可憐な花
「着いたようだ」
「ここはどこなのですか?」
「それは見てからのお楽しみだ」
ヴィアルスはいたずらっぽく笑うと御者たちにその場で待つように支持し、ツェルリアの手を引いて歩きだした。
しばらく歩くと見えてきたのは底が難なく見えるほど澄んだ小さな泉。
その周りには深紫色をした可憐な花が控えめに咲いていた。
「これ・・・!!」
「ツェリの花だ。見たがっていただろう?」
「え・・・確かに見たいとは思っていましたけど・・・」
それをヴィアルスに伝えた覚えはない。
そう言外に告げるがヴィアルスは何も言わず微笑んだだけだった。
「彼が・・・ルイが教えてくれた花で、ずっと見たいと思っていました」
ルイゼルが死んでから初めて、意識してその名を呼んだ。
「ヴィアルス様はルイのことを知っているんですよね?」
「ああ。友人だ」
立場も年齢のまったく違ったが、親友といってもいいほどにお互いを信用していた。
「だったら、きっとあなたはわたくしを恨むわ。・・・ルイを殺したのはわたくしの父だもの」
まるで死刑宣告を待つ者のような表情。
それは諦めを含んでいるくせに、嫌われることに怯えているのがよくわかる。
「知ってる」
「・・・・・え?」
「だから、知っている。ルイから直接手紙が来た。あの愚王に抗議をするからもう会えないかもね、とか内容は軽かったが」
その中にツェルリアのことを頼むとも書かれていたが言わない。
いろいろあってすぐに助けに行けなかったことは今でも後悔していた。
「悪いのはツェリではなくあの男だろう。そんなことでツェリを恨むほど落ちてはいない」
「で、でも・・・」
「それよりやっと言葉遣いが砕けたな」
「あ!も、申し訳ありま・・・」
「咎めているんじゃない。嬉しかったんだ。そのままでいてくれ」
「・・・・・」
「頼む」
返答の変わりにツェルリアは苦笑し、首肯した。