第3シャッター
多分一ヶ月周期で投稿します
『カシャ・・・、
カシャ、カシャ』
広い屋上に、この場所とは不釣り合いな、
シャッターの音が響く。
私は不意に聞こえた音の先に、
目をやった。
屋上の出入口たる扉の上の、
ちょっとした場所に、
『そいつ』は立っていた。
サラサラと風に流される黒髪。
身長は170位か?
スラリと伸びた足に、
半袖のカッターから覗かせた腕は、
程よい位に引き締まっている。
『そいつ』は良くCMに出ている、
んと、Nikonか?
とにかく、黒色のカメラを構えて、
空の写真を撮っていた。
「(あ、あの人昨日の・・・)」
ジー、と見ていたら『そいつ』が、
昨日の公園で、写真を撮っていた男だと気付いた。
昨日といい、今日といい、
彼は空を撮るのが好きなんだろうか?
何となく、彼を『ぼー』と眺めていたら、
『ニャーォ、ニャーォ・・・
ニャーォ、ニャーォ・・・』
いきなり携帯が鳴った。
「ん?」
スカートのポケットから、
携帯を取り出して画面を確認する。
メールだ。
内容は、
『一之瀬、ハゲ谷がそっち行く。
降りて来い。from山瀬智也』
との事だった。
「げっ・・・」
ハゲ谷、
国語科の大谷貴也先生。
頭がてっぺんハゲで、
両脇の髪はもっさり生えているので、
ハゲている場所が山の谷間みたいだから、
ハゲ谷と呼ばれている。
あいつには
色々と目を付けられているので、
あまり関わりたくはない。
更に、
ここ屋上は立入禁止になっているので、
何を言われるかわかったもんじゃない。
私は急いで屋上から立ち退こうと、
出口に向かう。
出口の扉の前に来たと同時に、
「よっと・・・」、という声と共に、
上から彼が飛び降りてきた。
彼は私の隣に飛び降り、
身体を起こすと、私の方を見たので、
自然と、隣にいる私と目が合う。
「・・・」
「・・・」
私も彼も何も言わずに、ただ見合った。
初めて彼を近くで見、思った事は・・・、
睫毛長ー・・・
すっとした鼻。
切れ目がちなのに、
何処かダルけた様な瞳。
まぁ、普通に調った顔立ちで、
カッコイイんだろうな。
そんな事を思っていたら、
ふい、と彼が目を離し、
先に屋上を出た。
屋上を出た彼に、私も続いて屋上を出る。
『トットットット・・・』
階段を降りる足音が響く。
だが、足音は一つではなく、二つ。
私と、先程の彼の音だ。
あの後、屋上から出て、
階段を降りて行き、
なんとかハゲ谷に遭遇する事はなく、
一安心したのだが、
何故か、私と彼の行き先が同じなのだ。
階段を降りては、同じ方向の廊下を歩き、
階段を下りては、同じ方向の廊下を歩き、
と全くもって同じ行き先なのだ。
「(うーん・・・、
なんか気まずい。
ていうか・・・)」
さっきからちらちらと私達、
目が合ってないか?
「(ていうか、
合ってるっていうより・・・)」
ちらりと、隣の彼を見る。
ていうか、睨む。
すると、彼もちらりとこちらを見、睨む。
うん、わかった。
私達、お互いに睨み合ってるね・・・。
何故だか、
だんだんと苛々してきたんだろう。
私は彼から少し距離を離して廊下を歩き、
彼も窓際まで離れて歩く。
私はそれから彼を一切見ないでおこうと、
視線を切り、
彼が先に歩くのを確認すると、
反対側に歩いて、階段を降りて行った。
「二度とあいつに近付くのは止めよ。
なんかウザイ・・・」
ポツリ一人呟けば、
下駄箱の方へと歩を進めた。
なんだけど・・・
『カタン・・・』
「・・・・・」
「・・・・・」
ザ・未知との遭遇っ!!
と私達の上に、
デカデカと浮かんでいる事だろう。
私、そして彼の口元はぴくぴくと、
引き攣っている。
とりあえず私は、目線を再び切り、
下駄箱からローファーを取り出して、
履き変える。
そして、玄関を出て、校門を抜け、
下校する。
「(はぁ・・・。
上山で晩御飯とシュークリームでも買って、
気分変えよ)」
私は心の中で呟いた。
現在位置、スーパー上山、
惣菜コーナー。
私は何時も通り、
10分待ち、
出来立てホカホカのスペシャル弁当、
肉、野菜、果物全て揃ったオードブル。
この二つに手を伸ばしたのだが、
隣から他の人の手が伸びてきた。
手に目線を寄せ、
ゆっくり上へ目線を上げていけば・・・
学校のあいつだった・・・。
うん、何故?
と考えを巡らせれば、
答えは一つしか出て来なかった。
そして、不意に口に出てしまった。
『ストーキングしてんじゃねぇよ、
クソ野郎』
あれ?
今こいつなんて言った?
鼓膜に響いた声を、再度脳内で再生する。
〔ストーキングしてんじゃねぇよ、クソ野郎〕
うん、
もう一度。
〔ストーキングしてんじゃねぇよ、クソ野郎〕
・・・・・・
「はぁぁぁっ!?
なにそれ、ストーキングしてんのはあんたでしょっ!?」
ついに我慢出来なくなり、
私はこの場所を忘れて叫んでしまった。
そしてこの行為が、
悲劇のはじまりだった。
「はぁっ!?
ふざけんなっ、学校からずっとストーキングしてんのはお前だろうがっ!」
「ストーキングしてんのはあんただよっ!!
