決戦後にて 水添えと島
「ふう……、けっこうなお点前でした」
「味わってもらえて良かったよ」
「それではお互いに落ち着いたという事で、ヤート殿が倒れてからの状況説明に移りましょう」
「うん、お願い」
薬草茶を飲み終わったイーリリスさんの口調に真剣さが増したから、僕も背筋を伸ばす。
「まず、ヤート殿が倒れてからの事です。私達はヤート殿の魔法で魔石が消滅した後も警戒を続けました」
「魔石はしぶとかったからね」
「本当に……。半日ほど警戒を続けて私達の知り得る範囲で異常がないと判断し、最低限の警戒を残したまま日常に戻りました」
「そうなんだ。それなら青の村に戻ってから、一応僕も異常がないか確かめておくよ」
「よろしくお願いします。それと魔石との戦いに参加した全員の無事を確認しておりますので、ご安心ください」
イーリリスさんの落ち着いた態度から予想できてとはいえ、みんなの無事を聞けて安心した。いくら僕が植物の力を借りて重傷や重病を治癒できるって言っても、その場にいないと意味がないから本当に良かった……。一番知りたい事を知れたから、残りの聞きたい事はゆっくり聞ける。
「それじゃあ、ここはどこなの?」
「ここは大霊湖にある島の一つです」
「大霊湖の中の島?」
「そうです」
僕が今いるのは湖の中に浮かぶ島なのか。そういえば前世の世界にも湖の中に島があるところがあった気がするね。だけど……。
「青の村を丘の上から見下ろした時に大霊湖も見たけど、島なんてどこにもなかったよ?」
「それはそうです。島々は大霊湖の中央部に位置しているので湖岸付近からは見えません。この島の正確な場所を知っているのは、水添えと水守のまとめ役と青の村長のみです」
「……つまり青でも限られた人しか入れない島って事?」
「その通りです」
「でも……僕は」
「ヤート殿がこの島にいるのは例外中の例外ですが、ヤート殿の大霊湖を守ったという事実に比べれば些細な事です。それに倒れたヤート殿は、この島の泉でしか回復できなかったので、その点でもヤート殿がこの島にいる事はむしろ必然ですね」
僕はどうやら青にとって、ものすごく重要な場所にいるみたいだ。
「この島と水添えの関係を聞いて良い?」
「もちろんです。何から聞きたいですか?」
「この島はなんで重要なの?」
「この島は、数ある大霊湖の水源の中で唯一湖底以外からの湧水がある場所なのです。そして水添えは、この島の管理が主な役目と言えます」
青は大霊湖を神聖視してる。その大霊湖の水源が目に見える場所だから、より崇拝の対象になってるって事か。
「この島の重要性が、なんとなくわかったよ。……というか僕は、その特別な水源に浸からないといけないくらい危険な状態だったんだね」
「呼吸や脈拍が止まりかけてました。あれほどの大規模魔法を一人で複数発動して維持したのです。いくらヤート殿が植物の力を借りていたとは言え、無茶としか言いようがありません」
「……またラカムタさん達に怒られそうだな」
「そうですね。そこは覚悟を決めておいた方が良いでしょう」
その後一刻(前世でいう一時間)くらいイーリリスさんの話を聞いて、僕が知りたい事は全部わかった。……わかったのは良いんだけど、イーリリスさんがこの島で採れる素材とかこの島へ来る道順っていう、普通部外者には絶対に言わないようなきわどい事まで教えてくれたのが疑問だ。
「ねえ、イーリリスさん。どう考えても僕に教えすぎだよね? 良いの?」
「ヤート殿にならかまいませんよ」
微笑んで断言されてしまった。いくら僕が同じ種族で大霊湖を魔石から守ったって言っても、言って良い事とそうじゃない事は絶対にわけるべきだと思う。僕がやっぱり自分の感覚はズレてるのかってモヤモヤしているとイーリリスさんに呼ばれた。
「ヤート殿、身体の具合はどうですか?」
「大規模魔法の発動は無理だけど、日常生活に問題ないくらいには回復してるよ」
「それでしたら、みんな心配していたので、そろそろ青の村に戻りヤート殿の元気な姿を見せてあげましょう」
「わかった」
小屋を出てイーリリスさんの後をついていく。ああ、やっぱり泉から出ていく流れに沿って行けば大霊湖に出れるみたいで、少し歩くとすぐに島の端に出て僕の視界いっぱいに大霊湖の湖面が拡がった。この島は短時間で端まで来れたから小さいんだなって僕が考えていると、イーリリスさんに抱き上げられる。そしてイーリリスさんは僕を抱いたまま大霊湖に入っていこうとしたから慌てて止めた。
「イーリリスさん、ちょっと待って」
「ヤート殿、どうかされましたか?」
「なんで僕はイーリリスさんに抱えられてるの?」
「私がヤート殿を青の村まで運ぶためです。こうみえても泳ぎは大の得意なのでお任せ下さい」
ここで竜人族の肉体派の発想がきたかって思った。そこは魔法を使うなり島の樹々を材料に船を作るとかあるでしょ。というか泳いで帰るって事は、島まで泳いできたって事? 僕は竜人族の体育会系の考えを絶対にどうにか弱めようと心に誓った。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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