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変化

新学期が始まった。

ようやく夏休みボケが治り、学校生活のペースに慣れてきたところだ。


天気いいなー。

お昼ご飯を食べ終えてほのぼのしてたら、窓際の私の席近くで市川さんと田村さんがきゃいきゃい騒ぎ出した。


「見て!槇原君!」

「きゃー!サッカーしてる!」


校庭を見たら、ほんとに槇原がいた。

すげーよく気付いたな。お二人さん。

あ、そうか。この二人も槇原ファンか。


「ね、やっちゃう?」

「うんうん」


何する気ですか?なんとなく嫌な予感がするんですけど。

頼む。やめてくれ。やらないでくれ。


「「まきはらくーん!」」


……やっぱり。

やっちゃいましたね。やってもいいけど私の近くでやらないでください。

ああほら、あいつこっちガン見しちゃってんじゃん。

横目でチラ見程度でも分かるぐらい、まっすぐこっち見てんじゃん。

ガチっと視線があった。

やべって思った矢先。


「ナツ先輩!」

「話しかけるな!」


あ、ちなみに私のセリフはメールです。

大声で名前を叫ばれた私は、速攻でメールを打って叱った。

あのバカ!よりによってこんな公衆の面前でやりやがった。面と向かって話しかけられた訳ではないから、周りの人々はまさか私に対してだとは思わないだろうけども。

にしたって、ナツって誰だよってなるだろうが!

冷や汗やら怒りやらでワナワナしていると、市川さんと田村さんの話し声が。


「ね、今ナツ先輩って言ってなかった?」

「私もそう聞こえた…」


うぎゃーまずい!恐れていたことがついに!

『恐怖のナツ探し大会』が開催されてしまうのだろうか!

どうしよ、どうしよー。

地味ライフ滅亡か?ついに破滅するのか!?


「ナツメさんのことだよね、きっと」

「だよね、ナツメ先輩って言ったんだと思う」


…………ナツ、メ?


なんすかそれ。誰すか。

お二人さん。もっと私に情報を!事細かく情報をください!

切なる願いが届いたのか、まさか私が耳ダンボになっているとも気付かず話を続ける二人。


「「隣のクラスの夏目繭子!」」


ナツメ、マユコ?

ほほう。まさかの名字のほうでしたか。


「夏目さんと槇原君て、やっぱりつきあってんのかな?」

「そんな噂もあったよねー。夏休み前も間違えてうちのクラス探しに来たりしてたし」


それって、もしや。

以前高橋さんに問い詰められたあの出来事ではないだろうか。

ふえー、まじか。

苦し紛れで言った『どっかの誰かと間違えてる』説が、隣のクラスにいた夏目さんのおかげでリアルな感じになっていた訳か。なんつー偶然。どうりであれからその話をふられない訳だ。

しかしまずいな。夏目さんとやらがあらぬ誤解を受けているようだ。自分に白羽の矢がたたなくてホッとしたものの、このままでは夏目さんがとばっちりをくらうことになってしまう。身に覚えのないことでイジメとか呼び出しとかされてしまったらどうしよう。


「槇原君に彼女とか嫌だけど、さすがに夏目さんだったらしょうがないよねー」

「文句なしの美男美女カップルだもんねぇ」

「悔しいけどお似合いだし」

「文句言う勇気ないよね。勝てるわけないもん」


なんと。

予想外の展開が。まさかの受け入れ態勢?


…………夏目さん、美女に生まれてくれてありがとーう!!

あなたのおかげで誰も傷つくことなく、穏便に解決しそうです!

このまま皆が勘違いして二人を公認カップルとして扱ってくれれば、私はもうビクビクする必要が無いわけです。槇原と学校で話したとしてもすれ違いにぶつかったザコ程度にしか思われずに済むでしょう。あなたは私の救世主です!


「安藤どうしたんだ?なんか浮かれてる?」

「山中君聞いてください!ついに明るい未来が開けました!メシア様が……!」

「ふーん。それよりさ、あいつとはどうなってんの?」

「軽く流さないでくださいよ。それにこんなところでそのネタはやめてください」


山中君の繰り出すあいつネタ。それは言うまでもなく槇原のことだ。

なんでか知らないけど、山中君は私と槇原に興味深々なのである。

授業中に携帯をいじっていると「まきはら?」と書かれた紙きれが投げ込まれたり、喫茶店に来て私達をからかって遊ぶというのが日常的になり始めている。

教室でもしょっちゅうからまれて遊ばれてるので暇人だなオイとうんざりしつつも、なんやかんやと学校生活が楽しくなってきているのも事実だ。


山中君が顔を近づけてヒソヒソと話しかけてくる。


「んで?正直なところどうなのよ。あいつとはどこまでいってんの?」

「やめろと言ったばかりでその質問はどうかと思います」

「だって同棲してんのに、なにもないほうがおかしいだろ」

「ヒソヒソ声なら何言っても許されると思ったら大間違いですよ。怒りますよ。てか同棲じゃないですってば。学校始まってからはあいつちゃんと帰ってますし」

「じゃ、とくになんも進展ねーの?」

「ありません。そんなもの」

「なんだ、つまんね」


山中君はそう言うと昼寝の体勢に入ってしまいました。


ほっ。

これ以上根掘り葉掘りされてたら、うっかり話してしまうところだった。

私は山中君が完全に寝たのを見届けてから、ピカピカ光る携帯を開いた。


『ナツ先輩、今日も一緒に帰りましょうね。放課後いつものところで』


槇原からのメールだ。

さくっと読んで、パチンと携帯を閉じる。

返事はしない。

それが了承の意味であることを、あいつはちゃんと分かっているから。



新学期が始まってからの私の生活は少し変わった。

相変わらず学校内での槇原との接触は避けているものの、学校から出ればそこそこ仲良くやっている。

バイトがある日は学校から少し離れた公園で槇原と待ち合わせして、一緒に帰るようになったのだ。

最初はあんまりにもしつこいから妥協案としてそのような方法をとったのだが、これがなかなかどうして居心地がいい。その日のできごとを面白おかしく話してくる槇原の話は聞いていて飽きないし、家までの道のりがあっという間だ。

こんな秘密の下校を楽しんでいるなんて山中君や3バカに知られたら、こっぱずかしくて死ねる。


だから誰にも言わない。

――――2人だけの、ささやかな秘密。



―――――― とある日の下校中の会話 ――――――


「今日も無視しましたよね?」

「これあげるから機嫌直してよ」

「飴?それじゃ直りません」

「じゃあどうしたら直るわけ?」

「手。つないでください」

「……そこの角までなら」


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