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決戦後にて 泉の水と薬草茶

 ふと気がつくと身体に下から上への流れが当たるのを感じる。それと少し身体を動かしてみたら近くに足が着く場所はなく液体の中のような抵抗があった。どうやら僕は水の中にいるみたいだね。


 目を開けると予想通りで、僕はものすごく綺麗な水の中に浮いていた。なんで僕が水の中にいるかと言えば、……わからない。樹根の大砲(ルートバレル)を魔石に射った後の記憶がないから、たぶん誰かに運ばれたんだと思うけど……。ここはどこ? それに水の中にいるのに、なんで苦しくないんだろ?

 

 僕は少しの間考え込んだけど、それよりも重要な事を思い出す。まず水の中から出るのが先だね。……自分の事ながら苦しくないからって、すぐに水面に出るという発想が浮かばないのは肺呼吸をする生物としてはどうなんだろ?


 まあ、思い出したから良いとして水面は……上だね。日光が反射してキラキラしてるから間違いない。僕は下から来る水流に乗って水面に出た。


「プハッ、ゴボッ!!」


 水から顔を出すとむせて大量の水を吐く。やっぱり僕はかなり水を飲んでたんだね。……これだけ飲んで苦しくなかったという事は、この水は前世の酸素を大量に含んだ呼吸のできる水なのかな? 


 試しに一口飲んでみようとしたけど、さすがに自分が吐いたところの水は微妙だと思い、少し移動して一口飲む。……喉越しや後味に変わったところはないな。あ、でも、大神林(だいしんりん)とかの自然界の水よりも水生魔法(ワータ)の水に近い気がする。


 次に水へと同調してみたら魔力を大量に含んでいた。魔力を含んだ水を飲んで苦しくならないという事は、身体の中に取り入れた魔力が酸素の代わりになった? ……考えても結論を出せないから今は置いておこう。それよりも、もう一つの水に含まれてる魔力についてわかった事の方が重要だね。

 

 この魔力は大霊湖(だいれいこ)の魔力と同じだ。つまり僕は大霊湖(だいれいこ)のどこかか、近くにいるとわかった。よし、調べたい事はだいたいわかったから岸に上がろう。僕は周りを見て一番近い岸へとゆっくりと移動していく。……ここは下から上がってくる流れがあって沈みにくいから泳ぎの練習に良いな。




 岸に上がって振り返ると僕が沈んでた泉が拡がっていた。泉はかなり大きく周りを樹々に囲まれていて、僕が上がった岸の対岸に泉から流れ出ていく川が見える。あの流れを辿れば大霊湖(だいれいこ)に出れるかもしれないけど、その前に服をどうしよう……。


 見られて困る事もないし裸でも良いとはいえ、何か身に着けていた方が無難だ。そんなわけで僕が樹に近づき魔法を発動させようとしたら、後ろでガサッて音がした。音のした方を見ると茂みから出てきたイーリリスさんと目が合い、イーリリスさんは僕を見て一瞬驚いた顔になり、その後ホッとしたように微笑む。


「ヤート殿、無事にお目覚めになって良かったです」

「イーリリスさん、おはよう……じゃなくて、こんにちは……でもないな。うーん、久しぶり……。久しぶり? あれ?」


 僕が鈍くなっている時間感覚に困惑してると、イーリリスさんが近づいてきて僕の濡れた身体を魔法で乾かしてくれた。


「ヤート殿は、ずいぶん長く眠っていましたので困惑するのも仕方ありません」

「僕はどのくらい寝てたの?」

「およそ一週間といったところです」

「……そんなに寝てたんだ」

「はい」

「ラカムタさん達は大丈夫? あと、ここはどこ?」

「一つずつ説明するので、こちらへ。ヤート殿の服もありますよ」


 イーリリスさんの後ろをついていったら、泉から少し離れた樹々の間に小さな小屋が見えてくる。小屋に入ると中には一通りの生活用具がそろっていて、棚に僕の服と小袋が置かれていた。さっそく服を着て腰に小袋を着ける。……やっぱりいつもの格好になると落ち着くね。


「ヤート殿、お湯が湧きましたよ」


 僕が着替え終わる時にお湯になるよう、小屋の囲炉裏で準備してくれたイーリリスさんのところに行き、お湯の入ったお椀を受け取る。そして僕は腰の小袋の一つからあるものを取り出してお湯に入れると、お湯は徐々に濃い緑色になって特有の匂いが漂ってきた。


「この匂いは薬草茶ですか?」

「うん、僕が滋養強壮作用のある薬草を焙煎した奴で、弱ってる時に飲むと内臓から身体を活性してくれる。味は苦いけど、イーリリスさんも飲んでみる?」

「ぜひ」


 僕はイーリリスさんに乾燥させて小分けにした薬草茶を渡してから、お椀の薬草茶を一口飲む。……いつ飲んでも苦い。でも、起きたばかりだから、これぐらいの方が頭もスッキリする。


「……なるほど身体に良さそうな味ですね。それに落ち着きます」


 イーリリスさんは薬草茶をじっくり味わって感想を言ってくれた。前に兄さんと姉さんが飲んだ時は口に入れた瞬間、苦さで水をがぶ飲みするくらいだったのに、イーリリスさんは自然体だ。こういうのを大人の味っていうのかな?


 この後会話がなくなり、少しの間小屋の中を僕とイーリリスさんの薬草茶を飲む音と薬草茶の匂いだけが満たした。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


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