幕間にて 青の元水守と青の老竜人
今回は水守だった青のヌイジュ視点です。
なぜだ!? なぜ、あんなまっすぐな目で俺を見れる!? 俺はお前に襲いかかった!! 俺はお前を殺そうとした!! それにも関わらず、なぜ、俺の前に平然と立てる!?
欠色の黒の子供と言葉を交わしてから俺は自分の中の激情を抑える事ができない。
『大髭様の治療が終わったら僕の事をお前の好きにして良いよ。だから手伝って』
なぜ、平然と俺に取引を持ちかける!? なぜ、迷わず俺に命の選択を委ねられる!? 行動が理解できない。考え方が理解できない。あいつは一体なんなんだ!! とにかく得体が知れない。納得ができない。
「ヌイジュ」
広場から離れた場所で名前を呼ばれ振り返ったら水守のまとめ役であるタキタが立っていた。釈然としないのは俺を心配しているという雰囲気だという事だ。なぜ、俺が心配されなければならない!!
「……何の用だ?」
「荒れておるのう」
「何の用だと聞いている!!」
「そのように荒れていたら見なければいかんものがわからず、ヤート殿と同じ勝負の場に上がれんぞ」
「なっ!! 俺があいつよりも劣っていると言いたいのか!!」
「そうではない。まずはヤート殿の精神性……、もしくは性質と言えば良いのか、そのようなものを理解しなければいかんと言っておる」
「あのような狂人を理解しろだと!?」
「ヤート殿は変わっているというのは、わしも納得しておる。しかし、ヤート殿は異常ではないという事を理解するんじゃ」
「あれの……、自分の命を簡単に危険にさらす奴のどこが異常ではないと言うんだ!!」
「ヤート殿は小さいんじゃよ」
「小さい……?」
「内から湧き出てくる感情が小さい。表面に見える感情が小さい。外からの刺激に対する反応が小さい。自分に対する思いが小さい。そんなところじゃな」
それがどうした? 誰でもあるはずの自分の命への思いが小さい時点でおかしいのだ!!
「のう、ヌイジュ。ヤート殿は日々を楽しんでおるよ」
「は?」
「穏やかな日差しを、気持ちの良い風を、聞こえてくる音を、家族や仲間との会話を楽しむ事ができておる」
「そんな事がわかるわけがない!!」
「内から湧き出てくる感情や反応が小さいと言ったじゃろ。よほど近くで話してみないとわからん。それに姫さまから聞いた限り、嫌な相手には言葉遣いが強くなると言う面もあるようじゃから少しずつ成長している段階なんじゃろうな」
『……あらかじめ襲われるってわかってたら、別にそこまで怒らないし驚かないと思うけど?』
『例えばさ、自分が誰かに襲われるとする。突然何の前触れもなく襲われたら、当然驚くし怒りもするよ。でも、いつどこで襲われるのかわかってたら、本当に来たっていう呆れと対応が面倒くさいっていう感情しか生まれないと思う。……あっ、普通は、なんで襲ってくるって怒るのかな?』
『ひどい言い方だね。僕だって別に何も思わないわけじゃないし突然襲われたら驚くしイラッとするよ。今回はさっきも言ったけど、お前が襲ってくるって予想ができてたから事前に覚悟というか心構えができてただけ』
かつて言われた言葉の数々が頭の中に浮かんできて、それとともにタキタに言われたあいつは感情や反応が小さいという言葉が、あいつの別の言葉を俺に思い出させた。
『はぁ……、面倒くさいな。勝手に一人で盛り上がってるところで悪いけど、そもそも別に僕はお前らを見下してない。なぜなら僕はお前らに一切興味がないから』
『僕にはないから、当たり前と言われても困る。というか、そんなどうでも良い事は置いといて治療させてくれない?』
『興味がない』、『治療させてくれない?』、……俺はあいつに戦う相手として見られてなかった? は、はは、ははははは…………。
「あいつは俺を見ていなかったのというのか……ふざけるな!!」
「それも違うのう。お前とヤート殿は元から同じ勝負の場に立っておらん。もっと言えば同じ意識の高さになっておらず、お前が戦いと思っていたものがヤート殿にとっては迫ってくる危険なものに対応する作業にしかすぎなかったんじゃろうな」
「バカな……」
「ヤート殿の立場で考えてみい。唯でさえ外からの刺激に対する反応が小さいのに、ヤート殿がいきなり外から敵意を向けられて、まともにわしらのような反応ができると思うか?」
「あ……」
「……その様子だと、本当にヤート殿の事を見ておらんな」
タキタの顔に呆れの色が濃くなった。
「お前さん、今年で歳はいくつになる?」
「……百は超えた」
「それならなおの事、生まれて十年ほどのヤート殿に何を強く当たっとるんじゃ。大人の余裕を見せんか」
「うぐ……」
「姫さまはヤート殿と話しをしている。赤の村長であるグレアソン殿もヤート殿と話をして自らの鱗を渡している。黒でもヤート殿がどのように考えているかを聞いたらしい。お前さんは拒絶するだけか? もう一度言うぞ。大人の余裕を見せんか」
確かに大人気はないかもしれないが……、それでも俺にはあいつを……。
「ふむ、お前さんには時間が必要なようじゃな。先ほど自分からヤート殿に話しかけるなと言っておるし良い機会じゃ。ヤート殿が青の村にいる間によく観察して見極めてみるが良い」
考え込んでいる俺を見てタキタが結論を先延ばしにするよう言ってきた。……そういえばタキタとこれだけ話をしたのはいつ以来だ? いや、それ以前に誰かとじっくり話したのが久方ぶりな気がする。大人の余裕を見せろか。いまさら気付くとは、そう言われても仕方ないな。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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