黒の村にて 湖と腕輪
「ふむ」
目の前に置かれたパンパンに中身が詰まっているだろう袋を見て村長が、中身を予想しているみたいだけど結局のところ袋を開けてみないとわからないから、村長は袋に手を伸ばした。
「それでは中身を拝見させてもらおうかの」
「はい、どうぞ」
「…………これは!! なるほどのう。イリュキンの言う青の竜人の総力を挙げてという言葉にふさわしいものじゃな」
「恐縮です」
長く生きていろいろなものを見た村長が驚いてるんだから、よっぽどすごいものだと思うけど何が入ってるんだろ? 僕が不思議に思っていたら、村長が袋の中身を一つラカムタさんには渡した。……あれは青い石だね。
「ラカムタも見てみい」
「ほお、これは大霊湖の鉱石か。しかも、この青の濃さは、かなり湖の中央の方のものだな?」
「その通りです」
イリュキンが自信を持って答えてるし、村長とラカムタさんが驚いてるくらいなんだから、あの青い石はすごいものなんだね。周りにいる大人にもわからない顔をしている人がいたのを見て、ラカムタさんは青い石の説明を始めた。
「この鉱石は青の竜人族が湖岸に住んでいる巨大な湖の湖底から採れる鉱石で名前は流蒼石というものだ。そして、この流蒼石には不思議な性質があって湖の中央に近づくほど採れたものは濃い青色になる。俺の持ってる流蒼石の青さは藍色だからな。かなり中央に近いところのものだ。当然、素材としての価値も最高級で大神林でいう高位の魔獣の牙や爪なんかに匹敵するぞ」
「その青の湖って、そんなに真ん中に行くのが難しいの?」
僕の質問にラカムタさんが何かを思い出すような仕草をする。
「そうだな……、前に許可をもらって俺が全力で強化魔法を発動させて泳いだ時は、一時間泳いでも対岸が見えなかった。あの湖は俺がそこまで泳ぎが得意じゃないって事を差し引いても相当広いぞ」
「我ら青でも単独で対岸まで泳ぎ抜いたものはいません。記録に残っているところでは、小舟で休みながら直線に泳いで一週間で対岸に着き、湖の周りを一周するのに強化魔法を発動させ全力で走って一月以上かかるみたいです」
「広すぎでしょ、……もしかして大神林と同じかそれ以上に広い?」
「それはわからないよ。なぜならこの大神林の広さを私達は知らないからね」
「そういえばそうか……」
僕は植物に聞けば大神林の広さがどれくらいなのかがわかるけど、ラカムタさんが大霊湖って呼んでた青の湖の広さを僕がわからないから比較できない。もし僕が大霊湖に行ったとして、正確に広さを測れる? あらかじめ同調した種を飛ばすぐらいは思いつくけど、……イリュキンやラカムタさんが話していた感じじゃダメそうだ。いや、高いところから見れれば対岸を確認できるかもしれない。そうやって僕が大霊湖の事を考えていたらイリュキンが近づいてきた。
「ヤート君、ちょっと良いかな?」
「うん、何?」
「ふう、……これを」
イリュキンが深呼吸をした後に懐から出した小さな包みを手に乗せて僕に見せてくる。そして包みを解くと、中から小さな青い鉱石を磨いて玉にしたものに穴を開け革紐を通して繋いだ腕輪が出てきた。
「君に受け取ってもらいたい」
「えっと?」
すごく真剣な声で言ってきたて突然の事に僕が困惑してるとイリュキンが、フッと軽く笑った。
「特にそこまで深い意味があるものじゃないよ。良い感じの石があって、それで腕輪を作ると良い出来になったから友人である君に送りたいって思っただけさ」
贈り物をされるのは僕だって嬉しい。でも、イリュキンが僕に腕輪を渡そうとしてるのを水守達が驚いた顔になってるのが気になる。……とは言え、断る事でも無いか。
「そうか。そういう事なら受け取るよ」
「ふふ、ありがとう」
「なんでイリュキンがお礼を言うの? 言うとしたら間違いなく僕だよ」
「気にしないでくれ。それよりぜひ腕輪をつけてみてくれないか」
「わかった」
僕はイリュキンから受け取った腕輪を右手につけた。……うん、ジャラジャラしてないから、これならつけたままでも邪魔にならないね。見た目が派手じゃないのも良い。
「……私が作った腕輪はどうかな?」
「特に問題ないよ。つけたままでも作業できそうだから、いつも着けてられそう」
「着けてくれるかい?」
「なんで疑問形? そのために僕にくれたんじゃないの?」
「いや、その、初めて作ったものだから、やっぱり自信がね……」
「一つ一つの玉の大きさもそろってるし表面も滑らかだから、よく出来てるよ。同調しなくても真剣に丁寧に作ったのがよくわかる」
「はは、真正面からほめられると、さすがに照れるな」
素直に思った事を言うとイリュキンが、顔を背けて声も少し小さくなる。僕が知ってるイリュキンはさわやかな麗人って感じだったけど、なんていうかこういう女の子らしい反応もするのは、ちょっと驚いた。でも、僕だけじゃなくて水守達も驚いてるから、普段見せない姿みたい。やっぱり感情が動いてるっていうのは良い事なんだね。…………あと気になるのは。
「ねえ、リンリー、なんでそんなに怖い顔してるの?」
僕が向いた方を反射的に全員が見ると、僕の横にはリンリーがいてイリュキンからもらった腕輪を見ていた。
「ヤート君、その腕輪どうしたんですか?」
「これ? イリュキンにもらった」
「そうですか、……青のイリュキンさん、ちょっとお話があるのでいっしょに散歩でもどうですか?」
「…………私も君と一度真剣に話し合ってみたいと思っていたよ。黒のリンリー」
「奇遇ですね」
「ああ、奇遇だね」
……リンリーとイリュキンを中心に一気に空気が重くなった。あれ? この感じ覚えがある。確かリンリーとお姫様が向かい合ってた時だ。これは僕が原因なのか?
「……二人ともどうかした?」
「いえ、何もないです。ただ青のイリュキンさんとお話したいだけです」
「うん、実にその通りだね。私も黒のリンリーと話をしたいだけさ」
絶対に何もないとか嘘だ。お互いに目をそらさないし、笑ってないとかどう考えても異常だよね?
「それじゃあ、森の中にお話するのに良いところがあるので行きましょう」
「それはどんな場所か楽しみだ。……ああ、君達はここで待っていてくれ」
「ひ、姫さま、それはさすがに」
「待っていてくれるよね?」
「しかし……」
「待っていてくれるよね?」
「姫さま……」
「待っていて……くれるよね?」
「…………わかりました」
「ありがとう」
イリュキンが水守をやり込めた後にリンリーとイリュキンの二人は森の中に入っていった。やり込められた水守を他の水守が肩をポンと叩かれたり慰められている中、僕は思っていた。ああ、今日も良い天気だな。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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