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山中君の観察日記

まさかの再登場です。

俺の名前は山中雄太やまなかゆうた

最近、ある人物に目を光らせている。

サッカー部の副部長として、大事な任務を遂行しなければいけない為だ。

うちのサッカー部は弱い。それはもう自分達でも笑っちまうほどに弱い。誰か助けてって言っちゃうほどに。


そんな矢先、球技大会でサッカーがうまい奴を見つけた。

そいつの名前は槇原工。

入学したときから注目の的である1年生だ。

イケメンかつ、裏表ない性格のため男女問わず人気者というハイスペックな奴。んでもってサッカーまでうまいのかよ!って思うと、少し腹がたった。

女子に人気ある奴はせめて男子に嫌われるべきだ。

まあ……個人的な嫉妬は抜きにして、サッカー部の為には奴を引きぬくしかあるまい。

んで、なんとか槇原との接触をはかりたい。と思っていた訳だ。


先に言っておくが、俺は人見知りのヘタレだ。

見ず知らずの人に突然話しかける勇気など、持ち合わせていない。

どうしたものかとなかなか行動に移せずにいたら、隣の席の安藤が槇原と仲がいいらしいと高橋から聞いた。

ラッキー!安藤に間に入ってもらって接点をつくろう!

とウキウキして登校した翌日、安藤にキッパリと関係ない人だと言われた。

その時の俺の気持ちは、まさにガビーンであった。

高橋に変態扱いをされたり安藤に生ぬるい目で見られたっていうのも、ダメージ要素の一部だ。


しかし、俺は諦めない。

念のため安藤の後をつけてみた。(ストーカーとか思わないでください)

確かにその日は槇原と安藤が話しているところは見なかった。

そう、『話しているところ』は。


昼休み、席でメシを食い終わった安藤はふらりと廊下へ出て行った。

すると安藤の向かう方向に槇原が現れたが、こちらには気づいていないようである。

向こうは数名の友達に囲まれて(←ちっ)、廊下でギャーギャー笑い始めた。

なにがそんなにおかしいのか知らないが、携帯見ながら爆笑してる。

なんだよ、なに見てんだよ。気になるじゃねーか。

ま、とにかく。知り合いならばすれ違いざまに挨拶をかわすだろう。

俺はそれを見届けるのだ。


くるっ


突然、安藤は体の向きを180度回転させた。

つまり後ろを振り返り、今来た道をすたすたと戻ってくるのだ。それも小走りで。

とっさに窓の外を眺めているフリをしたら、安藤は俺に気づかず通り過ぎた。

妙だな。

あまりにも不自然。


違和感を感じた俺は、次の日も安藤の後をつけてみることにした。

そしたら今度は、あからさまに逃げたのを目撃した。

正直あの逃げっぷりはすごかった。

昨日とほぼ同じシチュエーション。だが今回は槇原が安藤に気づいた。ニコニコと思いっきり手ふってきたのに、それを見た安藤はすんげー嫌そうな顔して無視した。そんでダッシュで走り抜けていった。

槇原の友人達が「お前急に何してんの?」なんつって、またもや爆笑していた。彼らは安藤の存在に気づかず、槇原が一人で変なことした程度にしか思わなかったのだろう。

思いっきり無視された痛々しい槇原を見て『なんか可哀想』と思ったものの、とにかくこれで判明した。


あいつら絶対知り合い。

んでもって安藤は槇原を避けている。

何故だ?

普通あんなイケメンと知り合いだったら、自慢してまわってもおかしくないと思うのだが。

聞きてー、でもまた嘘つかれて終わりだろーなー。

って感じで悶々として数日がたった。


そんな俺にまたとないチャンスが訪れた。

場所は俺のクラス。時は放課後。

教室には俺一人だけが残っていた。部活の活動報告を仕上げていたのだ。

集中していた俺は、後ろのドアから急に声をかけられて飛び上がった。

なにせ俺はヘタレだから。不意打ちに弱い。

くそぅ、はずかしい。

せめて前から来い!と言ってやる意気込みで(実際に言う勇気はない)、振り返るとまさかの槇原工がそこにいた。


「すみませーん、安藤奈津さん帰っちゃいました?」


コイツ、人見知りの俺がビビっていた『見ず知らずの人に話しかける』という大技をさらっとやりやがった。

しかし、話しかけられてしまえばこっちのもの。

こっちは受け手なのだからビビる必要はない。


「あ?しらねー」


本当は知っているのに先輩風ふかす感じで対応してみた。


「そうですか。ありがとうございました」


槇原がさっさと去っていく。

そりゃそうだ。もう用ねーもんな。

くそ、せっかくのチャンスをつぶしてしまった!

