大神林にて 決着と残る疑問
リンリーとイリュキンがお互いに改めて名乗り宣言すると、リンリーは姿と気配が消えていきイリュキンは水帯一本一本を太く密度の濃いものにして水圏もはっきりと霧として認識できるくらい強めていく。そしてイリュキンから見て左前方の水圏が、ブワッと子供一人分の穴が空いて直ぐに塞がった。
どうやらリンリーがイリュキンの水圏に飛び込んだみたいだけど、向こう側が見えないくらい濃い霧の水圏内の事は僕の目には見えないから植物達の感覚を借りよう。…………よし、リンリーとイリュキンの足元にある下草の感じてる事に同調したら二人の状況が頭に浮かんできた。
「シッ」
まず、イリュキンは自分の左前方から近づいてくるリンリーを水帯三本を横薙に払って迎え撃ち、それを察知したリンリーは瞬間的に強化魔法を発動させ水帯を無視して一気にイリュキンの懐に入り込んだ。まあ、リンリーからしたらイリュキンの間合いで戦う必要なんて無いから当然と言えば当然だね。
あれ? これで接近戦になったから明らかにイリュキンが不利になってるけど、イリュキンからは焦りは感じられない。むしろリンリーに接近されるのは想定済みだったみたいだ。その証拠に残りの二本の水帯が茨状に変化しリンリーが攻撃しようとしていた場所を守っていて、リンリーが別の場所を攻撃しようとしても直ぐにその場所も水の茨が覆う。
リンリーがその対応の早さに攻めあぐねている内にイリュキンは横薙ぎに使った水帯三本を操作して槍のようにリンリーを背後から襲う。当然、リンリーはその場を飛び退いて少し離れた場所に着地し構えた。
「距離があっても接近しても本当に厄介ですね。その水帯は……」
「お褒めに預かり光栄だよ。ところでお互いの目的は果たしてると思うけど、まだ続けるかい?」
「目的が果たせてるのは認めますが、このまま終わるのは嫌ですね」
目的? 何の事だろ? 僕が不思議に思ってたら、リンリーは構えを解き脱力すると静かに目を閉じた。
「今のところは完全なものではないので使いたくありませんが、これはしょうがないと考えましょう。青のイリュキンさん」
「何かな?」
「それほどケガもしないでしょうけど、うまく避けるなり防ぐなりしてください」
「なんだって?」
リンリーが深く呼吸をし始めると、リンリーが変わった。何が変わったかをはっきりと言う事はできないけど確かに変わった。イリュキンも僕と同じようで一見棒立ち状態のリンリーに攻撃はせず、水帯五本を何があっても反応できる位置に置いていた。そしてリンリーは閉じていた目を細く開けてイリュキンに告げる。
「行きます」
「…………グハッ!!」
……起こった事をそのまま言えば、リンリーの身体がフッと消えてイリュキンから三歩くらい離れた場所に両手をイリュキンの方に伸ばした状態で現れたらイリュキンが吹き飛んだけど、イリュキンが自分の正面に移動させてた水帯も吹き飛んでた。何、今の?
「やっぱり威力も力の集中もまだまだですね。そう思いませんか?」
リンリーは両手の具合を確かめるように曲げ伸ばした後、ポツリとつぶやきイリュキンに問いかける。いけない。突然の事に驚いたけどイリュキンは吹き飛んでるんだ。ケガの状態とかを確かめないと不味いって僕がイリュキンに駆け寄ろうとしたらイリュキンが身体を起こした。
「……リンリー、君の言う通り擦り傷と多少の打撲くらいだった。何をしたか聞いても?」
「フフフ、自分の手の内を説明なんてしませんよ」
「それもそうか。さて、ここまでという事で良いかな?」
「はい、大丈夫です。イリュキンさんも、ここまでで良いですか?」
「私も大丈夫だ。目的は十分に果たせたよ」
「そうですね。イリュキンさんとなら私はかまいません」
「私もだ。リンリーなら相手にとって不足はない」
「イリュキンさん、よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく。リンリー」
僕は二人が近づいてがっちり握手してるのを唖然と見てた。……あれだけピリピリしてたのに、和やかに会話しだした。なんでこんなに自然に会話してるの? それに二人の目的って何? 僕は二人が最悪の事態になるかもしれないから、できるだけ静かに急いで来たんだよね? あれ? なんか最終的に疑問だけが残った。女の人……だからなのかな? 二人の言動がよくわからない。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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