表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/23

決心

蓋を開けてみれば。

ナツ先輩はとんだ猫かぶりだった。


構えば構うほど、次々と本性が現れる。

敬語から乱暴な言葉遣いに。

『キミ』から『槇原』に。

どんどん心を開いてくれてるような気がして嬉しい。

会える時間がバイトの時間だけなんて、まったくもって足りてない。

せっかく同じ学校にいるのに。

なにが理由か分からないが学校での接触を禁止されているのがかなり辛い。

放課後以降の時間はいいだろうと判断して、クラスまで迎えに行ったところで捕まえられた試しはない。

急いで後を追いかけるように喫茶店に向かってもそこにいるのは、俺のことなどまったく相手にしてくれない彼女の姿。


親密になりたいのに逃げられる。

もどかしくて仕方がないのに、どうしていいのかわからない。


夏休み。

一ヶ月も会わずになんていられるわけがない。

会えば離れたくなくて。帰りたくなくて。

夏休みのあいだ、様々な言い訳をして家に泊まった。

いつからだろうか。

ナツ先輩がだんだん優しくなってきて、俺との距離を縮めてきてくれるようになった。

手料理を食べて、あるときは朝まで一緒に過ごしたり。

俺の肩にもたれかかってグーグー寝ている無防備な姿を見た時や、風呂あがりにハルさんのダブダブのTシャツ姿で出てきたときはどうにか理性を保った。俺は頑張った。

怒りっぽくて口が悪くて素直じゃなくてたまに挙動不審だけど、実は照れ屋で優しいナツ先輩をどんどん好きになっていく。


そんな幸せな夏休みが終わって。

ナツ先輩が一緒に下校してくれるようになり、そろそろ学校での接触禁止令も解除されたのではと思ったのだがそれはまだだったようだ。

いきなり俺のクラスにナツ先輩が飛び込んできたときは本当に驚いた。

と、同時に。

思ってもない場所で彼女に会えた喜びで、思わず駆け寄りそうになった。

そんななかナツ先輩は顔を真っ赤にして涙目で睨んでくる可愛い姿をさらし、俺はぎゅうぎゅうしたいのをなんとか堪えた。ここで理性を失ってナツ先輩を抱きしめたら、きっと今後一切縁を切られてしまう。そんな気がした。


そして。

衝撃的な出来事が起きた。


クラスメイトのかなやんが、ナツ先輩と知り合いだった。

しかも元彼かと思わせるような発言をしたり、ナツ先輩のファーストキスを奪ったりと、嫉妬心を煽るようなことばかりする。

かなやんは明るくていいやつだが、ナツ先輩が絡むとなるとそうも言っていられない。

俺が半年以上もかけて辿りついた位置にあっさりとかなやんは立っている。

もう俺は爆発寸前。

いや、既に一回爆発した。


そして今。

ナツ先輩に避けられ続けて一週間になる。


「はあ……」


放課後。ぼんやりと窓の外を見て、深いため息をついた。


「あれ~、見てあそこ。なっちゃんとかなやん一緒に帰ってる~」

「いい感じじゃん、あの二人」

「なに腐ってんのお前」


いつもの連中がわらわらと集まってきた。

こいつらにキスのことなんか話したら、面白がってナツ先輩をからかうに決まってる。

確実にナツ先輩に殺される。

そう思うと本当のことは伏せておくのが正解だろう。


「ちょっと怒らせちゃって避けられ中」


窓の外の二人を視界にいれているのが辛くて、俺は自分の机に突っ伏した。


「もしかして、かなやんと付き合いはじめたとかぁ?」

「あのなっちゃんが男と一緒にいるなんて、ただごとじゃないよ~」

「タクミはダメなのに奏太とは一緒に帰ったりするんだな」


こいつら、ただでさえ落ち込んでいる俺の傷口を遠慮なくえぐってくる。


「で?どーすんのお前は」

「どーするって……。とにかく今は避けられてるから時間をおくしか……」

「このまま奏太にもってかれるの黙って見てんの?」


顔をあげると、じゅんがじっと俺を見下ろしていた。

基本的に無表情なやつだからいつもと変わらないはずなのに、いつもとは違う気配が感じ取れる。

茶化しているのではなく真剣な質問なんだということを察した。



「だったら僕も参戦しちゃおうかな~。なっちゃん面白いから好きだし~」


颯斗はやとがニコニコ顔で横から口を挟んでくる。


「かなやんに譲れるんだったら、別に俺たちの誰かがなっちゃん奪ってもいいでしょ?」


輝大あきひろのいつものヘラヘラした表情は消え失せていて、完全に俺を挑発していた。


「ナツ先輩はお前らのタイプじゃないだろ」

「……どうだろね?」


窓枠にもたれかかりながら意味深に笑みを浮かべる輝大を見て、俺は勢いよく立ち上がった。


「ナツ先輩は、かなやんにもお前らにも渡さないから」


いやだ。

ナツ先輩が好きなんだ。嫌われてたって諦められるほど簡単な気持ちじゃないんだ。


「じゃ、どーするわけお前は?」


振り出しにもどって同じ質問。


「……押して押して押しまくる。そんで俺を好きにさせる」


ちゃんと考えてみれば、こんなにも簡単なことだった。

縮まらない距離をもどかしく思っていてもしょうがない。

自分が動かなければいつまでたっても平行線だ。

待つんじゃなくて、こっちから攻めるんだ。


ナツ先輩。明日から覚悟して。

絶対に俺を好きにさせるから。

次回、ついに槇原が動き出します。

そしてようやく3バカの名前が出ました(笑)

子犬→颯斗はやと、腹黒→輝大あきひろ、無表情→じゅんです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