本棟1階西階段の足音
生徒のいる教室があるのは1棟と2棟。
本棟には2階に職員室が、1階にはこの保健室があるだけでその他は無人の特別室。
SRが終わり一気に騒がしくなる1・2棟からの音で、俺はいつも1日の終わりに気が付く。
この間まで向こうで教室を飛び出すうちの1人だったのに。
校舎1つ分違うだけ。
それだけで全く別の時間の流れ。
ここで過ごす時間が、あの頃と同じ量だというのは未だに少し、信じられない。
一時の喧騒はすぐにおさまり、また静かな空間に戻る。
窓から強く射し込む西日は、パソコンを睨んでいた目に容赦がない。
一呼吸おいてから椅子にもたれて目を閉じる。
暫くすると聞こえてくる部活の声を、グラウンドから離れたここで聞くのは何だか心地いい。
ぱたぱたぱた
古い校舎はまだ遠いはずの上履きの音も、静かなここまで届けてくれる。
少しの間を置いてゆっくり、ゆっくりと階段を降りてくる。
音を立てないよう、気を付けて。
目を開けて、パソコンに向かう。
階段のすぐ横の保健室。
けれどなかなか開かない扉。
人影があるだろう磨りガラスには目を向けず、手元は作業を始める。
ガラガラガラ
あぁ、開いてしまった。
少し変な間を置いて聞こえるのは、何の変哲もない挨拶。
にも関わらず、その声に緊張と喜びを聞き取ってしまうのは。
そしてそれらが、俺の胸をあたたかくくすぐっているのも。
なんにも気付かないフリをしよう。
今は、まだ。