会話をつなげろ!そしてうまくサッカー部の話へ持っていくんだ!


「まてまてまて!サッカーしようぜ?」


……俺はアホだ。

うまく話を持っていくつもりが、速攻で切り出してしまった。

見ず知らずの奴にいきなりこんなこと言われたら、そりゃポカンとするわ。


「今からはちょっと……。すみません」


真摯に受け止めてくれた。

ありがとう、丁重に対応してくれて。お前いい奴だな。

俺はコホンと咳払いをして、自分を落ち着かせた。


「いや、そうじゃないんだ。サッカー部入らないか?って意味」

「部活は入る気ないです。ごめんなさい」


速攻フラれた。

まーでも無理やりってわけにもいかないからな。しかたないよな。


「分かった、こっちこそ急に悪かったな。……ところで、安藤になんか用?」


せっかくだし聞いちゃえ。


「一緒に帰りたかったんですけど、もういないみたいですね」

「お前らって知り合いなの?こないだ安藤に聞いたら赤の他人でまったく知らないって言ってたけど」

「あの人、ツンデレですから」


え、ツンデレなのあいつ?

ちょっと意外。なんでか知らんけど敬語だし、大人しいからツンデレって感じには見えねーけどな。


「ナツ先輩と仲いいんですか?」

「仲いいっていうか、隣の席だからそこそこ話すけど」

「いいな~。俺なんて学校じゃ避けられまくってますよ」


うん、知ってる。


「なんで避けるんだろうな?」

「ツンデレですから」


さっきも思ったけど、なんか意味違う気がする。

つうか、あの逃げっぷりをツンデレで片づけるお前もすげえな。


「隣の席なんてうらやましいです。ナツ先輩のこと見てたら、あっという間に一日すぎちゃいますよね?」

「え?そんなことねーけど。そもそも見てねーし」

「そうですか?俺だったら飽きないけどなぁ」

「お前、ずいぶん安藤のこと気にいってんだな」

「はい!かわいくてしょうがないです」


え?

かわいい?あの安藤が?

いや別にかわいくないとか言ってる訳じゃなくて。

なんつーか、一言で表すなら『普通』だよな。もっと悪く言ってしまえば『地味』。

こんなに目立って存在感ある奴が、あの普通さのどこに惹かれるのだろうか。


「普段ツンツンしてるのに、たまにかわいいとこ見せてくるんですよね~。こないだもかわいいって言ったら顔真っ赤にして照れたりとかしてて。あと、ぎゅってしてみたら固まっちゃたりとか」


なにこれ。

なんかノロケ話聞いてるみたいな気分なんだけど。

槇原のほうが好意もってる感じに聞こえるんだけど。

しかも安藤の様子を見る限り、一方的に。


「……はー。予想外だったわ。びっくりだわ俺」

「?」


なんか急にコイツを応援したくなってきた。

あの避けられっぷりは哀れすぎる。


「安藤さっき帰ったばっかりだから、今ならまだ間に合うんじゃねーの?携帯かけてみれば?」

「ナツ先輩、携帯持ってないんですよ~」

「いや持ってるけど」

「持ってないですって。本人がそう言ってましたよ?」

「いや、しょっちゅう机の下で携帯いじってるけど」


俺は隣の席だから知っている。あんまり気にしたことなかったけど絶対見たことある。


「…………」

「…………」


あ、コイツ嘘つかれたんだ……。

携帯番号教えてもらえなかったんだ……。

さすがに、槇原もへこんでいるように見えた。

かわいそうに。


事情はしらんが、こいつらの今後が気になる。

今後もこの二人を観察していこう、と思った。


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