青の村にて 大仕事の後の穏やかさと交換条件の答え
青の村の広場に座って大霊湖をボーッと見ている。自分で言うのもなんだけど、大髭様の治療っていう大仕事が終わって完全に気が抜けてるな。まあ、僕だけじゃなくて大髭様の治療に関わったラカムタさんや兄さん達、青のみんなに三体も僕と同じく広場で大霊湖を見ているから大きな仕事を終えた後はこんなものなのかもしれない。
ちなみに三体は大髭様の治療で活躍が認められてハインネルフさんとイーリリスさんから、青の村内に居ても良いという許可が出たので今も僕のすぐそばでゆったり過ごしている。三体と過ごすために一回一回村の外に出るっていう手間がなくなったから嬉しいね。
「あ……」
広場にいた誰かの声が聞こえて大霊湖に意識を向けたら、遠くで大髭様のものすごい巨体が湖面から飛び出し空中を舞った。これは治療が終わってから大髭様がやるようになった行動で、一日に何度か湖面から飛び出して自分の身体は完治していると表現してくれてるみたい。
それにしても前世でいう大型バス十台分以上の巨体が完全に水から離れて、さらにその巨体の三倍以上空中に飛び上がってるんだから、すごい筋力だね。……ただ着水した時に起こるバッシャーーーーン!! っていうものすごい音が響いて、着水の波が津波みたいに青の村まで来るを少し考えてほしいとも思うけど、完治したからこそって考えれば良い事なんだろうね。事実、青のみんなは嬉しそうに見てるから、やっぱり問題ないみたいだ。
大髭様と言えば、完治してから話を聞いたけど結局何であれだけ大量の岩石と鉱物を食べて動けなくなっていたのか今もわかっていない。大髭様自身も覚えてないみたいで、気がついたら岩石と鉱物の重さで動けなくなっていたらしい。兄さんと姉さんの時と同じだな。
やっぱり同じような事が二つ起これば偶然じゃないと考える方が自然だし、この大霊湖には何かが潜んでると考えて良いと思う。でも今のところ大霊湖の植物達に聞いても大髭様に起こった異常以外はわからないらしい。潜んでるかもしれない相手の方が上手なのか探し方に盲点があるのかわからないけど、はっきりしないのはモヤモヤするね。
……まあ、今は僕にとってもっと重要な事があるから、とりあえず置いておこう。今日も広場にいるかな? 僕は立ち上がり広場を見回して、いつものように広場の隅にいたヌイジュを見つけて近づいて、みんなが見守る中でヌイジュに話しかけた。
「今って時間ある?」
「……何の用だ?」
「約束というか手伝ってくれた交換条件を果たそうと思っ「ハッ!!」て……」
「「「ヤート!!」」」
「「ヤート君!!」」
「「「「「ヤート殿!!」」」」」
僕の言葉を遮るように突き出されたヌイジュの拳が僕の顔のすぐ前で止まる。僕とヌイジュの様子を見ていたみんなが立ち上がって叫ぶけど今は無視して、ヌイジュの拳越しにヌイジュの目を見たら突き刺しそうな鋭い目で僕を見ていた。
「殺されかかったのに顔に恐怖を浮かべず目すら閉じないか。やはり貴様は狂っている」
「僕は元々無表情だし、黒のみんなからは図太い神経と鋼の精神を持ってるって言われるから、こんなものだと思うけど?」
ヌイジュの顔が不快げに歪みギリギリと歯を食いしばっているから、よっぽど僕が嫌いなんだね。どうするのか見ているとヌイジュは僕に突きつけていた拳を震わせながら降ろした。
「……俺は貴様が気にいらない。それこそ今すぐ殺したいほどにな」
「そうだろうね。パッと見でわかるくらい伝わってくるよ」
「貴様を殺したい。殺したいが……貴様がいなければ大髭様を救えなかった事も事実で、さらに言えば不愉快だが俺は貴様に命を救われているから、今は貴様を殺さないでおく」
「その二つと僕との交換条件は別じゃない?」
「ここで貴様を殺さない事で命の貸し借りが無しにしたという事だ!! それで貴様が納得できないというのならば、これ以上俺に話しかけるなというのが交換条件の答えだ!!」
「……わかった」
「フン……」
僕が了承の返事をするとヌイジュは踵を返して広場から出て行き、すぐに兄さん達が走ってきて「大丈夫か?」とか聞かれるけど僕はヌイジュの歩き去っていた方を見ていた。どうやらヌイジュは僕の事を心底嫌っているけど、僕はあそこまで僕を嫌っているヌイジュの事が気になってしょうがない。なんで気になるのかはわからないけど、なんとなくこのヌイジュへの興味は失くしちゃいけない気がするから、これからも観察して機会があったら話しかけてみよう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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