青の村にて 優先順位と治療開始という名の侵入
僕に向けてヌイジュが拳を振り下ろしたら僕の視界が大きくブレて、何かを打ちつけるバシッという音が聞こえた。一瞬、僕がヌイジュに殴られて吹っ飛んだ音かと思ったけど、身体に痛みを感じないから違うみたいだ。
「ラカムタ殿、ヤート殿にケガは?」
「ヤート、大丈夫か?」
「タキタさん、ラカムタさん? ……特にケガはないかな」
「それは何より。……どういうつもりじゃ? ヌイジュ」
ラカムタさんとタキタさんの声を聞いて、僕の視界がブレたのはラカムタさんに抱えられるように身体を後ろに引かれたためで、バシッていう音は僕に振り下ろされようとしていたヌイジュの拳をタキタさんが掌で受け止めた音だと理解できた。……ヌイジュか、交流会の時に襲われて以来だけど今回も襲われた。よっぽど僕の事が気に入らないのか、相性が悪いかのどっちかかな。まあ、それはそれとして……。
「どういうつもりかだと? その異常者を排除するだけだ。どけ」
「解せんのう。ヤート殿のどこを指して異常などという非礼な言葉を向ける?」
「貴様の目は節穴か? 殺されそうになっていながら顔に何の感情も浮かべず、殺そうとした俺を見ていない奴を異常者と言わずに何と言う!!!」
大髭様を状態が悪化しないか見ている僕に、みんなの視線が向いた気がするけどどうでも良い。……さっきより微妙にだけど大髭様の呼吸が荒くなってきてる。
「ラカムタさん、降ろして」
「わかった」
「異常者が大髭様に触れるな!!」
僕は今度こそ大髭様の今の状態を同調で確認するために触れたら、ヌイジュに大髭様に触るなって叫ばれたけど無視する。……これは、いつ大髭様の容態が悪化してもおかしくない。
「ハインネルフさん、イーリリスさん、今から大髭様の治療を始めるね」
「大髭様を、よろしく頼む」
「よろしくお願いしますね」
「貴様、そうまで俺を無視するか!!」
「別にお前の事を無視してるわけじゃなくて、単なる優先順位だよ」
「なんだと!?」
「現状で問題になのは、『お前が僕を殺そうとしている事』と、『大髭様に最悪の事態が起こるかもしれないって事』の二つだ。ここまでは良い?」
ヌイジュからも、みんなからも特に異論はないみたいだから僕はこのまま話を続ける事にした。
「問題が起きてるなら解決をしないといけない。それじゃあ、その問題は誰が解決する? っていう話なんだけど、まず一つ目の『お前が僕を殺そうとしている事』はラカムタさんとタキタさんを始め、お前を邪魔するなり止めるなり制圧するなり対応してくれる人達がいる。二つ目の『大髭様に最悪の事態が起こるかもしれないって事』に関しては、大髭様の状態を同調で正確に把握できる僕が適任というか、どう考えても僕しかいない。それともう一つ言えば、この場で一番立場が上のハインネルフさんとイーリリスさんに治療をする許可をしてもらってる。以上の理由で、今の僕が最も優先してるのは大髭様の治療。例えお前に殺されかけたとしても、それはどうでも良い事だから僕は僕のやるべきだと思ってる事をするだけだよ」
「き、貴様!! クッ、どけ!!!」
「どくわけがなかろう」
タキタさんに邪魔されて僕に近づけないヌイジュをよそに、僕は腰の小袋から小さな種と青い実を一つずつ取り出し魔法を発動させた。
「緑盛魔法・超育成・灯草。緑盛魔法・鎮める青」
灯草が成長して種から伸びた蔓が僕の右肩から左腰にかけて斜めに巻きつき何周かしたら蔓のあちこちに花が咲く。この灯草は花が光り、夜に虫を集めて受粉に利用するっていう強かな植物なんだけど今回は明かりがわりに使わせてもらい、鎮める青は麻酔・鎮静・中和の役割で霧状にして大髭様の口から体内に入れる。
「準備完了と。それじゃあ治療を始めるからイリュキンは、そのまま大髭様の身体を乾燥させないように水をお願い」
「わかった。……ところでヤート君」
「何?」
「これからどんな事をするのか聞いても良いかな」
「今、イリュキンが考えてる事で合ってると思うよ」
「そ、そうか、気をつけて」
「うん、また後で」
イリュキンに手を振ってから僕は大髭様を治療するために口の中に足を踏み入れた。……大髭様の身体はとにかく大きくて、当然だけど口の中も大人が余裕で立って軽く走り回れるくらい広かった。さて、同調で確認してても見れるなら原因を自分の目で確認するのは大事だから、原因を目指して大髭様の身体の中を進んで行こう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
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