我が社の社長の膝の上にレッサーパンダがいます。
この会社には、真面目で優しく社員の相談事も親身になって聞く。
見た目も清潔感があり、社員から慕われる。そんな社長がいた。
いわゆるイケオジだ。
名前は篠崎すぐる(しのざきすぐる)(52)。
愛妻家で子どもが三人いる。
ある日。
会社の朝礼で、社長は真剣な表情でこう言った。
篠崎「皆んなに相談がある。」
社員達も真剣な表情に変わる。
篠崎「このオフィスでレッサーパンダを飼いたいと思う。」
紫雨(24)(女性)「れ、レッサーパンダ?」
女性社員が聞く。
社長はふざけている様子はなく、至って真面目な顔をしている。
篠崎「ああ、一週間ほど試しに飼ってみて、社員のみんなに感想を聞きたい。」
日野(22)(男性)「なぜレッサーパンダなんですか?」
篠崎「可愛いからだ。」
日野「かわ・・・。」
社長のレッサーパンダ好きは周知の上だ。
何故ならボールペンやマグカップ、ネクタイピンまでレッサーパンダだったから。
篠崎「アレルギー反応が出た場合はすぐに報告するように。」
「「は、はい。」」
こうして我が社には、三匹のレッサーパンダが来ることになった。
レッサーパンダが来た当日。
レッサーパンダ達はオフィスの中を自由に歩き回っていた。
給湯室、廊下、休憩室、など至る所で休んでいる。
神楽坂((37)(女性)「社長、レッサーパンダって思ったより大人しいですね。」
篠崎「そうだな。」
神楽坂「触ってもよろしいんですか?」
篠崎「嫌がらなければな。何事もレッサーパンダ優先だ。」
神楽坂「分かりました。」
どんだけ好きなんだ。レッサーパンダ。
それから二日後、一人の女性社員が自分のお腹を押さえながら椅子に座っていた。
紫雨「いたたっ・・・。」
篠崎「紫雨さん、どうした、大丈夫か?」
紫雨「ちょっと・・・お腹が痛くて。今日は酷いみたいで・・・。」
篠崎「薬はあるか?」
紫雨「さっき常備薬を飲みました。」
篠崎「そうか。無理はするな。辛かったら早退してもいい。」
紫雨「ありがとうございます・・・。」
その時だった。
ててててっと一匹のレッサーパンダが女性社員の足元までやって来た。
ぴょんっ。
彼女の膝の上に乗った。
紫雨「え?え?」
動揺している紫雨を無視してレッサーパンダはそのまま丸くなった。
篠崎「こらこら、今彼女は具合が・・・。」
紫雨「温かい。」
篠崎「え?」
紫雨「ホッカイロ忘れてしまったので助かりました。温かいです。」
紫雨は、そっとレッサーパンダの背中を撫でた。
紫雨「楽になってきたかも。」
その様子を見ていた別の女性社員が声を上げた。
雪水(22)「私も試していいですか?」
篠崎「もちろん。」
席に着き、レッサーパンダを膝の上に乗せてみる。
雪水「わぁー、あったか〜い!」
その日から、レッサーパンダ達はお腹の痛みや冷えを訴えた女性社員の膝の上にいることが増えた。
次の日。
社長が仕事をしていると、女性社員達が集まってきた。
雪水「社長!」
篠崎「どうした?」
雪水「レッサーパンダちゃん、すごくいいですよ!可愛いし!」
紫雨「私もです。お腹が痛い時に乗ってもらうと、かなり楽になります。可愛いですし!」
神楽坂「私も、体が冷えた時にもいいですね。それと可愛いので。」
皆んなすっかりレッサーパンダが気に入ったらしい。
篠崎「ふむ、それはいい案だな。」
神楽坂「え?」
篠崎「今までは、痛み止め、生理用品は自由に使っていいことにしていたが・・・。」
篠崎は三匹のレッサーパンダを見る。
篠崎「レッサーパンダも、援軍に加えてもいいかもしれないな。」
紫雨「本当ですか!?」
雪水「援軍って!心強過ぎますって。」
篠崎「レッサーパンダ達が居心地悪そうならすぐに辞めるつもりだったが、そういった様子もない。かなりくつろいでいるようだしな。ホッカイロも配置するようにしよう。」
紫雨「ありがとうございます!社長のおかげでだいぶ助かってますよ。」
雪水「そうそう!私もです。」
別の社員も賛同する。
神楽坂「社長って、私達の不調にもちゃんと真面目に向き合ってくれますよね。」
雪水「信頼できます!」
すると社長は、少し照れくさそうに人差し指で頰をかいた。
篠崎「昔、妻の生理が酷くてな。」
紫雨「え、そうなんですか?」
篠崎「今は安定しているんだが、
若い頃はよく看病していたんだ。その経験を、少しでも活かせればと思っただけだよ。
女性は本当に大変だ。」
雪水「さすが社長!」
紫雨「愛妻家ですね。」
神楽坂「素敵だと思いますよ。」
篠崎「コホンッ。大人をからかうもんじゃない。」
社長は困ったように笑った。
一週間の研修を経て、
我が社では正式にレッサーパンダを飼うことになった。
もちろん、全員、くしゃみや鼻水などのアレルギー反応がないかも確認し、
衛生面の完備、飼育環境についてもきちんと整えた。
正式に飼うに従い、三匹のレッサーパンダに名前も付けた。
体は小さめ穏やかで甘えん坊な「シュガー」。(メス)
無邪気で好奇心旺盛な「ポップ」。(オス)
ほっぺモチモチご飯大好きな「大福」。(オス)
最初は戸惑いを見せていた社員も、
今となってはレッサーパンダの可愛さや癒し力に魅力されている。
そんなある日の午後。
唐沢が椅子に座ったままお腹を押さえていた。
唐沢(26)(男性)「いつっ・・・。」
篠崎「どうした?」
唐沢「すみません、お腹壊したみたいで・・・。さっきトイレ行ったんですけど治らなくて・・・。」
篠崎「それなら無理せず休むといい。」
唐沢「でも、仕事が・・・。」
と、その時。
ててててっと大福が歩いてきた。
ぴょんっ!
