青の村への旅にて 到着とあいさつ
今僕達は大河沿いから少し離れた場所にある丘を越えているところだけど、空気が水気を含んで涼しくなってきた。今回の旅の目的地が近いみたいで、イリュキンの言葉もそれを示している。
「ヤート君、ラカムタ殿、ガル、マイネ、リンリー、ここを超えたら大霊湖が見えるよ」
イリュキンの言った通り丘を越えたら一気に視界が開けて、事前に湖って言われなければ海だと勘違いしそうな巨大な湖が視界一面に拡がった。
この大霊湖の事は、イリュキンから真っ直ぐ対岸に進んでも一週間以上かかり湖岸を一周するのに強化魔法を発動させても一ヶ月以上かかるくらいの大きさだって説明を受けてたのに、言葉で聞くのと実際に目で見るのとじゃ全然違う。
「ヤート君、我ら青が住む大霊湖は、どうかな?」
「想像してたよりも、ずっとずっと大きくて広い。前に説明されたのを今実感できた」
「その気持ちは、よくわかるよ。私も大神林の植物の多様さや密度は実際に見るまでは大げさなものだと思っていたから、やっぱり実際に見て実感しないとダメだね」
「そうだね……」
ラカムタさん達や三体も大霊湖の大きさに圧倒されてポカンと口を開けながら見入っている。うーん、平野を横断する大河を見た時もすごいと思ったけど、大霊湖は比較にならないな。
「さて、それじゃあ行こう。ここまで来れば、あそこに小さく見える青の村まで真っ直ぐ行くだけだよ」
イリュキンの指差す方を見ると大霊湖の湖岸に村が見える。本当に青は大霊湖に寄り添って生きてるんだな。
もう青の村は目の前だ。向こうも僕達を見つけたみたいで村の中から大勢の青の竜人達が出てきた。その様子を見てイリュキンから喜んでる感じが伝わってくる。
「ヤート君達への出迎えだ。タキタ、あれを見ると私は任せられた役目をやり遂げたんだって達成感が湧いてくるよ。……少し早いかな?」
「そんな事はありません。胸の内は自由ですから感じた思いは噛み締めておくべきです。とはいえ、最後の報告をした後に堂々と噛み締めた方が良いでしょう」
「うん、そうだね。いこう」
イリュキンが一回うなずいた後に、そう言ってタキタさんといっしょに僕達の少し前へ出た。それを見て集まっている青の竜人達が左右に分かれて道を作ったら、奥から大人の男性と女性の老竜人が一人ずつ進み出てくる。
お互いに残り数歩くらいまで近づくと、イリュキンとタキタさんの後ろに水守達がピシッと整列していく。そしてイリュキンがさらに一歩前に出て声を張り上げた。
「水添え候補者のイリュキン並びに水守一同が、客人である黒の竜人のヤーウェルト殿、ラカムタ殿、ガルド殿、マイネリシュ殿、リンリー殿を黒の村から青の村へ護衛と案内をする役目を完了致しました!!」
「役目の遂行ご苦労であった。客人達の紹介を頼む」
男の老竜人が言うと僕達の前に整列していた水守達が左右に分かれて道を作り、近くの水守の一人が僕の方を向いて僕達を前に促すように手を動かした。
「ヤート殿から前へどうぞ。ラカムタ殿や他の方々はヤート殿の後ろに」
「わかった。それじゃあ後で呼ぶから、それまでここにいてね」
「ガア」
「ブオ」
「ワカリマシタ」
三体に言った後に鬼熊から降りて歩き出すと、ラカムタさんや兄さん達が僕の後ろに続いた。……なんか歩いてると、出迎えてくれた青の人達の視線が僕に集まっているのがわかる。まあ、明らかに欠色の白だから目立つのはしょうがないけど、ここまで見られるとちょっと気になるね。それでもサムゼンさん達に連れられて王城に行った時のじっとりとした視線よりは良いか。ただ……。
「チッ、ヤートの事をジロジロ見てんじゃねえぞ」
「本当よね。捻り潰したくなるわ」
「……お前ら場をわきまえろ。後で説教だ」
