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第1シャッター



『《恋》?


《恋》ってなに?


《恋愛》?


《恋愛》ってなに?


《好き》?


《好き》なんてあるわけない。


この世に満ちている《好き》を信じろ?


出来るわけないじゃない


そんなこと』







夏。


桜散り終わり

次に緑の葉が映える季節。


灼熱の太陽が私達を照り付ける季節。


そんな夏真っ只中の八月上旬。


私は、私の学校の教室で

ある男子と二人っきりでいる。


まぁ、要するに告白されている訳だ。


だが、私の答えは、


「ごめんなさい。

私、貴方なんて知らないから」



これだけ。


男子が何かを言おうとするが否や

私は足早に教室を立ち去る。


教室を出て、階段の踊り場に着いた時、

漸く、先程の男子からの呼び止めの声が聞こえた。


だが私は、当然返事する訳無く、

戻る訳も無く、

立ち止まる訳すらない。


先程の男子は、

隣の二組の人気者らしいが、

別になんとも思わない。


私が彼に思う事はただ一つ、


『なんて、理解力の低い奴だろう』


だけ。








学校から家に着き

財布から鍵を取り出す。


鍵穴に差し込み左に捻ると、

心地良い音と共に、鍵が開けられる。


私はそのまま、家の中に入り

一目散に二階にある自分の部屋へ向かう。


部屋の扉ををあけると

直ぐにベッドへと向かう。


寝るわけではない。


「ニャー、ニャー・・・」


ベッドの上の

黒猫、『アズサ』と戯れるのだ



「アズサー、ただいまー・・・」


ベッドへ腰掛け、

アズサの頭を優しく撫でてやると、

アズサは心地良さそうに、眼を閉じる。



うん、やっぱり猫はいい。

見てるだけで心がほんわりするし、

何より可愛い。



この世の大半が猫になってしまったら、

私は嬉しくて狂乱してしまうかもしれない。


それほど、私は猫が好きなのだ。


部屋の壁には、特大の子猫のポスターを貼り、

机の上には、所狭しと猫グッズが置いてあり、


カーペッドは勿論、

テーブルクロスまで猫柄だ。



携帯の着信音は全て猫の鳴き声。

待ち受けだって、

ほら、可愛いペットのアズサの待ち受けだ。



「ふふ・・・」


私は、待ち受けのアズサを見ようと、

携帯を開く。


だけど、開いて後悔。


携帯の待ち受けには、

確かに可愛いアズサの寝顔写メがある。


だけど、そのアズサの寝顔の上に被さっている邪魔な表示。



『着信あり。留守番メモ、二件。

バカ・アホ』



「はぁ・・・

またあの馬鹿共帰るの遅くなるのかよ」



留守番メモを聞く意味などありはしない。

内容はどうせ決まってる。



「仕方ない、スーパー行こ」





私の名前は一之瀬由奈。


私の両親は、

二人とも仕事人間という奴で、

私が生まれてからも、

家に一日中居るという事がない。


父は、

若い頃の父が建てた会社の、


母は、

父と付き合う前から勤めていた製薬会社の社長なのだ。


父と母が結婚し、私が生まれてから、

父の会社と母の会社が合併し、

より一層働き漬けになっていった。



まぁ、私としては、

両親から自分の趣味に対して、

あーだこーだ言われなくて楽だが、


両親が家に居ない事により、

必然的に、

家の家事は全て私がする事になる。



家事は苦手ではないが、

やはり、めんどくさい。


やれ、テーブルクロスはこの洗剤だの、

やれ、このカーペットは石鹸となんかを使えだの、

面倒極まりない。


だから、私の食事はたいてい、

スーパーのお惣菜だ。


料理が出来ない訳ではない。

するのが面倒なのだ。


決してっ、

料理が出来ない訳ではないのだ。








そうこうする内に、

私行き着けのスーパーが見えてきた。


『スーパー上山』

このスーパーは大体夜になると、

お惣菜と飲み物が100円単位に激減するのだ。


