってるから対称的だ。
「タキタ殿、やはり顔役の俺が戦うのは……クッ‼︎」
ラカムタさんがなんとか手合わせを回避するためにタキタさんを説得しようとしたけど、タキタさんが会話は無用とばかりにラカムタさんの顔に鋭い突きを放ち、ラカムタさんはタキタさんの突きをギリギリ首を動かす事で避けタキタさんから離れる。
……あ、ラカムタさんの頬から血が流れてる。どうやらタキタさんの突きがかすったみたいだね。
「油断大敵ですな」
タキタさんの動きに無駄がなくて気がつけば目の前にいるみたいな感じだから、さすがのラカムタさんでも避けきれなかったのか。……どれくらい鍛錬すればタキタさんの認識できない動きができるんだろう。
「ヤート、これはどういう状況なの?」
乱闘をしてたはずの姉さん達が僕の横に立っていた。やっぱりラカムタさん対タキタさんなんて気になる対決を見逃すはずがないよね。
「タキタさんがラカムタさんを手合わせに誘ったっていうだけだよ」
「そうなのか? 俺にはラカムタのおっさんが乗り気じゃないように見えるぞ」
「正確にいうと、ラカムタさんは顔役だからって、兄さん達の乱闘を見てウズウズしてるのに我慢してたから、僕がラカムタさんに戦うと良いよって提案しても、ラカムタさんが我慢するからタキタさんが強引に手合わせ誘って始めたって感じかな」
「……責任感が強いラカムタさんらしいですね」
バキッ‼︎
僕達が話してると打撃音が聞こえてきたから急いで目を向けると、タキタさんが左腕を振り切った状態になっていて、ラカムタさんは膝をついていた。…………どんなやり取りをしたのかは見てなかったけど、ラカムタさんは力を入れようとしても入ってないようだから、もしかするとタキタさんの裏拳か何かで顎を打たれて脳震盪を起こしてる? 僕がラカムタさんの状態を考察してると、兄さんがバッと飛び出した。
「おい‼︎ ラカムタのおっさん、何やってんだよ‼︎ それでも黒の顔役かよ‼︎」
兄さんが叫びたくなる気持ちもよくわかる。竜人族の顔役は、その名の通り実績・実力・人望などがあり、黒なら黒を、赤なら赤の代表となれる人物を指す。要は各色の最強と言っても良いような存在だ。
「ラカムタさんが負けてる……?」
「……うそですよね?」
そんな黒の顔役のラカムタさんが膝をついてるんだから、兄さんだけでなく、姉さんやリンリーも動揺してる。
「このまま何もできずに、子供達に良いところを見せずに終わりますかな?」
タキタさんがラカムタさんを見下ろしながら言う。…………なんでだろう。すごく嫌な予感がする。
「……フ、フフ、フハハ……、ハハハハハハハハハハ」
突然、ラカムタさんが膝をついたまま、ものすごく嬉しそうに笑い出した。どんどん嫌な予感が強くなる。そしてラカムタさんはピタッと笑うのをやめると僕達の名前を呼んだ。
「ガル、マイネ、ヤート、リンリー、イリュキン」
「お、おう。なんだよ?」
「何かしら?」
「どうかした?」
「何ですか?」
「ラカムタ殿、私に何用でしょう?」
「青の子供達を下がらせろ」
「「「「「は?」」」」」
「押しつぶすかもしれないから下がらせろ」
ラカムタさんの言ってる事が一つも理解できない。押しつぶすって何? …………うん? 押しつぶす? 僕の頭の中に一つの光景が浮かんだ。
タキタさんの打撃によるフラつきから回復したラカムタさんは雰囲気が変わっていた。この感じは僕の頭の中に浮かんだ光景……、ハザランを王城で戦って倒した後にラカムタさんと二体が威圧で潰した時と同じだ。
「……久々だな。この感じは」
ラカムタさんがつぶやくと空気が変わり、ラカムタさんを中心に空気がビリビリして息苦しくて、なにより空気が重くなる。
青の子供達からヒュッていう過呼吸になったような声が聞こえて、兄さん達も無意識に後ろに下がり、タキタさんは少し驚いた顔になった。
「タキタ殿、俺はどこまでも中途半端だったな。悪かった。これを証明の一撃とさせてくれ」
ラカムタさんがタキタさんにゆったり歩きながら近づいていく。そしてタキタさんにあと一歩で手が届く時になって、ラカムタさんは右手をスーッと上げ、一歩進むと同時にゆっくりと突き出す。
「……どういうつも、り‼︎」
タキタさんがラカムタさんの遅い突きを掌で受け止めると、ドンっていう鈍い音とともに五ルーメ(前世でいう五メートル)くらい吹き飛んだ。
◎後書き
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