青の村にて 興味と形になった不穏
ヌイジュとの話し合いのようなものが終わって、離れていくヌイジュを見送るとやる事が無くなった。大霊湖に潜んでいるかもしれない奴への対策を考えようにも、あくまで潜んでるかもしれないっていう可能性の段階で、相手の事が全くわからないから対策の立てようが無い。今は他の事をした方が良さそうだね。
パッと考えつくのは散歩か。大霊湖の植物達にもう少し同調で聞いてみるくらいかな。……そうだ。イーリリスさんに話を聞きたい事があったんだ。思い立ったが吉日という事で、早速イーリリスさんに話しかける。
「イーリリスさん、聞きたい事あるんだけど今って時間ある?」
「構いませんよ。それで私に聞きたい事とは何でしょう?」
「僕は同調で大髭様と意思疎通ができるけど、あの大髭様を説得する時にイーリリスさんも大髭様との意思疎通ができてたよね?」
「その通りです」
「それってイーリリスさんが水添えだから? それとも他に理由がある?」
「ヤート殿は水添えに興味があるようですね」
「うん、門外不出とか以外で教えてもらえるなら聞きたいなって思ってる」
「それでは私の家に行きましょう。私の家には水添えに関する書物もありますので、それを見ながら説明した方がわかりやすいと思います」
「貴重なものだと思うけど、青じゃない僕が見て良いの?」
「本当に大事な事は口伝なので書物は誰でも読めます。ただし昔から青の村に伝わる書物なので大切に扱っていただく事が条件となりますね」
「その辺りは黒の村でも同じように言われてるから大丈夫だよ」
「それなら安心です。イリュキンも同席させても良いしょうか?」
「うん、大丈夫」
イーリリスさんに名前を出されてイリュキンが驚いていたけど、すぐに覚悟を決めたかのようにフッと息を吐きだして真剣な顔になりイーリリスさんのそばに来たのと同時に、兄さんもイーリリスさんに近づいて行くから姉さんがリンリーを連れて慌てて兄さんの後を追って来た。
「ガルド殿でしたね。あなたもいっしょに来ますか?」
「俺の後ろのマイネとリンリーも話を聞く」
「ガル、言葉遣いをちゃんとして」
「うふふ、構いませんよ。それでは行きましょう」
兄さんのイーリリスさんに対する言葉遣いを聞いて遠巻きに見ていた青の子供達がピリッとしたのを察して姉さんがすぐに正したけど、もしかしたら後々面倒くさい事になるかもしれない。まあ、それはそれでその時に対処しよう。僕達はイーリリスさんに促されて歩き出した。気になるのはイーリリスさんをにらんでる兄さんだね。雰囲気がいつもと違う気がする。
「兄さんが水添えに興味があると思わなかった」
「別に興味はねえよ」
「……それならなんで?」
「ここじゃ何があるかわからないからな。用心だ」
「だからってピリピリしすぎじゃない?」
「これぐらいでちょうど良いんだよ。なあ、ばあさん?」
「ええ、何かが起きた時にすぐに動くには心構えは大事ですね」
「失礼な態度を続ける気なら殴るわよ。ガル」
「フン」
「ガル……」
兄さんは姉さんの事をチラッと見て僕らの前を歩くイーリリスさんに視線を戻した。……兄さんはイーリリスさんを警戒してるみたいだけど、どっちかといえば兄さんの言動に怒ってる姉さんの方が危険だと思う。姉さん、リンリーが姉さんをなだめなきゃってオロオロしてるよ。それにしても兄さんも姉さんも、どうしたんだろ?
「二人とも落ち着くんだ」
「ガル君、マイネさん、落ち着いてください」
「兄さん、姉さん、らしくないから落ち着いて」
「「…………」」
その後もイリュキン・リンリー・僕が言っても兄さんはイーリリスさんをにらんだままで、そんな変わらない兄さんの態度が姉さんの機嫌をさらに悪くなっていく。そしてとうとう姉さんが態度を改めない兄さんに殴りかかった。
「とりあえず黒の恥だから倒れなさい!!」
「……マイネ。てめえ、うっとうしいぞ」
兄さんが姉さんの拳を掌で受け止めたのは良いとして、絶対に兄さんも姉さんも変だ。確かに二人は普段からケンカをしてるけど、どれも兄弟ケンカの延長戦ぐらいの激しさで今みたいに明らかに殺気混じりの本気になる事なんてなかった。
「二人を止める。リンリー、イリュキン、手伝って」
「わかりました」
「まかせてくれ」
僕は二人の動きを鈍らせるために腰の小袋から深寝花粉の塊を取り出して、リンリーとイリュキンはそれぞれ兄さんと姉さんの死角に回り、いつでも抑え込めるように構えたけど、突然兄さんがリンリーに、姉さんがイリュキンに襲いかかるという予想外の行動を起こした。
「ガル君、どうしたんですか!?」
「マイネ、目を覚ますんだ!!」
「「…………」」
「兄さん? 姉さん?」
僕が兄さんと姉さんを呼ぶと二人の顔がグリンと僕の方を向いた。そこで僕は兄さんと姉さんは無表情になってるんじゃなくて無意識なんだって気づいて、すぐに頭の中にラカムタさんから聞いた青の村に着いた初日の夜、兄さんと姉さんが虚ろな表情で大霊湖に入ろうとしていたって事を思い出す。
「きゃあ!!」
「しまった!! ヤート君!!」
周りから図太い神経・鋼の精神って言われる僕でも突然の異常すぎる事態に固まって動けないでいたら、兄さんと姉さんがリンリーとイリュキンをそれぞれ突き飛ばして僕を襲おうと身体を屈める。そして飛びかかろうとした時に、凛とした思わず聞いていたくなる声が聞こえた。
「ダメですよ。家族は仲良くあるべきです」
イーリリスさんが僕に襲いかかろうとしていた兄さんと姉さんの肩に後ろから手を置いて二人の動きを止めていた。本気で動こうとしてる二人を片腕ずつで止めるなんてイーリリスさんの腕力はすごいだな……って現実逃避をしてるじゃない。このままイーリリスさんに兄さんと姉さんを任せるわけにはいかない。黒の問題は黒で解決できるように尽力するべきだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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