プロローグ
メイティアは歴史の深い国だった。
豊かで広大な土地を保有し、民も活気に溢れていた。
それが変わったのは67代目国王ロキルドが王座に就いてからである。
母であるエルリカに甘やかされて育ったロキルドは民を慮る心を持っていなかった。
元々民のことを格下だと軽視していた貴族と毎夜のように舞踏会を開き、贅沢の限りを尽くした。
すると当然、いかに豊かなメイティアといえど財は減る。ロキルドは自らの財産が減っていくことを危惧した。
真っ先に標的になったのは、民だ。
ロキルドは“搾り取れるだけ搾り取れ”と命令した。
民は混乱した。抵抗もした。いきなり税が何倍にも跳ね上げられたのだから。
しかし相手は王や貴族、つまり国だ。武力を持たない民の小さな抵抗など痛手にはなり得ない。実際、多少文句を言うだけでほとんど実害はないのだ。いままで平和に暮らしてきたメイティアの民には力に力で対抗しようという考えすらないなのだから。
しかし、ロキルドは不満を口にした民を不敬罪と称して捕らえ、例外なく処刑した。しかも見せしめとして広場でその様子を公開して。
そんなことが続けば民は嫌でも口を噤まざるを得ない。捕らえられれば弁解の場も裁きの場も与えられず、処刑されるのだから。
民からの人望が厚かった良心のある貴族の青年が「なぜ、あの程度の罪で処刑なさるのか!」とロキルドに異議を申し立てたという。
王は一言「目障りだから」と答えたそうだ。
その後その青年を見かけた者はいない。
こうしてメイティアはたった3年で腐敗し、疲労していった。
それが他国の侵略を許すことになろうとも知らずに。