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青の村への旅にて 青の老竜人の実力の一端と青の老竜人からの評価

 タキタさんと向かい合う。……静かだ。そんなに数は多くないけど、今まで戦った相手や戦うところを見た人の中で一番静かだ。強いて言うならリンリーが近い気もするけど、どこか違う。


「ヤート殿、何もしない気ですか?」

「え?」


 いつのまにか、本当にいつのまにか三ルーメ(三メートル)くらい離れたところに立っていたタキタさんが、僕の目の前にいて僕の頭を触っていた。反射的に後ろに下がれたのは良いとして、なんでタキタさんの動きがわからなかったんだ? ……そういえば三体もタキタさん事は感知できてなかったね。三体の感覚をかいくぐれる方法が何なのか、タキタさんをジッと見ながら考える。だけど……。


「これで二度目」

「…………」


 また、いつのまにか僕の目の前に移動されて頭を触られたから、さっきよりも全力でタキタさんから離れた。絶対に目を離してないのに、いつのまにかそばにいるっていうのはリンリーの気配と身体を消すやり方に似てるけど絶対に違う。違和感がある。この違和感は何? 僕が必死に考えてるとタキタさんが静かに歩きながら近づいてくる。


「ふむ、やっぱりヤート殿は他の竜人族(りゅうじんぞく)とは違いますな」

「……そう?」

「他の竜人族(りゅうじんぞく)が未知のものに出会った時は、ほとんどが肉体と魔力に任せて強引に突破する事を選びます。ですが、ヤート殿は深く考えている。良い事です。ただし……「いくら考えても行動しなかったら意味が無いでしょ?」……理解されているようで何よりです。では、次から攻撃します」


 攻撃を宣言してタキタさんが黙った。…………静かにされるとタキタさんは目の前に立ってるのかわからなくなる。なぜならタキタさんから放たれているはずの息づかいや戦意や気配なんかがすごく小さいからだ。


 あれ? 息づかいや戦意がすごく小さい? ……そうか違和感はこれか。リンリーとタキタさんの違いがわかった。リンリーは姿と気配を消したい時に消してるけど、タキタさんは誰でもあるはずの気配とかが通常時でもどんな時でも常にすごく小さいんだ。そして攻撃する時の気配も小さいから攻撃の瞬間がわからなくて攻撃された後でようやく認識が追いつくって事か。


 僕は自然体らしいけど、どう考えても散歩してた時とまるで変わらないタキタさんの方が自然体でしょ。気配が小さいのはなんというか熟睡してる相手に警戒心が働かない感じに近いかな。しかも身のこなし・戦闘経験・戦闘技術は圧倒的にタキタさんの方が上だから、本当にやっかいなんて言葉じゃ表せないよ。とはいえ泣き言を言ってる場合でもないから腰の小袋を触って中身に魔力を送る。そうしてほんの少し意識をタキタさんからそれるとタキタさんに肩を触られて視界がぐるんって動いた。


「これで三度目です」

「うっ、でも……」

「……ほう、これはこれは」


 危なかった。背中に衝撃が走って空を見てるからタキタさんに背中から地面に叩きつけられたみたいだけど、身体を包むように綿毛を生み出して衝撃を減らしたから、すぐに起き上がってタキタさんから離れる。


「それは大神林(だいしんりん)の植物ですか?」

「名前は綿毛草(コットングラス)で種を綿毛に包んで風に乗せて運ぶっていう植物。大神林(だいしんりん)だと割とどこにでも生えてるかな」

「わしの動きに反応できないと判断して、すぐさま全身を包む形で防御を固める。良い判断です。それではこれはどうですかな?」

「ぐっ」


 今度は瞬きの間にタキタさんが僕の横にいて僕は胸と背中を同時に軽く叩かれた。本当に軽く叩かれただけなのに、身体の中でズンっていう音が響いて呼吸がつまり僕はうずくまる。……綿毛草(コットングラス)の防御が一方向からなら衝撃を減らせても、真逆の二方向から挟むように打たれると衝撃の逃げ場がなくて中心――今で言うと僕の身体の中――ではじけたんだね。


 僕はタキタさんの追撃を少しでも邪魔するために綿毛草(コットングラス)をタキタさんの顔めがけて散らした。さすがに意表をつかれたのか見逃してくれたのかわからないけど、タキタさんから離れて呼吸を少しでも落ち着かす。


「ほっほっほ、一つの手段で防御と妨害をする。攻撃を受けてもすぐに追撃を警戒する。ヤート殿、実にすばらしいです」

「はあ……はあ……、褒められても、はあ……反応しづらい」


 タキタさんが綿毛草(コットングラス)を払いながら嬉しそうに笑っていた。……僕の対応は今のところタキタさんの及第点になってるみたいだね。ただ、さすがにこのままやられっぱなしなのは嫌だな。実力差がとにかく大きいけど、なんとか一撃でも良いからタキタさんに攻撃を当てたい。


「じじい!! ヤートに何してやがる!!」

「タキタ!! 今すぐやめるんだ!!」


 声が聴こえた方を見るとラカムタさんや兄さん達に三体が僕とタキタさんの方に走ってくる。少し遅れてイリュキンと水守(みずもり)達も追走していた。兄さんはそのままタキタさんに殴りかかったけど、どう考えても当たるはずだった兄さんの拳がタキタさんをすり抜けて兄さんは唖然としたまま体勢を崩した。


「は?」

「殴りかかる思い切りは良いですが、予想もしてない事になり混乱して無防備になるのは感心しませんな」

「えっ? グハッ!!」


 タキタさんが一瞬微かに揺れたら兄さんが地面に背中から叩きつけられていた。たぶん手をつかまれて投げられたんだと思う。だけど、それよりも兄さんの拳がタキタさんをすり抜けて見えたのは錯覚かな。


「次からは避けられた時の事も考えておくと良いでしょう」

「…………うる……せぇ」

「ふむ、今のを受けても声を出せるとは、なかなかの耐久力をお持ちのようだ。ガル殿もまた将来が楽しみです」

「だまれ!! クソッ、またか!!」


 タキタさんが兄さんを微笑みながら見ていると兄さんが飛び起きてタキタさんの顔を蹴ったけど、また兄さんの蹴りがタキタさんをすり抜けて見えたから僕の気のせいじゃなかったみたいだね。魔法なのかな? それとも通り抜けたって見えるぐらい最小限の動きで避けた? まあ、どっちにしてもタキタさんに一撃入れるのは大変だって事は確かみたいだ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


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