だからといって、

マズイ訳ではない。

寧ろ、大変美味しいのだ。


だから、このスーパーの近辺には、

ワンルームマンションが多く、

一人暮らしの学生には凄く人気があり、

日中夜問わず、客足が多い。



入口の自動ドアをくぐると、

相も変わらず客が多い。


毎度の如く、8つレジはフル活動、

お惣菜や飲み物は次から次へと陳列され、開いた箇所を埋められていく。


「はぁ、気持ち悪・・・」


私は人混みが苦手な訳ではないが、

好きでもない。


一つ溜め息を吐くと、

足早に、お惣菜コーナーへ向かう。





お惣菜コーナーに着くと、

そこは既に戦場だった。


お弁当は、

陳列されては、

全て客が奪い合う様に取り合い、


おかず等は吸い込まれる様に、

客の手の中へ消えて行った。


「はぁ・・・、

後10分位かな」


私は直ぐに、お惣菜を取りには行かず、

お惣菜コーナーの入口付近の壁際に、

背をもたれ掛かり、腕時計を眺めて、

暫く待つ。




10分後。

あれだけ居た客の影は、

一つたりとも居なくなっていた。


このスーパーのお惣菜コーナーの特徴は、

夕方の下校時間と、

部活終わりの学生達を狙った、

限られた時間帯のみに出される、

量、質、安さ、全てを含んだ、

お弁当とおかず等なのだ。


基本的スーパー等は、主婦を狙い目に、

夕方4時頃に格安物を販売するが、

このスーパーは学生を中心に販売される。


計算高い主婦よりも、

若い学生の方が、

沢山食し、沢山買い占める為、

100円単位の格安さをものともせず、

普通のスーパーより売り上げが高い。



だが、私は知っている。

学生が買い占めた後に残された、

閉店間際のこの時間帯のみ、


ある二つのお惣菜が出される事を。


私はゆったりと、

お惣菜コーナーに足を踏み入れ、

奥の陳列棚へと進んで行く。



お惣菜コーナー、唯一最後のお宝。


学生達が買い占め、

商品が無くなったと思い、

ここを去るときのみ出される、

二つの商品。



それは、


「残り物には福がある・・・」



陳列が遅れて、

学生達に買われなかった、

出来立てホカホカのスペシャル弁当、


そして、

パーティー用に陳列されるも、

そうそう買われる事のない、

肉、野菜、果物全て揃ったオードブル。


この二つの為に

私は10分もの間待ち続けていた。



「ふふ、今日も私の策に抜かりは無い・・・」



私はスペシャル弁当と、

オードブルを手に取り、

レジへと向かう。








『コツコツコツコツ・・・』


ローファーの靴音が、辺りに響く。


買い物を済ませた後、

私は少し寄り道していた。


たまに学校帰りに寄る公園、

私は今そこに居る。



此処には、大きな遊具はなく、

小さな、ブランコと滑り台、

それとベンチしかない。


だが、それを補うが様に、

公園のど真ん中に、大きな桜の樹がある。


今は緑の葉を生やしているが、

春には満開の桜吹雪が目に見れる、


私はベンチに腰掛け、

街灯の明かりに照らされた、緑の葉を、

ぼんやりと眺める。


何か特別な意味はない。

ただ、この樹を見るのが、何故か好きなのだ。





15分位しただろうか。

私は一通りに樹を眺めると、

ビニール袋を手に取り、公園を出ようとした。


だが、立ち上がったと同時に、


『カシャ、カシャ・・・』


と、カメラのシャッターを切る音が聞こえてきた。



ふと、振り向くと、

一人の男性が、カメラを持って、佇んでいた。


その男性は私ではなく、

桜の樹でもなく、何故か、空にファインダーを向けていた。


サラサラと、

風に流された黒髪が、

街灯の光を浴び、

先程の桜の樹の葉の様に、

キラキラと綺麗に見えた。



だが、じっと見るのも、失礼だし、

何より恥ずかしいし、


私は踵を返し、

帰路へと戻った。




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