3
アギの目から見ても、イズナは本当にぼんやりだった。たとえばこんなことがあった。
ある日二人は水を汲みに川へ行った。イズナは桶を流れにつっこみ、そのまま動きをとめてじっとしていた。アギはそれを見て、きっと水の中に棲んでいるものを眺めているのだろうと思った。イズナは長いことそうしていた。あまり長いことそうしていたので、アギはだんだんそわそわしはじめた。
そのとき、イズナの体がぐらっと前へ傾き、音を立てて流れに落ちた。だがそうなっても彼は、起きあがる努力ももがくこともしないで、そのまま頭を水につっこんで足だけ外に突き出していた。
アギは一瞬唖然としたが、すぐに慌てて彼をひっぱりあげた。
「馬鹿。死ぬ気か」
「足がしびれた」
とイズナは答えた。
またこんなこともあった。
イズナは氷室へ氷を取りに行ったきり、いつまでたっても戻ってこなかった。怒った主人はアギに彼を探してくるよう言いつけた。アギは氷室へ行って、氷の間に倒れている彼を見付けた。彼の体は冷たく、心臓の音もとぎれとぎれだった。アギは慌てて彼を外へ運び出すと、日光の下で必死に彼の体をこすった。やがて彼は意識を取り戻し、不思議そうにアギを見つめた。
「いったいあんなところで何をやっていたんだ」
アギは喉を詰まらせて怒鳴った。
「もうだめかと思った」
「氷を見ていたんだよ。あんまりきれいだったんで。氷にはいろんなものが閉じ込められているんだよ、あのね――」
「馬鹿野郎」
アギは彼の横面を力任せに殴りつけた。
「いったいあんたは何を考えて生きているんだ。もっとよく考えて行動しろ。まったく――こっちのほうが冷や冷やさせられる」
するとイズナは、逆にアギをいたわろうとでもするかのように、アギに触れた。
「なんで」
彼は言った。
「僕がどうなろうと、君の体は痛くもかゆくもないのに。なのになんで僕のことを心配するんだい」
アギはあんぐり口を開けた。しばらくしてやっと言った。
「思うに、人間でないのはむしろあんたのほうじゃないのか」




