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episode4 滑動再会・上

※この話は、<side来島>と<side平瀬>の2つの視点で書いています。ページ上部の表記にしたがってごらんください。


<side来島>



 7:46分。


「ごっこ遊びのはじまり、はじまり」


 耳元で声がした。

 流石に驚いて音源へ顔を向ける。周りは名前も知らない警察官で埋めつくされていて、俺には誰の声かまではわからない。そもそも人付き合いが狭いからだが、反省するような点でもないだろう。


 ただ、これ以上考える前に、ことは起きた。


 銃声……!


「何処だッ!」

「誰が発砲した!?」

「外か!?」

 鷹鮠警視や警察官どもの怒鳴り声に呼応するように、さらに大きな音が響く。

 こんどは爆発音だ。床も壁も揺れるほどの。


「クソッ! 外だったか! 総員、エントランスへ急げぇッ!!」

 多少パニックになった鷹鮠の命令で、動ける奴は皆扉から飛び出していく。あとはオロオロとするだけだ。完全に、この国ではめったに聞くことのないほど爆発音にビビっている。

「………………」

 俺は"総員"の中から勝手に自分を除外し、一角の階段を駆け登り始めた。

 鼓膜が軽く痺れている。

 28階建てのビルで、ほぼ使われることの無いだろう階段。窓はないが、蛍光灯の白で明るい。

 たしか14階には、エレベーターではカードキーを必要とし、または階段でしか行けない空間がある。


 玄庭 蒼門のプライベートルーム。それを目指す。





 14階から15階の間の踊り場で、俺は膝に手をついて息をついた。壁には、シンプルたが重厚なデザインの扉。取っ手の代わりに、パスワードを入力するためのパネルがある。

 跳ね上がる心臓と荒い息切れに、やはり一気に駆け上がるんじゃなかったかと軽く反省した。ただ、エレベーターはキーがあっても使わない。階段なら、各階でエレベーターが動いているか確認出来たからだ。

「……はっ……」

 息を整えるついでに、ため息をもらす。だいぶん落ち着いたようだ。

「……調子に、のる、もんじゃ……ねぇな」

 荒い息にのせるように、言葉を吐き出した。上下に伸びる階段に声が響く。一度息を吸って、背筋を伸ばす。

 そして、パスワードによる鍵がかかった扉を――――全力で右足で蹴り飛ばした。


 あっさりと、重い音とともにゆっくり、扉は開いた。


「……そう思うだろ。犯罪者」

 部屋の中身を睨み、一歩、立ち入る。

 壁の片面全体がガラス窓になった部屋は、差し込む月明かりに照らされていても薄暗い。接待ようのテーブルやソファー、デスク、どれも高級だということは予想できた。

 その、部屋の奥、真っ正面に置かれたデスクに、それは腰掛けていた。

 侵入者。

「……足音は聞こえてただろう。隠れもしねぇのか」

 隠れると予想したんだが。

 さらに2、3歩近づき、話しかけながら目を凝らす。

 侵入者は微動だにしない長身を、黒いフード付きのマントで全身を包んでいる。顔もフードでほとんど見えないが、女のように尖った白い顎のラインが月光を受けて浮かび上がる。

 暗い部屋の中ですら、侵入者のいるところはぽっかりと穴が空いているように黒い。

 どこか物語のように、現実味のない姿だった。

「………………」

 俺は無言で間合いをつめる。背に汗がにじむ。口が渇く。

 何故だ?侵入者は威圧するどころか、一寸すら動いていない。浅い呼吸の音と、デスクのコンピュータの機動音しか聞こえないというのに。

 この違和感は――。




<side平瀬>


 静かな戦いと平行して、その戦いは華やかに滑稽。




 ふいに目の前に現れたから。

「ぇ……うぉぁいッ!?」

 思わず、ぼくはみっともなく叫んで、目の前を覆う布切れを掴みとってしまった。

「ちょ、きゃわぁんっ!」

 布ごしに甲高い声がした。女の子の声だ。

 絡み付く大きな布を必死に剥がすと、こっちに走ってくる鷹鮠警視の姿が見える。

 か、顔怖い。なんか怒ってる? 単独行動で刑事に言われたことやってたのがまずかったですか?

「君! 何をしている!? さっさとソイツを確保しろッ!」

 警視が怒鳴りながら指差す先……ぼくのすぐ後ろに、ぼくより頭一つ分小さな人影も見えた。あまりの近さにギョッとする。

 でも…………。

「へ……?」

 その子の、格好の奇抜さの方がびっくりした。


――――……ピエロだ。


 ふりふりはではでな水色、膨らんだ袖と首にも豪華なフリル、尖った靴、白い化粧は薄く、ピンク色の緩いカーブを描いたセミロングの髪。

 まごうことなき、ピエロだ。

 何より印象に残ったのは、ぱっちりとした目と、星型のペイントで……正直、かわいい。

 イラストとかで見るような不気味なやつじゃなくて、マスコット人形みたいだ。

「コラァッ! 何をボーっとしてる!? さっさとその"化け物"を」

「ば・け・も・のぉ?」

 鷹鮠警視の怒声に、ぼくよりもピエロ(?)が反応した。

 びっくりしたように見開いた目とすぼめた口が、キューッと三日月型に縮む。

「……うふっ、ばけもの、かぁ、うふふっ」

 笑い出した。あ、声もよく聞くとかわいい。子供かな? いくつだろう。

 なんて、現実に追いついていない頭で考える。

「おじさん、ヨユウなぁいんだ。こえ、うらがえって、かぁわいそ」

 ピエロは、細い指をひらひらと振ってから、急にしゃがみ込んだ。

「えっ」

 相手がピエロの格好の不審者だということも忘れて、思わず手を差し延べる。

「えっと……だ、大丈夫?」

 間抜けな声で話しかける僕を見て、ピエロはまたきょとん、とぼくを見上げた。

「って、コラ平瀬ッ!!」

 さっきの先輩の声がする。

「す、すみませんっ! でも、怪我してたら大変じゃないですか!」

 刑事なら、絶対助ける! そんな確信があって、ちょっとだけ強い姿勢になれた。

「この子が犯行予告の犯人だとしても、怪我させちゃダメです! ダメでしょう!?」

「バカッ、違う! 早くそこから……」

「だって! まだこんな」

 子供なのに、というぼくの声は、小さな悲鳴になって消える。

 ピエロが、その脚力だけで思いっきり飛び上がったから。

 10m、くらい。

「………………! ……!!」

 声が、出ない。

 ピエロは空中で華麗にバック転を決め、かなり離れたトラックの荷台に着地した。

 トラック……そっか、気づかずに出てきたけど、ここはビルの裏、大型駐車場だったんだ。

 あ、軽く現実逃避してた。

「おにぃさん、やさしぃっ!」

 ピエロはぼくに向かって、ふんわりと、あどけなく笑う。

「でも、ちゃぁんとつかまえないと、コレ、もってっちゃうよ?」

 彼方に立ったピエロの手には……袋? サンタクロースみたいな大きな袋の口が握られている。まさか。

 もしかして。

「わ、"忘れ物"…………?」

「ビンゴォっ!」

 手足をばたつかせ、ピエロはうれしそうに笑う。

 やっぱり。

 ちょっと、かわいい。





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