王の部屋にて
ヴィアルスは深いため息をついた。
ツェルリアはクラウドに命じて部屋に戻らせた。表情にはほとんど出ていなかったが明らかに動揺していたので一度落ち着かせたほうがいいと判断したのだ。
「まだ、思い続けているのか・・・」
ヴィアルスはツェルリアの瞳が揺れていた理由を知っていた。普段は完璧に感情を押し殺している彼女が反応を示す事柄は一つしかない。
「ヴィアくんが女の子にふられるなんて珍しいこともあるんだね」
「・・・ラウル。勝手に城内に入って来るなと何度言えばわかるんだ?」
ラウリディル・シーヴァ・リルヴェアはヴィアルスの父のいとこである。
人々が彼の特徴を挙げるならば必ず『年齢不詳』で『神出鬼没』だが『息を呑む程美しい』と表現するだろう。
ラウリディルの実際年齢は50歳を過ぎている。しかし外見年齢はどう見ても20代前半で若々しい。
そのためヴィアルスは敬語を使わない、というか使う気になれないのだ。
また、招き入れたつもりもないのに室内に入っており、声をかけられるまで気づかなかったりするので、なにか後ろ暗いことをしている者はほぼ間違いなく弱みを握られている。しかし存在感がないわけではなく、むしろあり過ぎるくらいだ。
銀色のまっすぐな髪は背に届くほど長いが結われておらず、それがさらに色気を溢れさせている。深紫の瞳は深遠で透き通るような肌によくあっている。
「そういえば、ラウルはツェリに似ているな。髪の色こそ違うが、瞳の色や肌や髪質はそっくりだ」
ツェルリアの髪は漆黒だが、ラウリディルと並べば兄妹といわれても真実味がある。
ラウリディルは一瞬無表情になったが、すぐにいつもの捉え処のない笑顔に戻り、まるで世間の常識を語るかのように言った。
「あたりまえだよ。ぼくとあの子は血が繋がっているからね」