青の村にて 掃除の方法と説明
「ウウ、ウエッ、ウゲェ」
「ヤート君!! 大丈夫ですか!?」
「ヤート!! 一体どうした!?」
僕が突然窓の方に走り窓の外へ吐いてたら、慌てたリンリーやラカムタさんが僕の背中をさすったり呼びかけたりしてくれたけど、はっきり言って今の僕は激しい吐き気に襲われてるせいで返事をする余裕がない。
「おい!! ヤートに何が起こったんだ!?」
「心配いりません。ヤート殿が吐いているのは鍛錬が正しく進んだという証拠です」
「…………本当だろうな?」
「イリュキンもそうですし、私も水添えの鍛錬時には何度も吐いています。ヤート殿が今回受け取ったものはごく少量ですので、じきに吐き気は治るでしょう」
少ししたらイーリリスさんの言った通り吐き気は治った。あー、久々に吐いたな。イーリリスさんの言ってた「受け取る」っていう言葉が気になるけど、とりあえずうがいをしたい。
「水生魔法」
自分で生み出した水で少し痺れてピリピリしてる口をゆすぐ。二、三回うがいをしたら嫌な味とピリピリする感じがなくなったのは良いとして、……ものすごく吐いちゃったから掃除しないと。
「イーリリスさん、掃除するから少し時間をちょうだい」
「ヤート君、私も手伝うよ」
「私も手伝います」
「すぐに終わるから気にしないで」
僕は腰の小袋から小さな塊を取り出して、さっきうがいに使って残った水生魔法の水に入れた。
「緑盛魔法・超育成・浄化苔」
魔法の発動とともに水を吸った小さな塊が膨れて形を変えていき、最終的には粘菌状になって僕の腕に巻きつく。
「「「「…………」」」」
「僕が汚したところの掃除をお願いしても良い?」
ラカムタさん・リンリー・イーリリスさん・イリュキンが絶句してる中、浄化苔は僕の言葉に答えるように震えると僕の腕から窓の外へと移動していき、僕が吐いたものの上に覆いかぶさった。
「ヤート君……それは何ですか?」
「浄化苔の事? 大神林で倒木とか淀んだ水や生物の死骸なんかを分解して環境をキレイに保ってくれる森の掃除屋」
「そんな奴らがいたのか……」
「ほとんど目立たない場所にいるから気づかないのも無理はないよ。それはそれとしてイーリリスさん、説明を聞いても良いかな?」
「……はい、わかりました」
他の三人同様イーリリスさんも浄化苔を見てたけど、僕の言葉で気を取り直したのか落ち着いた感じで話し出す。
「まず、なぜヤート殿が吐く事になったか? に対しての答えですが、それはヤート殿に急激な拒否反応が起こったからです」
「拒否反応?」
「より正確に言うなら、ヤート殿の本能が受け取った情報の多さに自滅を防ぐために拒否反応を起こしたのです」
「……イーリリス殿、言っている事がよくわからない。ヤートに何が起こったのか、詳しく説明してもらえるか?」
「もちろんです」
ラカムタさんもリンリーも本格的にイーリリスさんの話を聞く姿勢になった。ある程度予想はできたけど、僕もイーリリスさんの詳しい話を聞く事にする。
「ヤート殿がおこなった自分という性質を持つ魔力を薄める行為、水添えや候補者の間では「界気化」と呼んでいます。この界気化された魔力は、非常に高い親和性を持っているので、この世界のあらゆるものの中に浸透していく事が可能となります」
「界気化か、……初めて聞く名だ。つまり、その界気化された魔力がヤートに猛烈な吐き気を引き起こしたという事だな?」
「その通りです。先ほど言ったように界気化された魔力は自分という性質を持つ魔力を薄める行為です。しかし、あくまで自分という性質を薄めているだけなので、界気化された魔力にも自分の感覚が残っています」
「それが重要な事なのか?」
「とても」
イーリリスさんの説明が続く中で僕がイリュキンをチラッと見たら、イリュキンはすでに知っている事の説明のためイーリリスさんの話を静かに落ち着いて聞いている。でも、ラカムタさんやリンリーはイーリリスさんの話を聞けば聞くほど疑問が増えているようで困惑しっぱなしという感じだ。
「もし、私がラカムタ殿に界気化した魔力を放射すると、どうなると思いますか?」
「……物理的・精神的を問わず親和性があるなら、俺の奥まで入っていくはずだな?」
「はい。そして私はラカムタ殿のあらゆる情報を受け取ります」
「んん? どうしてそうなる?」
「対象の奥まで入っていくというのは、対象の存在全てに触れる事と同じだからです。ラカムタ殿に放った場合の全てというのは、物理的なものではラカムタ殿の身体に関わる全ての事で、精神的なものではラカムタ殿の生まれてからこれまでの記憶・経験・思考など全てです」
「バカな……」
「それだけ界気化した魔力の親和性が高いと言う事ですね。一つの存在の生まれてから今までの情報なんていう馬鹿げた量を受け取れば誰だって拒絶反応を起こすもので、イリュキンの鍛錬初期の頃はそこの棚にある器に私の生み出した水を入れたもので鍛錬を積んでいたのですが、先ほどのヤート殿以上に拒否反応を起こして二、三日は動けなくなっておりました」
イーリリスさんがイリュキンの事を話してると、イリュキンから哀愁の漂う雰囲気が伝わってきた。僕は確かにこれだけの負担のある鍛錬をしてて伸び悩んだら焦るはずだなって交流会の時のイリュキンを思い出して納得する。でも、納得すると同時に疑問も浮かぶ。
「イーリリスさん、僕のやり方はこのままで良いんだよね?」
「ヤート殿、あなたは魔力を界気化させる精密さと、拒絶反応を起こす本能の健全さをすでに得ています。あとは受け取る情報の質と量を自分で調整できるかどうかですよ。もう一度、私の出した水弾で試してみてください」
「……わかった。やってみる」
僕がイーリリスさんの水弾に掌を向けたら、ラカムタさん、リンリー、イリュキンの緊張感が高まってくるのを感じる。……僕にできるかな? っていう考えが頭をかすめるけど、ここまできたらやれるようになるだけだと思い直して、僕はイーリリスさんの水弾に界気化した自分の魔力を放った。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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