兄さんと姉さんが、ものすごく小さい声でボソボソ文句を言っている。竜人族は感覚が鋭いから、もしかしたら聞かれてるかもしれないのにそういう事は言わないでほしいよ。ラカムタさんはそんな二人の会話を聞いても、今は怒るに怒れない状況だから今は見逃すみたいだ。リンリーは静かに歩いていて安心だ。この後の兄さんと姉さんが心配だけど何か騒ぎになる前に、あいさつをきちんとしておこう。僕達は青の老竜人二人の前に立った。
「はじめまして僕は黒のヤーウェルト、周りのみんなからはヤートって呼ばれています。この度は青の村へと招待していただきありがとうございます」
僕がお礼を言って頭を下げたら目の前の二人が驚いてるのを感じた。赤のイギギさんにあいさつした時もこんな感じだったけど、僕のあいさつって変なのかな? 僕が自分の言動を思い返していると男の老竜人の方から返答があった。
「丁寧なあいさつ、誠にありがたい。黒では良き教えを子らに授けているようだ。わしは青の村長のハインネルフ、黒の方々を心より歓迎する。自分達の村だと思い過ごしてほしい」
「私は当代水添えのイーリリスです。黒の村からはるばる青の村へとようこそ。心より歓迎します。黒の村の事や大神林の話を聞かせてもらえると嬉しいわ」
ハインネルフさんは年を重ねた渋い声で、イーリリスさんは歌ってるみたいな綺麗な声で歓迎してくれた。僕のあいさつは変じゃなかったみたいで良かった。その後は順々にラカムタさんから始まってリンリーまのであいさつが終わり、僕はハインネルフさんとイーリリスさんに聞いた。
「ハインネルフさん、イーリリスさん、三体を紹介したいので呼んできて良いですか?」
僕が言うと一気に青の緊張感が高まった。特にハインネルフさんとイーリリスさんの近くにいる人達が厳しい顔になり、すぐに二人の前に出ようとしたけどハインネルフさんが右手を上げて動きを止めた。
「イリュキンからヤート殿と魔獣達の関係は聞いている。ぜひ紹介してほしい。それとヤート殿」
「何ですか?」
「イリュキンと話す時のような素の話し方でかまわない」
「私にも素の話し方をしてほしいわ」
……新しく会う人に言われるけど、やっぱり僕の敬語って変なのかな?
「僕の敬語って変?」
「いやいや、そんな事はない。なあ、イーリ?」
「そうね。私達はあなたともっと砕けた関係になりたいの。だから気にしないで。それよりあそこにいるのがヤート殿と仲の良い魔獣達ね?」
「そう、とりあえず呼んでくる」
僕がラカムタさん達の間を抜けて三体のところに行って青に紹介する事を言ったら、三体がうなずいてくれた。僕もうなずき返してハインネルフさんとイーリリスさんのところへ歩き出すと、三体は僕の後ろに横一列並んでついてきてくれる。
「この三体が僕とよく散歩してる魔獣達だよ。僕の後ろにいるのが鬼熊で、その右隣が破壊猪で、最後に左隣にいるのがディグリだよ」
「……やはり、間近で見ると思わず後退りしたくなるほどの存在感だな」
「始めに言っておくけど三体は村の中には入らないから安心して」
「……そうしてもらえるなら助かるわ。黒の村ではどうしてたのかしら?」
「黒の村でも門の前までは来るけど村の中には入ってないよ。あと大霊湖の生き物って獲って良いの?」
「三体……ふむ、二体の食料という事だな。乱獲しないなら大丈夫だ。むしろ狩猟を推奨している水生魔獣がいるから、あとで教えよう」
「助かる。ありがとう」
「青にも利があるから気にする必要はない。さて、顔合わせはこんなものだな。これ以上の親睦はお互いにゆっくり深めていくとしよう」
ハインネルフさんが言うと周りの青がうなずく。なんとか無事にあいさつが終わって良かった。三体に関しては僕やラカムタさん達が自然に接しているのを見て青に慣れてもらうしかないから気にしない事にする。青の村か……、楽しめれば良いな。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想・評価・レビューなどもお待ちしています。




