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メイティアの滅び

 メイティアの王宮は大騒ぎになっていた。

 隣国りんごく・リルヴェアの兵が攻め込んできたのである。その勢いは凄まじく、あと半日もしないうちに王都も制圧されるだろう。

 メイティアの土地は広大だ。通常ならリルヴェアからどんなに急いだとしても王都に着くまでに10日はかかる。明らかに情報が遅れていた。


「ツェルリア様!リルヴェアの兵がすぐ近くまで来ています!!」

 ツェルリア・フォミーユ・メイティアは王女だ。ただし、庶出である。

 

 そもそもメイティアでは一夫一婦制が基本である。それは王族でも変わらない。

 しかしツェルリアは現王ロキルドの一夜の(あやま)ちによって生まれてしまった王女だった。

 

 ツェルリアの母は美しい女性だったが、女中として働いていた身分の低い家系であった。そのため、ツェルリアを身ごもり特例として側室に迎えられた後も周囲の態度は冷たく、ついに5年前に精神的な疲労で倒れ、帰らぬ人となった。


 つまりツェルリアに後ろ盾はない。王女と認められたのはロキルドの単なる気まぐれであるし、いまでも追い出されていないのは彼女が異母姉妹よりも格段に美しく育ったからである。

 美しい姫は外交においてカードとなる。他国との繋がりを手っ取り早く強めるために自国の姫と結婚させるのは定石(じょうせき)なのだ。


 よってツェルリアは完璧に近い王族としての教養を身につけているが、与えられている部屋は城の最端であるし、調度品も王城のものとは思えないほど質素だ。侍女もいま騒いでいるシュリしかいない。


「シュリ、おちついて。騒いでも事態は改善しないわ」

 ツェルリアは静かに、笑みさえ浮かべてシュリを(なだ)めた。シュリは主人が(こと)(ほか)おちついているので少し平常心を取り戻したようだ。

「ですが、なぜ攻め込まれているという情報がいままで入ってこなかったのでしょう?城の皆も首を(かし)げています」

「あら。そうなの?簡単なことよ」


 いわく、現在国民は疲弊(ひへい)しており、抵抗できるだけの余力がないこと。

 またリルヴェアの兵は民に対して略奪などを行わず紳士的な態度で接することで有名であり、おそらく誰も暴君たちのために危険を冒してまで報告をしようと思わなかったのだろう。

 そして疲れきっている民といくじのない貴族の若者で形成されたメイティア軍が精鋭(せいえい)(ぞろ)いのリルヴェア軍に(かな)うはずがない。


「ね、簡単でしょう?」

 ツェルリアは苦笑いを浮かべる。

 シュリは呆気(あっけ)にとられて固まっていたが、ハッとしたように青ざめた。

「ツェルリア様!でしたら早く王都を離れませんと・・・!」


 リルヴェアは民や良心的な支配者には寛大だが、暴君たちには厳しすぎるほどに厳しい。

 王家の人間が全員処刑された、というのも珍しい話ではない。


「無理よ。おとなしくしていましょう」

「な、なぜですか!?」

「逃げ切れないことがわかっているのだからおとなしくしていたほうがいいわ。心配しなくても大丈夫。だからシュリ、お茶にしましょう?」

「・・・はい」


 ツェルリアは常に冷静だ。人生を諦観しているのだ。

 だからこそ物事を見極めることに長けており、けれど一切の期待を持っていない。


 シュリは願う。

 どうかリルヴェアが主人にとって楽園であるように。

 主人の傷つき閉ざした心を溶かしてくれるように。

 

(ツェルリア様は十分すぎるほどに傷ついたわ。もう、幸せになってもいいはずよ)


 その9時間後。城にはもうツェルリアとシュリしか残ってはいないというとき。

 キィっと丁寧な動作で扉が開かれた。


 入ってきた兵たちはごく普通におしゃべりをしていた彼女たちに一瞬目を丸くしたが、その中の1人が前に進み出た。

「私は第二部隊長・クラウド。貴女方の名前をお聞かせ願いたい」


 ツェルリアは極上の微笑を浮かべた。それは恐れも嘆きも悲しみも伺えない綺麗な笑顔。


「わたくしはツェルリア・フォミーユ・メイティア。この国の第三王女です」



 

読みにくくてすみません(汗) 次話からは会話を増やせるように努力します。

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