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これから

「ツェルリア様!よかった。ご無事で、本当によかった!!」

 ツェルリアが案内さされた部屋に入るとシュリが目を腫らし真っ赤に充血させて泣いていた。

 そして今も泣き続けている。

 先ほどまでは悲しみと恐怖で泣いていた。ツェルリアに気づいた一瞬は泣き止んだのだが、今度は嬉しさと安堵で泣き始めてしまった。

 一応ではあるが護衛と監視を行っていた数人の兵士から((なんとかして下さい!!))と目で語られたツェルリアは苦笑を浮かべながらもシュリの頭を優しく撫でて言葉をかける。


 ツェルリアにはわかった。シュリの顔を見た途端に先ほどまでの動揺が治まり、いつもどおりの自分に戻っていくことが。


「そんなに泣いては涙と声がかれてしまうわ。シュリ、お茶を入れて?ミルクティーが飲みたいの」

「は、い」

 シュリはまだ目に涙をためてしゃくりあげているが必死に笑顔を作る努力をしているようだ。

「自分のぶんも忘れずにね。一緒に飲みましょう」

「はい、ツェルリア様。よろこんで!」


「ツェルリア様に求婚、ですか・・・?」

 甘いミルクティーを飲んだシュリは少し落ち着いたようで、ツェルリアから事情を聞きながら水で冷やされた(ぬの)で目を冷やしている。

「そうなの。どうやって断ろうかしら?」

「こ、断るのですか!?」

「えぇ。例えそれで処罰されたとしても、断らなければならないわ」

 ツェルリアは悩ましげにため息をつく。

「どうして正妃なのかしら?大勢いる妾の中の1人としてなら・・・いいえ。彼がわたくしを、知らなかったなら・・・拒否する理由なんてなかったのに」

(ヴィアルス陛下の知っているわたくしはいまのわたくしではないから。きっとそれはまだあの人が側にいた頃の自分。心から笑ったり、泣いたりしていた“ツェリ”だから)

「それにね。ヴィアルス陛下はおっしゃられたの。“愛している”と、おっしゃられたの」


 もらった分だけ返さなければいけないという決まりはないけれど、ツェルリアは決めていた。

 もう誰も愛さない。だから、誰からも愛をもらわない。

 本当の感情と表情を隠して、逆らわず意見せずただ従順に。他人と接するときは必ず一線を引いた。

 その線は例え一国の王であっても越えることはかなわない。


「ですが、それでツェルリア様が殺されてしまったら・・・!」

 シュリの顔は一瞬にして青ざめる。例えツェルリアに告げられた愛が本心からのものだったとしても、彼女がそれを拒めば逆上し、腹いせに死刑を命ずるかもしれない。可愛さ余って憎さ百倍というやつだ。

「それは大丈夫だと思うわ。・・・たぶん」

「た、たぶん・・・?」

 シュリでさえツェルリアのこのようなあいまいな言葉を聞いたことがなかった。

「えぇ。確証はないわ。でも、なぜかわからないけれど、大丈夫だと思ったの」

 ツェルリアの表情は変わらない。けれどシュリには彼女が泣きそうに見えた。おそらくそれは間違いではないだろう。

「わからないの。ヴィアルス陛下のことも、彼が何を考えているのかも。それなのに、わからないのに、ヴィアルス陛下を信頼しているわたくしがいる。“あの人”の隣にいたときのような安心感を感じている自分がいるの」

「そ、それは悪いことなのですか?」

 シュリは思わず口を開いた。淡々と話しているツェルリアを見ていられなかったのだ。

 ツェルリアはシュリを見つめ、自嘲を含んだ笑みを浮かべて言った。

「悪いことよ。だってわたくしが好きになった人はみんな、不幸せになってしまうもの。・・・シュリ、あなたもそうでしょう?」

「ッ・・・!!」

 シュリは否定の言葉を告げようとしたが、のどが凍りついたかのように音にならなかった。


 訪れた沈黙を破ったのは扉をノックする音だった。見知らぬ侍女は社交的な笑顔で告げる。

「ツェルリア様、お食事の用意が整いました。食堂へご案内いたします。あぁ、その前にお召し換えを。陛下がお待ちになっておりますから」

「わかりました。シュリ、見立ててくれるかしら?」

「・・・はい。かしこまりました」


 シュリは不安に駆られながらも頷いた。あいまいな言い方だったとはいえ、ツェルリアが“大丈夫”と言ったから。ツェルリアの予想は誰よりも当たっていることを、シュリは知っていた。

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