不穏な影
暗い森の中、豪華絢爛なドレスを身に纏った女性がいた。
「まったくぅ、なんであの子だけが庇護されるのかしらぁ。許せなぁい」
厚い化粧を施したその顔は負の感情に歪められ醜悪に映る。
その顔はリルヴェアの王宮を見つめている。
「エリザベス様!!こんなところにいては危険です。食事をご用意しております。どうぞこちらへ」
「あ、アルバートだぁ。心配かけちゃってごめんねぇ」
「お気になさららずに。貴女にならどんな迷惑をかけられても・・・いえ、そもそも迷惑だとすら思いません」
「アルバートったらぁ。リジー嬉しい!!」
先ほどの醜い顔など想像もでないくらい華やいだ笑顔を浮かべたエリザベス。
エリザベス・レジーナ・メイティア。つい最近滅んだ王国の第一王位継承者であった女性であり、現在は数名の元貴族の嫡子たちと共にリルヴェアから指名手配を受けている。
その元貴族の嫡子の1人がアルバートである。
エリザベスと共にメイティアから逃走した男たちは彼女を盲目的に溺愛していることでも有名だ。
「・・・ねぇ、アル。リジーお願いがあるのぉ」
エリザベスが頼みごとをするときは相手の愛称を呼ぶ。
そのクセを承知しているアルバートはそれが何にも変えがたい至福だとでも言うように、彼女が望む言葉を返す。
「なんなりと申し付けてください。我が君・・・リジー」
「ありがとぉ。大好きだよぉ」
「ありがたきお言葉・・・」
「あのねぇ・・・」
アルバートはエリザベスの言葉に目を見開くが、上目遣いで自分を見上げる愛しい姫に慌てて“是”を返したのだった。