唐沢の膝の上に乗ると、くるんっと丸くなる。
唐沢「え?」
唐沢はそんな大福の背中を撫でた。
ふわふわの毛。
ポカポカの体温。
唐沢「あったかい・・・。」
篠崎「しばらくそのままでいてみたらどうだ?」
唐沢「はい。」
数分後。
椅子に座っている篠崎の元へ唐沢が駆けて来た。
唐沢「社長!」
篠崎「どうした?」
唐沢「大福効果で良くなりました!」
篠崎「そうか、それは良かった・・・ん?いたた・・・。」
唐沢「どうしたんですか社長!」
篠崎「先程、お茶を飲み過ぎてな。
どうやら俺もお腹を壊してしまったようだ。」
唐沢「あらら・・・。」
唐沢の後ろを付いて来ていた大福がぴょんっ!と社長の膝へ乗った。
唐沢「大福、付いて来てたのか。」
唐沢が大福を抱っこすると篠崎の膝の上に乗せた。
篠崎「お?」
篠崎が大福を撫でると嬉しそうにスリスリしている。
か、可愛い!!!ぐっ・・・しかし、腹は痛いな。
唐沢が席に戻った後。
おや?良くなってきたぞ。
レッサーパンダを再び撫でる。
は〜、癒される〜。
ふむふむ、これはなかなかにいいアイデアだったな。
満足気に微笑む篠崎であった。
そして、新年度。
元気いっぱいな新入社員が入ってきた。
新入社員1(男性)「今日からお世話になります!」
新入社員2(男性)「よろしくお願いします!」
緊張と好奇心が混ざったような表情でオフィス内を見回す新入社員。
そして研修がスタートしてすぐ。
新入社員1「あれ?」
社長の姿が目に入り、先輩の神楽坂に質問する。
新入社1「あのー・・・。」
神楽坂「どうかした?」
新入社員「社長ってすごいお腹ぽっこりしてますね。」
神楽坂「あれはね。見てて。」
新入社員1「え?」
社長の膝掛けが何やらもぞもぞと動いる。
新入社員1&2「「ひ!?」」
ひょこっと茶色い耳。
そしてレッサーパンダの顔が現れた。
「「わ、わぁぁぁぁぁ!?」」
新入社員2「お、お腹からレッサーパンダが出ましたよ!?」
新入社員1「な、何なんですかこれ!?」
神楽坂「ふふ。我が社ではね、レッサーパンダを三匹飼っているの。」
新入社員2「飼ってる!?」
新入社員1「あ、あそことあそこにもいる!」
新入社員2「ほんとだ!!」
神楽坂「あの子達はね、腹痛や冷えに悩む社員を癒やしてくれるのよ。」
新入社員1「それでアレルギーあるか面接で聞いたんですね。」
その時。
レッサーパンダ三匹が、てててっと新入社員のところまで歩いてきた。
一列に並び、二人を歓迎してくれているらしい。
新入社員1「か、かわいい。」
新入社員2「うんうん。」
神楽坂「そうでしょう?この子がシュガー、この子がポップ、この子が大福よ。」
新入社員1「名前まで可愛い!触ってもいいですか!?」
神楽坂「ええ、レッサーパンダが嫌がってなければね。」
新入社員は、恐る恐るレッサーパンダの背中を撫でた。
新入社員1「ふわふわだ〜。」
新入社員2「ここで働くの楽しみになってきました。」
神楽坂「そう言ってもらえて良かったわ。」
それから数ヶ月。
新入社員はすっかりレッサーパンダがいる生活に慣れた。
お腹が痛い日は、レッサーパンダを膝に乗せて。
そして昼休みには、社員達と三匹のレッサーパンダが一緒に休憩する。
そして今、我が社の社長の膝の上にレッサーパンダがいる。
レッサーパンダは今日も社員達の心を癒していた。