屋上からずっと私の行く先々、ずっとつけて来やがってっ!
この変態っ、変質者っ、
キモいんだよっ、その睫毛っ!
男かニューハーフか
どっちかにしやがれやっ!!」
「やかましいわっ!!
台詞が長げぇんだよっ!!
聞き取んのに必死になっちまったろうがっ!!
んでっ
この睫毛は生まれてからずっとだわっ!!
お前こそ女かオナベかどっちかにしやがれっ!!」
「丁寧に説明なんざしてんじゃねぇよっ!!
あんたはニュースキャスターかっ!!
アナウンサーかっ!!
落語家かっ!!
それとあたしはれっきとした女だっ!」
「落語家ってなんだっ!
最初の二つは解るが、
落語家ってなんだっ!!
つか、解んのかよ俺っ!!
ていうかっ、
そんな道路補整した様なぺったっんこでっ、つるっつるな胸晒して何が女だっ!
イソフラボン取れっボケ女っ!!」
「ぐだぐだぐだぐだ長ったらしいんだよっ!
ぺったんこで何が悪いっ!
第一イソフラボンなんかで胸がデカクなるかっ!!」
こんな言い争いを小1時間し、
最終的に、店員さんに、
『喧嘩なら、表でやりな・・・』
と、言われたので、私達は別れた。
しかし・・・、
あの人は本当に店員さん・・・?
何故か893と呼ばれる様な方々と同じ様な、感じでしたが・・・
そんなこんなで、自宅前。
鍵を開けようと、財布から鍵を取り出そうとしたのだが・・・、
私の動きは完全に止まった。
何故?
いやいや、解ろうか皆さん。
先程の憎っくき奴が、
隣で同じ様に固まってるカラニ、
キマッテルジャナイデスカー
『・・・・・・・・・・・・』
『テンメェーッッッッ!!!!』
「ストーカーもいい加減にしやがれっ!!
お前アレかっ!?
ヤンデレって奴か!?」
「ふざけた事言ってんじゃないわよっ
ミミズ(ピー)野郎っ!!
例えヤンでも
あんたみたいなミミズみたいな(ピー)野郎なんかにデレてたまるかっ!!」
「おまっ、それは夜にそんなデカデカと言う言葉かっ!!
ついでに俺はミミズみたいな(ピー)じゃねぇよっ!!
俺のはれっきとした蛇だっ!!
って、俺はなんて事デカデカと言ってんだーっ!!」
「皆さーんっ!!
ここに変態がいますーっ!!
こんな夜なのに(ピー)なんて下系の言葉言ってますーっ!!」
「お前っ!!
それ最初に叫んだのお前だろうがっ!!」
「犯されるーっ!!
犯されるーっ!!」
「誤解を生む様な事叫ぶなーっ!!」
ストーカー野郎が一際大きく叫んだ時だった。
『バンッ!!』
と、勢い良く、
向かいの家の扉が開き、
パンチパーマでデカデカと太った、
オバサンが出て来た。
その扉を勢い良く開いた音で、
私、そしてストーカー野郎も、
まるで古い泥棒が、
忍び足をしている様なポーズで固まってしまっている。
だが、オバサンは全く気にしてない様で、
威圧感丸出しで、静かに喋りかけて来た。
「あんたら・・・、
うるさいんだよ・・・。
(ピー)とか(ピー)とか(ピー)とか・・・。
若いから性的行為が気になるのは解るがね、
場所をわきまえな・・・。
それと、
御近所迷惑と言う言葉・・・。
・・・解るね?」
オバサンは言い終わりと同時に、
眉間にシワを寄せたまま無理に笑顔を、
私達に向けてきた。
うん、怖い・・・
ただ、怖い・・・。
私(そしてストーカー野郎)は、
あまりの恐怖で、ただコクコクと頷いていた。
オバサンは笑顔を止めると、
静かに、自宅へと帰って行った。
オバサンが帰った後、
私達は恐怖のあまり、
ただ静かに家の鍵を開けて、
家の中へ入って行った。
私は家の中に入ると、
冷蔵庫に、
買ってきたお弁当とオードブルを入れ、
自室へと向かう。
だが、自室に入った途端、
なんとも言い難い苛つきを覚え、
ふと、カーテンを開けた。
すると、向かい側の家のカーテンも開き、
カーテンを開けた人物と目が合い言葉を無くす。
その人物は、静かに窓を開け、
窓の縁に手を置き、プルプルと震えている。
更には、こちらに上目遣いだが、
威嚇する様に睨んでいる。
私は、その睨みに答え様と、
私も窓を開け、縁に手を置く。
そして、ギリギリと歯ぎしりしながら、
睨み返す。
一、二分、睨み合いを続けた後、
私とその人物は、大きく息を吸い込むと、
ある言葉と共に、一気に吐き出した。
『このストーカー野郎ーーーッッッッ!!!』
それからの事は良く覚えてない。
ただ、お互い(ピー)とか(ピー)とか、
下品な事を言い合ったり、
お互い物を投げ合ったり
(私の猫グッズは、一切手を出してない)、
ある種、小規模な戦争に発展していた。
だが、戦争が発展し過ぎ、
遂には、
お互いの部屋に殴り込もうとした時、
突如、あいつが消えれば、
玄関のチャイムが鳴り響き、
仕方なく玄関に向かうと、
先程のオバサンがおり、
恐々と付いて行けば、
あいつが何故か正座した状態で、
俯いていたのだ。
その状態のあいつを見、
私は、今から起こる惨劇が、予期出来た。
そして、こう思った。
「(私、こいつの事嫌いだ・・・)」